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【福田淳の対談闊歩】齋藤健(第3回)「やらないリスク」より「やるリスク」を取る人生 農協改革から半導体交渉、書店支援に挑む

経済産業大臣として半導体産業の再興にも取り組んできた齋藤氏。判断の軸にあるのは、「やるリスク」だけでなく「やらないリスク」も見極める姿勢だ。日本の産業競争力と経済安全保障を見据え、失敗を恐れず挑戦することの重要性を語る。さらに、書店が減少していく現状に危機感を示し、街の本屋を守るために力を注ぐ。農業から半導体、そして書店支援まで挑み続ける理由とは。

福田 見事に政界に入られて、60年ぶりの農協改革をやられて、31年ぶりに商業捕鯨再開の道筋をつけられました。常に消費者が一番大事だという信念をお持ちですね。

齋藤 経済産業省に23年勤務したんですが、同省ではだいたい2年ごとにポストが変わる。自動車を担当したり、僕の場合だと電力とか石油とかを担当したりして。すると、自分が担当する産業を強くするにはどうしたらいいのか、2年ごとに考える癖がつく。これがトレーニングとして非常に良くて、たまたま自民党の農林部会長になってTPPだ、農協改革だ、という厳しい局面に遭遇した時もその発想でしたよ。

福田 既得権益だとか、いろいろなことでうまくいかないじゃないですか。

齋藤 日本の農業について何が問題なのか。考えてみて、すぐに分かったことが人口減少です。人口って「人の口」って書くじゃないですか。口に入れて食べていただくものを生産している産業にとっては、人口が減るということは一大事なんです。

福田 僕も沖縄でファームをやっているんですけど、本当にいっぱいの土地を提供していただけるんですよ。でも、真剣にやろうと思ったら草取りや、流通まで全部大変ですよね。若者が戻るように、何かできることはないかなと思っているんですが。

齋藤 第三者の目で見てみると、人口は減って国内のマーケットはどんどん縮小して見える。そこに若者が飛び込んでくるかというと、なかなかそういう気持ちにはならない。だから、国内のマーケットが縮小するならば、海外に活路を見出す。輸出とかね。

そういう方向で舵(かじ)を切っていくと、チャレンジングなものも出てくるので、若い人もやってみようとなるのではないでしょうか。

福田 経産大臣になって、今、戦略17分野とかありますけど、先生から見た時、産業の中で一番大事なものって何ですか?

17年ぶりに大臣として経済産業省にカムバック

齋藤 どの産業も重要なんですけど、やっぱり半導体が大きいなと。これから半導体の需要って世界で激増するんですよ。データセンター、電気自動車、あらゆるものが半導体に依存する時代を迎えるんですよ。その世界で日本が押し負けるということは、何としても回避したい。

福田 そうですね。

齋藤 かつて1980年代は、世界の半導体の5割を日本が供給をしていた。そういう時代があって、その後、いろいろ紆余(うよ)曲折あって、今は1割あるかないかぐらいに下がっていると思います。この状況はやっぱり建て直さないといけない。

そういう時に、17年ぶりに経済産業大臣として古巣に戻ることになった。かつて、大臣秘書官として使っていた大臣室を、今度は大臣としてもう一回使うことになったんですね。

福田 そういうことですよね。すごい歴史ですよね。

齋藤 それで、戻ってみてどうなっているのかと見てみると、後輩たちはなかなかよくやっていた。これだけは褒めてあげたい。まず台湾のTSMCという半導体のメーカーを熊本に誘致したんですね。あれはよくやったと思いますよ。

福田 熊本、すごく好景気ですよね。

齋藤 一つ目の工場に4760億円の税金、二つ目は7320億円の税金。一つの工場に数千億円の税金を突っ込んでも、何とか日本に持ってこようって。僕の時代には考えられなかったんです。それをやりきっているでしょう。

さらには、最先端の半導体の量産工場を北海道の千歳に作ろうと。2ナノレベルの。1ナノメートルっていうのは100万分の1ミリメートル。世界最先端の半導体を量産できる工場を作ろうと、これにもう2兆円くらいのお金をかけている。

一方で、「うまくいかなかった時に誰が責任取るんだ」とか私も経産大臣の時にずいぶん言われました。確かにやるリスクはある。でも、それだけ見ていてはいけない。やらないリスクもあるってことなんですね。

本屋の減少を少しでも食い止めたい

福田 いや、本当にそうです。そっちは考えないですからね、みんな。

齋藤 やらないリスクとは何か。やらなければ何が起こるかっていうと、伸びゆく最先端の半導体部分はすべて、中国、韓国、台湾、アメリカなどに取られてしまう。それは日本の産業界のモチベーションにもつながるし、経済安全保障上も非常によろしくない。

だから、これからの時代はやっぱり経済安全保障にお金をかける時代にならざるを得ないですよ。千歳のプロジェクトは、やるリスクと、やらないリスク、どちらを取るかっていう選択の問題であって、このプロジェクトがうまくいくか、いかないかというだけで見てはいけない。

私はやるリスクの方を取りたいと言ってきたんだけれど、いずれにしてもこれは経済産業省の存亡をかけたプロジェクトだと思うので、後輩たちにはしっかりやってもらいたいと思います。

福田 経産省は街の書店を救うということで、減少する街の書店を文化創造基盤と位置づけ、「書店活性化プラン」(2025年6月)で支援に取り組んでいます。僕なんか、本大好き人間なので本屋さんがなくなっていくのが寂しいですね。どうすれば、みんなもっと本を読んでくれるようになりますか?

齋藤 もともと活字離れが根底にあると思います。そこにAmazonが出てきて、送料無料でどんどん本を買えるようになって、「本屋はいらないのではないか」ということになってきた。でも、Amazonは本屋の代替にはならない。ネットで本を買う時は自分の興味、関心に沿った本が次々とお勧めに出てきて、人間の関心を絞り込む方向に行ってしまうんです。

でも、本屋っていうのは、ふと手にした本が新たな発見に導いてくれる。本屋は視野を広げる方向に行くので、ネットとは別物なんですよね。だから、Amazonと本屋、両方が存在している世界が健全なのですが、本屋だけがなくなっている。これはよくない。なんとか少しでも食い止めたい。

本屋の素晴らしさを知らずに育っていいのだろうか?

福田 今、Netflixが話題になっていますけど、僕はフジテレビ、日本テレビ、TBS、テレビ朝日など地上波は大事だと思っているんです。なぜなら、これを見たいっていってアクセスできるのがNetflixで、自分が見たいものだけにフィルターバブルがかかってしまう。

テレビでNHKのニュースを見ていたら自分に関心のないものが流れてくる。それと本屋さんに行くという行動は一緒だと思うんですね。だから、プルじゃなくてプッシュ型の環境にしていかないといけないんですよね。

齋藤 私は自民党に議員連盟(※街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟)を作って、本屋さんをなんとかサポートしていこうといくつか提言しています。今、全国の3割の市町村に本屋が一店もない。だから「一村一書店運動」というのを展開したいと思っているんです。

福田 市町村の3割もないんですか?

齋藤 一店もない市町村が3割になっちゃった。そこで生まれた子どもは、本屋の素晴らしさどころか、本屋の存在すら知らずに育っていく。それで本当にいいのかと。だから、どんな市町村でも一店ぐらいは本屋があるように、何とか市町村で頑張ってもらえないかっていう運動を提唱しているんですよ。でも、正直あんまり広がっていないんだけど。

福田 TSUTAYAがカフェと複合型でやったり、下町でパン屋と本屋を一緒にやったりしたらものすごく人が集まったっていうんですね。だから、本屋だけで難しければ、カフェも。

齋藤 あと、ビールもね(笑)。

福田 はい。いろいろな組み合わせで本屋さんを復興させる方法はありますね。

齋藤 最初、「経済産業省でやるんですか?」「何で本屋だけ支援するんですか?」「本屋は文化の分野だから、経産省ではないでしょう」とか言われたんだけど、私が大臣の時に、大臣直轄の「書店振興プロジェクトチーム」を省内に作った。今、後輩たちが頑張ってくれています。

福田 もし私が支援できることがありましたら、やらせていただきたいと思います。

齋藤 ぜひ。

【福田淳の対談闊歩】齋藤健(第4回)100%関税の危機と3年4カ月の浪人生活 「自分は終わった」と何度も思った日々 に続く。23日18時公開予定。

《プロフィール》
齋藤健(さいとう・けん)1959年東京都新宿区生まれ。1983年東京大学経済学部卒。卒業とともに通商産業省(現・経済産業省)に入省。1991年ハーバード大学大学院に留学。1994年通商政策局米州課で日米間の自動車交渉を担当。1999年に深谷隆司通商産業大臣の秘書官、2004年上田清司埼玉県知事の招聘を受け埼玉県副知事に就任。2006年衆議院千葉7区の補欠選挙で自由民主党の公募に応募、出馬するも落選。2009年衆議院議員総選挙の比例南関東ブロックで初当選。2017年第3次安倍第3次改造内閣で初入閣、農林水産大臣に就任。2023年経済産業大臣に就任。2026年2月の衆議院議員総選挙で7選。好きな作家は司馬遼太郎、塩野七生ほか多数。公式YouTubeチャンネル「さいとう犬」を配信中。

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