「106万円の壁」10月1日撤廃 労働者がこれから気にしないといけないこと
パートやアルバイトで働く人にとって、長く意識されてきた「106万円の壁」が、2026年10月1日に撤廃される。
昨年6月成立した年金制度改正法を受けて今年9月11日に施行日を定める政令が公布され、10月1日の実施が正式に決まった。
中国社会崩壊論(後編)年金は底をつき、平均60歳を超える高齢化へ…静かに進行するシステム破綻
「壁がなくなる」と聞くと、働き方が大きく変わるようにも感じる。だが、実際に何が変わり、何が変わらないのかを見ていくと、少し印象は違ってくる。
今回なくなるのは、社会保険への加入要件の一つである「月額8万8000円以上」という賃金の基準だ。
一方、「週20時間以上」という労働時間の要件は変わらない。
つまり、10月1日から全く新しい仕組みが始まるというより、「106万円」という金額を目安に働き方を考える時代が終わる、と捉えた方が分かりやすい。
そもそも「106万円の壁」とは
現在、従業員51人以上の企業で働くパート・アルバイトは、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8万8000円以上、学生ではないことなど、一定の要件を満たすと勤務先の厚生年金と健康保険に加入する。
月額8万8000円を年額にすると約106万円となることから、「106万円の壁」と呼ばれてきた。
配偶者の扶養に入っていた人が勤務先の社会保険に加入すれば、新たに健康保険料や厚生年金保険料の本人負担が発生する。
そのため、給与が少し増えただけでは、社会保険料の負担によって手取りがかえって減る場合がある。「106万円を超えないように勤務時間を抑えよう」という働き控えが起きる一因にもなってきた。
10月1日から、この月額8万8000円という賃金要件がなくなる。
実はすでに意味が薄れている「106万円」
ただ、今回の改正には少し意外な点がある。
2025年度の地域別最低賃金は、全国で最も低い地域でも時給1023円となった。この水準で週20時間働けば、原則として月額8万8000円以上になる。
つまり、最低賃金以上で週20時間以上働いている人であれば、現在でも事実上、賃金要件を満たすことになる。
そう考えると、今回の改正は「106万円を超えたら初めて社会保険に入る」という仕組みを突然大きく変えるというより、最低賃金の上昇によって実質的な意味が薄れていた賃金要件を、正式に撤廃するものと考えた方が実態に近い。
その一方で、「週20時間以上」という要件はそのまま残る。今後は「年収が106万円を超えるか」だけを見るのではなく、自分がどのような勤務条件で働いているのかを確認することが、より重要になる。
なお、この週20時間は、原則として雇用契約書や就業規則などで定められた「所定労働時間」で判断する。忙しい週に残業して一時的に20時間を超えただけで、直ちに加入するという話ではない。
自分が対象になるのか気になる人は、給与額だけでなく、まず雇用契約書の勤務時間を確認してみるとよいだろう。
「130万円の壁」とは別の話
もう一つ注意したいのが、「130万円の壁」である。
106万円の壁がなくなれば、「130万円までは扶養のまま働ける」と考える人もいるかもしれないが、両者は別の仕組みだ。
106万円の壁は、一定の要件を満たした人が勤務先の厚生年金・健康保険に加入するかどうかに関係するもの。
一方、いわゆる130万円の壁は、主に配偶者などの社会保険上の扶養に入れるかどうかに関係する基準である。
したがって、年収が130万円未満であっても、勤務先で社会保険の加入要件を満たせば、自分自身で厚生年金・健康保険に加入することになる。
「106万円がなくなる=130万円まで扶養でいられる」ということではない。
本当に影響が広がるのはこれから
むしろ今後、より多くの人に関係してくるのが、勤務先の企業規模に関する要件の見直しである。
現在は原則として従業員51人以上の企業が対象だが、2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上へと段階的に対象が広がり、2035年10月には企業規模要件そのものがなくなる。
これまで「小さな会社で働いているから自分には関係ない」と考えていた人にも、社会保険の適用は徐々に広がっていくことになる。
一連の改正を見ると、方向性は分かりやすい。
企業規模や賃金額による条件を徐々に外し、一定の条件のもとで週20時間以上働く短時間労働者に、社会保険の適用を広げていこうとしているのである。
社会保険に入れば「損」なのか
もちろん、社会保険への加入を単純に「損」と考えるのも適切ではない。
厚生年金に加入すれば、将来受け取る年金の増加につながる。健康保険でも、一定の要件を満たせば傷病手当金や出産手当金などの保障を受けられる。保険料も本人だけではなく、会社が負担する部分がある。
その一方で、これまで保険料負担がなかった人にとっては、社会保険への加入後、毎月の手取りが減る場合があるのも事実だ。
目の前の手取りと将来の保障。その両方を見ながら、自分に合った働き方を考える必要がある。
10月1日に消えるのは、「106万円」という分かりやすい目印である。
これからパートやアルバイトで働く人が確認すべきなのは、年収だけではない。自分の週の所定労働時間は何時間なのか。勤務先は社会保険の適用対象なのか。そして、社会保険に加入した場合、現在の手取りと将来の保障がどう変わるのか。
「106万円を超えなければ大丈夫」と考えて働く時代は、いよいよ終わる。
文/亀田敬亨 内外タイムス






