森友事件から10年(第3回)映画・ドラマの「虚構」と現場の「リアル」、トカゲのしっぽ切りに遭った官僚たちの悲劇
第1回、第2回にわたり、森友学園問題の「本当のゼロの瞬間」と、国・大阪府が演じたゆがんだ行政の構造について、最初の告発者である豊中市議会議員・木村真氏の言葉を記録してきた。
2017年の本格提訴による事件発覚から、来年(2027年)でちょうど10年という大きな節目を迎える。最終回は、疑惑の裏に隠されていたもう一つの行政の闇、トカゲのしっぽ切りに遭った官僚たちの悲劇、そして籠池陣営を支えた保守人脈の「軽薄な正体」についてさらに踏み込む。
そしてインタビューの最後、静かな定食屋で筆者と2人で膝を突き合わせてたどり着いた、メディアの虚構に対する木村氏なりの「答え合わせ」をお届けする。(内外タイムス・角田裕育)
森友事件から10年(第1回)発掘者・木村真氏が語る「巨大なドミノの最初の一枚が倒れた瞬間」
黙認された異常な保育園運営と「お友だち」の輪
――第2回では、松井一郎知事(当時)による私学認可基準の引き下げという強烈なゆがみについて伺いました。森友学園をめぐっては、小学校の設置認可だけでなく、既存の施設でもおかしな運営がまかり通っていたそうですね。
木村真氏(以下、木村) 社会福祉法人で森友学園が運営しとった保育園「肇國舎(ちょうこくしゃ)」が塚本幼稚園の近くに(大阪市淀川区に)あったんやけど、ここの運営が完全におかしかったんよ。認可保育園いうたら11時間運営が普通で、19時まで開けとかなアカンルールなんよね。ところが、森友がやっとる保育園は朝の9時から夕方5時までしか保育をやってへんかった。これやったら、9時以降に働く人にとっては9時前に預けられへんし、5時まで働いてる人にとっては5時前に迎えに行かなアカンから、実質使い物にならんわけやんか。
困り果てた保護者が大阪市に苦情を言うたら、市は「他の保育園に転園したらどうですか」言うてずっと黙認してきよった。それが2017年の2月に森友問題が噴出して以降、大阪市は初めて知ったみたいな顔して「指導します」と言い始めよったんや。この問題が表沙汰になるまで、維新の会は森友学園のどっぷり応援者やったわけよ。
学校の認可基準は松井一郎、土地の売買は国の安倍政権が関与しとったということで、松井と安倍が完全に「車の両輪」になってたんやね。また、安倍首相としては公立学校でもああいう教育をやりたかったんとちゃうかな。森友学園は言わばモデル校。ああいう学校を私立でどんどん増やしていきたかったんやろね。
――ただ憶測でしかないのが苦しいところですね。
木村 だけど安倍昭恵氏が関与しとったんはハッキリしとることやからね。普通の小学校に行ったら(子どもたちが)駄目になってまうから、そのために小学校を作ろうとした。行く行くは中学校も作りたい、となってたんやから。
それから認可基準を引き下げるいうのも、それまでは財務的に借り入れ金があってはならんとか、土地は自前のものでなきゃアカン、借地は駄目っていうものやったわけよ。それを何のために引き下げなアカンかったのかっていう話。学校を作るために借り入れ金をしても良いことになって、その上、借地を使っても良いことになった。普通に考えたら当たり前の基準(防衛策)やんか、学校が閉鎖になったりしたら大変なんやから。それを松井知事は「規制緩和や」言うて許認可基準を引き下げたんや。森友のためだけにね。
責任を押し付けられた官僚の悲劇と、現場に来たジャーナリストたち
――森友問題を終わらせないというのはどういうところがポイントですか?
木村 政治家が誰も責任を取ってへんところや。責任を取らされたんは国税庁長官の佐川(宣寿)氏と、自殺をしてもうた近畿財務局の職員だけ。彼らは所詮、公務員試験を受けただけの公務員(役人)やからね。
「役人が勝手なことをしおった」と政治家は逃げるけど、テレビ東京で顔出し名前出しで取材に応じた近畿財務局の元職員に言わせたら、公文書を改ざんするなんて役人の判断だけでできるわけがあらへん、絶対に政治家の圧力があったはずやと言うとったな。彼らによると、現職の時分に政治家からの圧力はあったし、ある程度自分らの裁量でやることはあったけど、「一線は越えられへん」と。忖度(そんたく)だけで法令に触れるような改ざんまでは絶対せえへんということ。2月17日に安倍首相が「関与していれば、総理も国会議員も辞める」と言うた、あの後に行われた改ざんやというのはハッキリしとる。誰かが具体的に指示を出したとしか考えられへんのよ。
――メディアの初動についての話が第1回でもありましたが、提訴した後は一気に各社が現場に押し寄せたわけですよね。
木村 そらもう、火がついた後は凄かったで。他のジャーナリストは沢山来たけどな、新聞や雑誌も。でもな、最初は小さな記事を共同通信が出して、本格的にスクープとしてドカンと出したんは朝日とNHKやな。……そういえば、あの望月衣塑子さんと大阪の現場の取材であったかなあ? 確かに大阪に取材には来とったんやろうけど、ワシ個人としては一対一でしゃべった記憶が全くないんよね。大勢おった記者の1人やね(笑)

ネット右翼化した最高権力者と「なんちゃって右翼」の軽薄さ
――そもそも、安倍首相(当時)と森友学園、あるいは籠池夫妻との接触はいつ頃から始まったのでしょうか。
木村 2009年から2012年の自民党の下野中やろね。森友学園・塚本幼稚園で講演する予定やったのが、総裁選挙でドタキャンになった。そこで、安倍昭恵氏が代理で来たっていうわけ。そんなに長い付き合いではなくて、せいぜい5~6年の付き合いやろね。一緒に何度も飯を食いに行くような関係ではなくて、あくまで森友学園の教育は素晴らしいっていう点で(思想的に)一致しただけ。世間が思うほど親密な「お友だち」やない。ただ、籠池夫妻が安倍首相を熱狂的に絶賛しとって、それを言われた安倍夫妻も気分が良かった、というだけの話。
――安倍首相の応援団は本当に右翼的なのか?
木村 本当の純粋な右翼やないと思うわ。皇室一家の写真を額縁にも飾らんと画びょうでペタペタ張り出したり、教育勅語を子どもらに意味も教えんと暗唱させるなんて、純粋な思想を持った右翼からしたら不敬極まりない話やんか。単に嫌韓嫌中を叫んどるだけの、いわば「なんちゃって右翼」、ネトウヨ(ネット右翼)のノリよね。ほんま支離滅裂よ。
後に「日本会議の研究」の著者である菅野完さんが籠池理事長に「どうしてああいう教育をしようと思ったんや?」ってたずねたら、「ああいう教育をやれば(保守派に)受ける(ウケる)と思った」言うとったらしいわ。ああいう愛国パフォーマンスをすれば、日本中から子どもが集まって商売になるやろうという、極めて軽薄な発想。正式な右翼思想のない軽薄なナショナリズムが最高権力と結びついた結果が、この事件を生み出したんやと思うけどな。
森友学園事件の“ヒロイン”へのエール
この取材にあたって、筆者と木村氏は久々に氏の事務所近所で、2人で昼食を食べた。世間を揺るがしたあの森友学園問題の本格的な提訴から、来年(2027年)でちょうど10年という大きな節目を迎える。今なお語り継がれる大事件だが、世間では、望月衣塑子記者が「森友問題を暴いたヒロイン」として映画やドラマのモデルになり、今やスポットライトを浴びている。
だが、その“ヒロイン”は、木村氏の記憶によると、豊中の現場で最初にファクトを掘り起こした木村氏の事務所へ直接取材に来たことは一度もないという。覚えていないぐらいだから、少なくとも、深く突っ込んだ話をしていないことは間違いないだろう。各社のジャーナリストが怒とうのように押し寄せる中で、木村氏の記憶の中では「一対一でしゃべった記憶はない、たくさんいた記者の1人」という静かな現実。
当然、こうして2人で昼食を食べながら、本音を語り合ったことなど一度もないのだ。木村氏も、彼女をモデルにしたあの映画は観ている。だからこそ、メディアが作る華やかなさに対して、木村さんと私は久々にこのインタビューのために木村さんの事務所近所の定食屋で食事をした。木村氏はそれを大人の余裕でクスッと笑い飛ばした(望月氏とは集会後の打ち上げで大勢で一緒に食事をしたことがある程度で、一対一あるいは少人数で込み入った話をしたことは1度もないそうである)。
最後に、木村氏は映画やネットフリックスドラマ「新聞記者」(映画版にもドラマ版にも木村氏のモデルすら登場しない)の向こう側の“ヒロイン”に向けて、心からのリスペクトを込めて、極上の大阪弁でこうエールを送り、インタビューを締めくくった。
「まあ、あの映画もドラマも、ドキュメンタリーやなくて、実話にヒントを得たフィクションやろ? 派手に描かれるのも、しゃあないやん。俺自身、映画は見たけどドラマは見てへんし。ただ、俺の個人的な印象としては、望月さんが森友問題に特に強い関心を持って取材してたとは全く思ってないけどな。――望月さん、ほとんど“オヤジのアイドル”みたいで“ちょっとなぁ”とは感じるけど、あれを見て喜ぶ人がおるんやったら、まぁええんちゃうの(笑)?」






