#56 日本人とは何か 村井友秀

日本人とは何か 東京国際大学特命教授 村井友秀
現代世界の戦争を見ると紛争の背景に民族対立が存在していることが多い。宗教戦争も歴史的にみると民族紛争であった事例も多い。共産主義国家と資本主義国家が対立した冷戦時代の紛争はイデオロギー対立であると説明されたが、実際の対立構造は歴史的な民族紛争であることも多かった。世界でも稀有な単一民族国家に住む日本人の多くは他民族と接触する機会が乏しく、自分が日本民族であると感じる機会が少ない。それではそもそも民族と何か。
人間を分類する方法は三つある。人種、国民、民族である。人種とは人間を外見で分ける方法である。白人、黒人、黄色人種といった分類で遺伝子が人種を決定する。生まれてから死ぬまで人種は変わらない。人種は自然的生成物と呼ばれる。
国民は国籍で人間を分類したものである。国籍は自分の意思で変えることができる。生まれた時と死ぬ時で違う国民であるということは有り得る。国民は外見ではわからない。一つの国民の中に複数の人種が含まれる多人種国家もある。国民は政治的生成物といわれる。
民族の定義は曖昧である。民族の本質は運命共同体であるという意識である。それでは民族意識はどのようにして生まれるのか。民族意識を生み出す要因は、①血縁、②地縁、③言語、④宗教、⑤一つの国民、などである。しかし、世界を見ると民族の本質は感情であり、「民族はその構成員が激情的に、満場一致的にそうであると信ずるがゆえに民族である」ということになる。民族は歴史的生成物といわれる。玉城前沖縄県知事は人種的には日本人とアメリカ人のミックスであるが、本人が日本人だと感情的に思っていれば民族的には完全に日本人である。他方、人種的には日本人でも本人が日本人ではないと思っていれば民族的には日本人ではない。第二次世界大戦時に自分はアメリカ人だと考えて日本軍と戦った日系アメリカ人は存在した。彼らは日本民族ではない。これに対し、自分は日本人だと信じてアメリカ軍と戦った日系アメリカ人もいた。彼らは日本民族である。日系アメリカ人という人種的集団には日本民族とアメリカ民族が存在したのである。命を懸けて守ろうとする運命共同体が違えば、人種が同じでも違う民族である。第二次世界大戦時にドイツと戦ったアメリカ軍の総司令官はドイツ系アメリカ人であった。
日本人とは日本民族である。すなわち、人種とは関係なく日本という運命共同体の為に命を懸けて戦う人間が日本人である。
むらい・ともひで 1949年生まれ。1978年東京大学大学院社会学研究科国際関係論博士課程退学。米国ワシントン大学国際問題研究所研究員を経て、防衛大学校国際関係学科教授。2015年退官後現職。日本防衛学会名誉会長。主な著書に『失敗の本質』『中国をめぐる安全保障』『戦略の本質』『戦略論大系7毛沢東』『現代の国際安全保障 安全保障学のフロンティア』『日中危機の本質』等多数がある。平和安全保障研究所奨学プログラム2期生、平和・安全保障研究所監事・研究委員。



