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フーシ派攻勢強める紅海沿岸部近くで活動する自衛官約400人は大丈夫か…防衛省・統合幕僚監部から聞いて分かったこと

今年2月にイスラエルと米国がイランを先制攻撃して以降、中東情勢は混迷を深めている。当初は劣勢だとされたイランだが、ここにきて米国世論の厭戦(えんせん)気分や11月の中間選挙を前にトランプ政権の支持率低下などを背景に、戦況はこう着状態となっている。

世界のエネルギー輸送の要衝・ホルムズ海峡をめぐる状況も依然として深刻だ。英海事機関(UKMTO)は13日、同海峡を航行中の船舶が飛翔(ひしょう)体に被弾し、火災が発生して乗組員が退避を余儀なくされたと発表。一方のイラン側も同海峡で攻撃を受けたイラン商船で1人が死亡、乗組員4人が負傷したと明らかにしており、情勢は予断を許さない。

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そのような中、中東情勢をさらに深刻化させるニュースが飛び込んできた。AFP通信によると、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が11日、イエメンの紅海沿岸部全域を制圧した。特に深刻なのが、フーシ派がホルムズ海峡の代替路として活用されているバベルマンデブ海峡を掌握したというのだ。

ニューズウィーク誌によれば、仮にフーシ派が同海峡をミサイルやドローンを使って封鎖すると、原油や石油製品など合わせて日量約810万バレルの輸送が滞ると分析する。封鎖しなくても、同海峡の航行はリスクが大きすぎると海運会社が判断すれば、船舶にかける保険料が上昇し、航路もアフリカ南端(喜望峰)をう回することになる。結果として輸送時間が延び、日本などエネルギー輸入に依存する国々はさらなる物価高の影響を受けることになる。

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏はコラムの中で、仮にホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡が二重に封鎖された場合、日本にとって「特に深刻」と指摘する。ホルムズ海峡が事実上封鎖状態のなか、政府は原油をサウジアラビアから紅海を通ってバベルマンデブ海峡へと抜ける経路を代替ルートとして設定した。そのため政府は7月分の原油調達量について、イラン戦争前の水準に戻ったことをアピールしていたが、その算段も立たなくなるという。

「約200日分の石油備蓄があることから、日本はすぐには石油の供給不足に陥ることはないが、いずれ、原油、ナフサ不足が再燃し、企業活動や家計に影響が出る」

木原稔官房長官は14日の会見で、サウジアラビアの原油輸送パイプラインがフーシ派の攻撃で停止したことについて「重大な関心を持って事態を注視している」と述べた。日本への影響については政府が備蓄している石油の放出やイスラム圏以外の国からの代替調達に取り組んでいることを踏まえ「現時点で原油や石油関連製品は必要な量を確保できている状況だ」と強調した。

また茂木敏充外相は同日、イエメン暫定政権のズーバ外相と電話会談し、フーシ派の一連の攻撃が「バベルマンデブ海峡の自由で安全な航行に大きな脅威となっている」と指摘。情勢の急速な悪化を深刻に懸念しており、フーシ派の一連の攻撃を強く非難したほか、8日にイランのアラグチ外相と電話会談した際の内容を挙げ、フーシ派に対し自制を強く働きかけるよう求めたことを説明したという。

エネルギーは「国家の生命線」とも呼ばれる。先の日米開戦に至った大きな要因の1つに、米国の石油禁輸措置があったのは言うまでもない。「石油一滴は血の一滴」とは、戦前の日本で盛んに叫ばれたフレーズだが、今の中東情勢に目を向けた時、その言葉はリアリティーを持つことになるかもしれない。

対岸に自衛隊唯一の国外拠点

実はフーシ派が掌握したイエメンの紅海沿岸部からバベルマンデブ海峡を隔てた対岸の国・ジブチには自衛隊の国外唯一の拠点がある。地図アプリで調べてみると、その間の距離は150キロほどしかない。分かりやすく比較すると、東京から静岡市ほどの直線距離に現在、フーシ派と自衛官が対峙(たいじ)していることになる。

ジブチで自衛隊は何をしているのか。あまり知られていないが、陸・海・空の自衛官が協力して、イエメンとソマリアの間にあるアデン湾を通航する商船などの護衛活動を2009年から行っている。ジブチの拠点には陸上自衛隊員が主となって基地業務の全般を担い、海上自衛隊の護衛艦1隻が民間船舶などの護衛や特定海区域の警戒を行っている。空からは航空自衛隊の哨戒機が決められた海域を飛行し、常に異常がないか目を光らせる。

この活動を行うことになった経緯は、この海域で機関銃やロケットランチャーなどの重火器で武装した集団による海賊行為が多発していたからだ。さらにこの海域は欧州から中東、東アジアへとつながる重要なシーレーンのため、日本の関係船舶も航行する海域で自衛隊が民間船舶を守ったり、空からの監視活動に参加するのは必然ともいえた。

これらの活動は「海賊対処」と呼ばれる。「令和8年版防衛白書」によると、3月31日現在で護衛した船舶は4076隻、哨戒機の飛行回数は3549回で、飛行時間は延べ約2万5240時間に上るという。日本関係船舶を含む外国船籍も対象となる「海賊対処」は、国際社会からも高く評価されているのである。

海賊対処とフーシ派の活動地域は「無関係」強調

この「海賊対処」について、所管する防衛省の統合幕僚監部(以下、統幕)に聞いてみた。まず、現地で活動する自衛官については約400人であると答えた。次に、現在の中東情勢を踏まえ、活動自体に何か影響は出ていないかと聞いたところ「直接的な影響はない」と回答し、「海賊対処はフーシ派が活動する地域とは関係ない」と強調した。

とはいえ、地図上で見てもジブチの拠点や海賊対処を実施している海空域とフーシ派の活動地域は近いようにも思える。そのことを問うと「活動場所に関しては自衛隊の運用に関わることでお答えできない」とにべもない。今後の情勢については、あくまで「注視していく」ことは認めたが、それは当たり前のことだ。

一方で「我々は命令に基づいて海賊対処を実施している」とも答えた。これは制服組の自衛官としてはシビリアンコントロール(文民統制)のもと、忠実に任務を全うするだけ、という自衛官としての本分を強調したいのだろう。

統幕としては「海賊対処」はあくまで「海賊」への対処であって、「フーシ派は海賊というよりは『武装組織』である」からして、今の活動の対象外とも付け加えた。これは一見、言葉遊びのようだが、彼らの言うことは正しい。実際の現場対応に当たる自衛官は、あくまでお上(政治・背広組)からの命令の下、決められた任務を遂行するだけだ。制服組はあくまでシビリアンコントロールを逸脱しない範囲内で答えることしかできないのだ。

元自衛官・佐藤正久氏「ミサイル脅威下」

では、そのお上(政治)が直近において国際情勢などの必要性から、自衛隊を運用する何らかの方針などを示したことはあるのか。共同通信は6月、政府がホルムズ海峡に自衛隊を派遣する場合の3つの条件を設定したことを報じている。

・米国とイランの停戦合意

・イランとの意思疎通

・現場の脅威低下

の3つで、具体的に自衛隊が同海峡に派遣された場合の活動内容としては「機雷除去」や「民間船舶の護衛」が選択肢に上がったという。自衛隊が迅速に運用できるためには、政治の側が現在の国際情勢を的確に把握し、関連法の整備を含めリードを取らなければならないということだ。

では、実際にジブチやアデン湾で活動する自衛官はどうなるのか。元自衛官で2025年7月まで参院議員だった佐藤正久氏は3月6日、自身のX(旧Twitter)でこうつづっている。

「ジブチは自衛隊の拠点があるが、イランに近いイエメンのフーシ派から近く、ミサイル脅威下にあり、米軍基地に隣接している」

自衛官が駐留するジブチがフーシ派のミサイル攻撃の脅威下であることを認めた重要な証言でもあるが、過去に防衛大臣政務官や外務副大臣、参院外交防衛委員長という要職を務め上げた氏の発言はとても重いものとなる。

先の茂木外相によるイラン側への働きかけなど、「外交」はもちろん大事だが、現在の情勢認識について持ちうる情報を最大限に駆使するという意味では、現在政府が推し進める「インテリジェンス能力の強化」は必要なのかもしれない。少なくとも日本が危惧すべきこれからの中東情勢の懸念点は、エネルギー需給の問題とともにジブチやアデン湾で活動する自衛官にも思いを致すべきである。

文/寉見陽平 内外タイムス

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