【竹中平蔵の「悪名は無名に勝る」】「改革なき成長」は可能か 積極財政に合わせた構造改革に期待
今回から連載を通して忌憚(きたん)なく意見を述べます。小泉純一郎元総理からは、「悪名は無名に勝る」と言われました。悪名を覚悟して頑張ります。
高市内閣の支持率は当初から低下したとは言え、依然として高い。そうした中、内閣として初めての骨太方針が21日、閣議決定された。それに先立ち6月25日には、その骨格案が示された。これまで「責任ある積極財政」という言葉が先行し、その中身がなかなか分かりにくかったが、その姿が明確になりつつある。
まず、高市内閣の支持率の高さを確認しておこう。比較可能な就任から8カ月後の支持率は60%、これは同時点における小泉内閣支持率の77%よりは低いが安倍内閣57%より少し高い状況だ。一部に、内閣支持率は高いが自民党支持率は低い、という意見がある。しかし実態は逆であり、小泉内閣当時は党の支持率はほとんど高まらなかったのに対し、高市内閣下では数ポイント上昇している。
さて、責任ある積極財政の下で「日本を強く豊かにする」という政策に関しこれまで聞こえてきた重要なポイントの一つは、17の分野に対し官民合わせて370兆円の官民投資を行うという点だ。また、「強く豊かな日本」投資枠を別途10兆円規模で創設することも報じられている。
世界的な規模のサプライ・チェーンの見直しのなかで日本経済には追い風が吹いており、設備投資拡大によって経済活性化が進む可能性は確かにある。しかし、3つの疑問を解決していかねばならない。
第一は、日本の主力産業である自動車がターゲットの17分野に含まれていない点だ。強い産業・企業は政府の助けを必要としていない、ということなのか。同時に、政府が本当に有望な産業やプロジェクトを適切に選別できるのか、という基本的な疑問もある。
第二に、そもそも官民連携ということの意味だ。この言葉はこれまでも官僚文書にしばしば登場してきた。しかし民間の投資に関する意思決定は複雑であり、政府が旗を振っても制度的な改革がなければ容易に政府に同調できる訳ではない。
本当に必要な人材を迎え入れるため「移民法」の制定を
そして第三に、政府が投資を増やすに当たってその財源をどこに求めるのか、やがて十分な説明が必要になろう。長期金利の上昇に見られるように、市場との対話が重要な段階になる。また、積極財政を可能にするために、基礎的財政収支(国債費を支払う前の収支)の黒字化を単年度では目指さないことが議論されている。
しかし、そもそもこれまでも、基礎収支黒字化を単年度で求めたことはない。基礎的収支の黒字化を目指す必要などない、という強硬派に配慮して、曖昧表現にしたものと推察される。
ここで重要な疑問は、重視する17の分野は挙げられている(これが多すぎるという批判も聞かれるが)が、全ての産業分野に共通する制度の改革問題が十分論じられていない点だ。その代表は、労働市場の改革だ。さまざまな産業でAIを活用した経営改革が期待されるが、その際現状日本の厳しい解雇規制(1979年の東京高裁判例に基づく)の下で思い切った経営改革は容易ではない。
また期限を決めて研究開発を進める場合、一定の期間を超えると長期雇用を義務付けている現状の制度は、大きな妨げになる。労働市場改革の重要性は以前から言われているにも関わらず現内閣で十分な議論がなされている形跡はない。
また、今の経済のボトルネックである労働力不足に関して、外国人労働力の活用も重要になる。そのためには、本格的な「移民法」を制定し、厳しい条件下で真に必要な人材を迎え入れる制度作りが必要だ。ちなみに、主要国の多くは移民法(または外国人労働法)を策定している。日本政府はいまだに、移民の存在そのものを認めていない。
ライドシェア、農業など、改革が停滞していることによって、さまざまな問題が現に生じている。一昨年のノーベル経済学賞を受賞したアセモグル教授(MIT)は、制度改革の必要性を強調した。
筆者は、積極財政そのものに決して反対ではない。しかし一方で、労働市場改革や移民制度制定など、構造改革無くして経済活性化は本当に可能なのか…。高市内閣において、積極財政に合わせて構造改革の議論が進むことを期待したい。






