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ドラマVIVANTの「別班」はどこまでリアルなのか、元自衛隊員が見た客観的な印象

自衛隊退職者は、時々「ベッパン」知ってますかと聞かれる。それも遠慮がちに小声で聞かれる。

知らない人は知らないのであろう。話題のTBS系連続ドラマ「VIVANT」を知っている人は、にやりと笑って反応する。知りうる立場の人は、守秘義務があるので「わからない」と答えるが、自衛隊時代に聞いたことがある人は「聞いたことはある」という回答になる。私はこのくちだ。

2023年7月から始まった、このドラマは大変面白い。第1シリーズ(全10話)は終わっているが、Netflix等で見ることができる。現在は第2シリーズが放送中だ。

現在進行中のストーリーは世界中を舞台とした、どんでん返し連発の展開。自衛隊的な眼で見てみよう。

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陸幕2部別室がモデルか

かつて陸上自衛隊の司令部、陸上幕僚監部(陸幕)には通信情報等を担当する通称「2部別室、2別」という部署があった。金大中(キム・デジュン)拉致事件、ソ連戦闘機による大韓航空機撃墜事件等で、しばしば話題となった組織だ。ごく普通の自衛隊組織として認識されていた。

半世紀以上の組織改編を経たが、一時期の陸幕に、いわゆるヒューミント(人間を媒介させる諜報活動)を担当する部署があり、特別班といわれたとの証言があり、この辺りをドラマ原作者が「別班(ベッパン)」としたものだと思う。

ここで2部という呼称が出てくるが、米軍をはじめ西側主要国で軍隊組織を呼称する場合、次のようなナンバリングをする(GはGENERALの略)。

G1:総務(監理)・人事
G2:情報
G3:作戦
G4:兵站・補給
G5:その他 技術・研究開発など

陸幕2部とは情報部門の担当部署を表す。ただし、情報という言葉が一般的でなかった時代は、調査という呼称を使っていた。情報収集・分析と保全をつかさどる部署であった。

我が国の陸上、海上、航空の各自衛隊ではそれぞれ独自の呼称を使っていたが、おおむね上記の分類になっている。個別の正確な呼称については理解の妨げになるので省く。

情報の種類と時代

VIVANTでは主として、サイバー空間での活動と、ヒューミントによってドラマが展開していく。第1部からその存在はあったが、第2部で「AIハヤト」と名付けられるスーパーコンピューターAIが登場する。

コンピューターとAIの違いは、簡単に言うとコンピューターは与えられたアルゴリズム(手順・計算式)で解を導き出すが、AIはデータをもとに最適解を提示し、さらに学習していくところだろう。

ではこのデータはどのように収集・蓄積されるのか。多くは、一般公開されているデータが基盤になっているが、VIVANTで扱われているものは、通常は秘密事項である軍事的基礎データもある。

軍事、外交等に関して、あらゆるセンサーを介しての情報が収集・分析・蓄積されてAIのデータとなる。

軍事的データの取得の代表的な手段として、ELINT(Electronic Intelligence:電子情報)、COMINT(Communications Intelligence:通信情報)、HUMINT(Human Intelligence:人間を介しての情報)等がある。

ELINTセンサーとして、航空自衛隊ではYS-11、C-1を改造した電子情報収集機を運用していたが、最近ではC-2輸送機への換装が行われている。カモノハシの嘴に似た機首形状のものだ。

一般国民の目に触れるCOMINTセンサーとしては、「象の檻」といわれる、円形に配置された巨大な電波アンテナ群が知られている。これはECHELON(エシェロン)と呼ばれる情報システムのセンサーとされているものだ。「ファイブ・アイズ」と呼ばれる米・英・加・豪・新(ニュージーランド)各国で共有された情報のうち、通信情報収集のセンサーとして、世界規模で構成されたものといわれている。

いわゆるスパイ映画で有名なものには、007シリーズ、MIシリーズなどがあるが、CIA(米国中央情報局)の長官以下が犯罪に関与することを題材としたものに、ジェイソン・ボーンシリーズがあり、ECHELONらしきシステムが描かれる。通信情報のみならず、メール、銀行口座、監視カメラ情報などあらゆる情報も取得できるものとして描かれている。

東西冷戦時代には、地上、機上センサー等から取得できるアナログ情報が主体であったが、次第にデジタル情報に、センサーとしては、衛星情報が重きをなしてきている。しかし、各国は地上を含むあらゆるセンサーからの情報を統合して運用できるよう努力を行っているものと考えられる。

また近年は、サイバー空間の情報を取得する技術、監視カメラ等、画像情報の取得も図られている。時代はアナログ・地上から、デジタル・衛星・サイバーへと変化してきている。

別班メンバーの経歴と自衛隊の教育システムを対比

VIVANTに登場する別班メンバーの画面に出てくる経歴から見ると、バルカ共和国に派遣された熊谷一輝、高田明敏、廣瀬瑞樹、和田貢はいずれも国内外の一般大学卒業後、自衛隊に入隊している。2年程度で除隊(退職)し、別班メンバーとして、大学院等に入学履修後、商社、メーカー等で勤務のまま、別班としての任務についている設定である。

経歴等の見える画面をよく見ると、4名は陸上自衛官であり、階級は2尉(中尉)ぐらい、明確ではないが画像の記章から、空挺、格闘技などの資格をもつものとみられる。

実際の自衛官の教育訓練課程等から考えると、最初、幹部候補生学校に約9カ月入校するため、残り1年3カ月程度でいろいろな特技を身に着けることになるが、少し無理筋のように思う。

ドラマ原作者は、自衛隊を除隊(退職)しないと、大学院へ行ったり、企業へ勤務することができないと思っているようだが、自衛隊の教育システムでは、自衛官の身分のまま、国内外の大学院等に入学することは一般的である。

企業に勤務することも、自衛官の身分のまま、企業研修として1年程度派遣されている。大学就学、企業研修の期間に、並行して別途、特別訓練を受けるのであれば、情報・工作の特技を身に着けることは可能だ。

ドラマの商社「丸菱商事」は微妙なネーミングであるが、実際商社への派遣人員は、先輩後輩のきずなも強く、長く団結力を発揮するケースもある。

経歴から見ると、主人公の乃木憂助のケースは違和感のないもので、特に高校時代に戦闘能力に関する実力を獲得しているため、特段、自衛隊での教育訓練を受けていなくても、ドラマの各場面でフィジカル・技能的能力を発揮し、活躍することを裏付けるものとして納得できる。また、彼が大学院で就学した東京大学に限って言うと、自衛官の身分のままの入学は難しいと考えられている。乃木の後輩である黒須駿は大学卒業後、自衛隊に入隊しており、退職かどうかは明確ではないが、大学院修了後、資源開発会社に籍がある。特に違和感はない。

各自衛隊の教育課程との比較で、自衛隊幹部としての基本素養として、最も重視されている指揮幕僚課程(陸:CGS、海・空:CS、旧陸・海軍大学に相当、1尉、3佐)の履修は必須であるが、この経歴は見られない。

櫻井里美は別班司令か司令官か

自衛隊では、司令と司令官では、まったく役職の重みが違う。特に陸上自衛隊では、司令という呼称は少ない。駐屯地司令という役職があるが、所在部隊の誰かが兼務することがほとんどだ。

一方、司令官は大きな部隊、集団などの長で、陸上自衛隊では陸上総隊司令官のみであり、陸将が配置される。海上自衛隊では、自衛艦隊司令官(帝国海軍の連合艦隊に相当)、水上艦隊司令官、航空集団司令官、潜水艦隊司令官など、航空自衛隊では航空総隊司令官、航空支援、航空教育、航空開発実験の各集団などの長が司令官だ。いずれも海将、空将の配置だ。

VIVANTで櫻井里美は司令と呼ばれているが、自衛隊で、司令官を司令と呼ぶことはない。

櫻井里美が司令であれば、陸将補クラスの、情報組織指導者(指揮官)ということになるが、司令官であれば正に陸上総隊司令官に肩を並べるクラスに位置づけられる最高幹部ということになる。

なお、ドラマで時々出てくる「特殊作戦群」は陸上総隊司令官の直接指揮下にある。

別班の活動で見えてくる戦いの実相

VIVANTは架空のドラマであるが、戦いというものの本質が示されているので興味深い。

・臨機応変の対応

戦いの現場で要求されるものに「臨機応変」がある。敵はどのような手段で向かってくるかわからない。対応するには、これだけはやってはいけないことのみを決め、それ以外はすべて選択肢とすることが重要だ。これがよく言われる「ネガティブリスト」である。

現在の自衛隊は海外に派遣された場合、これとこれはやってよい、それ以外は基本的にはできない、という「ポジティブリスト」である。これでは、実際の戦いは無理であることがわかる。

・クイックレスポンス

軍組織は、命令の実行に関して、迅速な指揮、行動を行えるよう構成・訓練されている。しかし、個々の事象が「国益」に合致するかについては現場指揮官に判断できかねる事態が起こる。

そこで、行動する者に指示を与える者は、迅速な対応をする必要がある。政治的判断の遅速が、現場戦闘員の生死を決定する。

文/島本順光 内外タイムス

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