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研究者はキャリアを重ねると「破壊的研究」から遠ざかる傾向 米ピッツバーグ大が1250万人超を分析

研究者は経験を積むほど、既存の知識をうまく組み合わせられるようになる。一方、古い考えを置き換えるような「破壊的」な研究からは遠ざかる可能性がある。このような結果が、米ピッツバーグ大学などの研究グループの調査結果から明らかになった。

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1960年から2020年までに論文を発表した1250万人超の研究者を分析し、研究者のキャリア年数と科学的イノベーションの関係を調べた。

研究成果は2026年5月7日付で米科学誌「Science」に掲載された(https://doi.org/10.1126/science.ady8732)。研究者のキャリア長期化は、科学の創造性をどう変えるのか。

研究チームは、Microsoft Academic Graphを用いて、3本以上の論文を発表した研究者を対象にした。ここでいう年齢は、生物学的な年齢ではなく、最初の論文を発表してから何年たったかを示す「学術年齢」だ。

分析では、研究者が引用する文献の古さ、新しい分野への進出、論文の新規性、破壊性などを測定した。新規性は、これまで結びつきにくかった知識領域を組み合わせているかで評価した。一方、破壊性は、後続研究がその論文を引用する一方で、その論文が依拠した先行研究を引用しなくなるかどうかで測った。つまり、既存の流れを引き継ぐのではなく、新しい研究の流れに置き換えたかを見る指標である。

(中見出し)

キャリアを重ねるほど古い文献を引用する「ノスタルジア効果」

分析の結果、研究者はキャリアを重ねるほど古い文献を引用する傾向が強まった。平均すると、キャリアが1年進むごとに引用文献の平均年齢は約0.09年、つまり約1カ月古くなった。40年のキャリアでは、引用文献リストが約3.6年古くなる計算だ。

研究チームはこれを「ノスタルジア効果」と呼ぶ。研究者の知的基盤は、キャリア初期に出会った文献に強く影響される。実際、研究者が最も頻繁に引用する論文は、平均すると本人の最初の論文発表の約2年前に出たものだった。

ただし、年齢を重ねることが創造性を単純に下げるわけではない。経験を積んだ研究者は、既存の知識を組み合わせるタイプの新規性では高い傾向を示した。長い経験によって、離れた知識を結びつける力が増すためだと考えられる。

一方で、新しい研究トピックを探索する度合いはキャリア年数とともに下がり、破壊的な論文を生み出す確率も低下した。論文中の図では、40年以上のキャリアを持つ研究者6万4385人を対象に、トップ10%に入る破壊的論文を出す確率が、キャリア年数とともに各分野で下がる様子が示されている。

高齢化は個人だけでなくチームにも影響

研究チームは、研究者の加齢が個人の問題にとどまらないことも示した。年長の研究者が主導するチームでは、引用文献が古くなる傾向が強かった。逆に、若い研究者が責任著者になる場合や、対面での共同研究に移った場合には、より新しい文献を引用する傾向があった。

査読の影響も調べた。査読者の実年齢は分からないため、分野ごとの平均的なキャリア年齢を代理指標として使ったところ、査読を経て出版された論文では、分野の査読者年齢が高いほど、プレプリント段階より古い文献を多く引用する傾向がみられた。ただし、この結果は個々の査読者の行動を直接測ったものではなく、慎重に読む必要がある。

さらに、米国で1994年に大学の定年制が廃止された影響も分析した。英国を比較対象にすると、制度変更後の米国では引用文献の年齢が相対的に上がった。研究チームは、シニア研究者の滞留が進むと、科学全体が古い文献に依拠しやすくなる可能性があるとみている。

この研究は、年長の研究者の価値を否定するものではない。経験豊かな研究者は、知識を統合し、分野を整理し、若手を育てる重要な役割を担う。一方で、科学の進歩には、既存の考えを組み合わせる力だけでなく、それを置き換える力も必要だ。

研究チームは、若手研究者が代表者や責任著者として研究を主導しやすい環境、年齢や地位の差が固定されにくい共同研究、リスクの高い研究への支援が重要だと指摘している。高齢化する科学に必要なのは、経験を排除することではない。経験の統合力を生かしながら、若い研究者が既存の枠組みに挑戦できる余地を残すことだろう。

文/吉田光男 内外タイムス

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