中東情勢を揺るがす「フーシ派」とは… 世界の海上交通を脅かす武装勢力の正体
フーシ派はイエメンを拠点とするイスラム教シーア派系ザイド派を基盤とした武装政治勢力である。正式名称は「アンサール・アッラー(神の支持者)」で、1990年代に宗教・政治運動として形成された。指導者アブドルマリク・アル・フーシの下で勢力を拡大し、現在ではイエメンの政治・軍事情勢を左右する主要勢力となっている。
背景にはイエメン北部における政治的な疎外感や中央政府への不満があった。2004年以降、フーシ派は政府軍との武力衝突を繰り返した。2011年の「アラブの春」に伴う政情不安を経て影響力を強め、2014年9月には首都サヌアを掌握した。翌2015年、サウジアラビア主導の連合軍が介入し、イエメン内戦は地域大国を巻き込む紛争へと発展した。
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フーシ派を理解するうえで重要なのがイランとの関係である。イランはフーシ派に武器や技術などを支援してきたとされ、同派はレバノンのヒズボラなどとともに、イランと利害を共有する地域勢力の一つと位置づけられている。
ただしフーシ派をイランの完全な指揮下にある組織とみなすのは適切ではない。同派はイエメン国内の政治的・軍事的利害を持ち、独自の意思決定と行動能力を備えている。フーシ派は弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人航空機などの能力を高め、サウジアラビアやイスラエルなどを攻撃対象としてきた。こうした兵器は、国家に比べて限られた資源しか持たない武装勢力が、遠距離から相手に圧力を加える手段となっている。
ただの反政府武装組織では済まされない「フーシ派」
フーシ派が世界的な注目を集めた理由の一つが、紅海周辺での船舶攻撃である。2023年10月にイスラエルとハマスの戦闘が始まると、同派はパレスチナ人への連帯を掲げ、イスラエル関連と主張する船舶などへの攻撃を開始した。その後、攻撃は国際商船の航行にも影響を及ぼした。
紅海とアデン湾を結ぶバブ・エル・マンデブ海峡は、欧州とアジアを結ぶ重要な海上交通路に位置する。攻撃の危険が高まれば、海運会社はアフリカ南端の喜望峰をう回する航路への変更を迫られる。これにより輸送日数や燃料費、保険料が増加し、世界の物流や物価にも影響が及ぶ可能性がある。
米国などは船舶の安全確保に向けた軍事行動を実施し、フーシ派の軍事施設などを攻撃してきた。しかし、空爆だけで同派の軍事能力や政治的影響力を完全に排除することは容易ではない。
フーシ派の重要性は、イエメン国内の権力争いにとどまらない。イランと周辺諸国の対立、イスラエルとの衝突、米国の中東政策、そして国際海上交通の安全保障が交差する位置に存在するためである。
同派は、領域支配とミサイルなどの軍事能力を背景に、地域大国や国際社会に圧力を加えることができる。一方、イエメンでは長年の紛争による人道危機が続き、フーシ派の統治や人権侵害についても国際的な懸念が示されている。
フーシ派は単なる反政府武装組織ではなく、中東の地域秩序と世界の海上交通を結びつける重要な戦略的アクターである。その動向は国際物流やエネルギー輸送にも影響するため、日本にとっても経済安全保障上、継続的に注視すべき対象である。
文/和田大樹 内外タイムス





