若手研究者の約3割に心理的苦痛、約13万人の分析で明らかに 文科省は若手支援拡充を概算要求
博士課程学生やポスドク(ポストドクター)など、キャリア初期の研究者の約3割が、心理的苦痛の高い状態にある可能性がある。オーストリアのウィーン大学の研究グループは、若手研究者のメンタルヘルスに関する既存研究を統合し、うつ、不安、ストレス、自殺念慮などの広がりと重症度を分析した。
研究成果は6月29日付で国際学術誌「Nature Human Behaviour」に掲載された(https://doi.org/10.1038/s41562-026-02505-5)。研究者を目指す若者が直面する心理的な負担を、13万人を超えるデータから検証した研究だ。
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研究チームは、2025年10月28日までに公表された若手研究者のメンタルヘルス研究を調べ、条件を満たした148本の研究と4つの一次データを統合した。各研究には数百から数千人規模の調査も含まれ、1本の論文から複数の独立した集団を取り出したケースもある。分析した集団は計228サンプル、参加者は合わせて13万8446人に上った。このうち大半は博士課程段階の研究者だった。
分析には主に自己記入式の心理尺度が使われている。このため、ここでいう「うつ」や「不安」は医師による診断率ではなく、スクリーニングで一定の基準を超えた人の割合を示している。
うつ・不安、一般同年代より3~5倍の高い水準
心理的苦痛を測る各種指標を統合すると、基準値を超えた人の割合は29.9%だった。症状別では、うつ症状29.8%、不安症状29.7%、摂食障害症状28.3%、アルコールの問題使用22.9%、自殺念慮18.8%、非自殺的自傷18.6%だった。
一般人口の同年代と比べると、うつ症状は約2~3倍、不安症状は約3~5倍の水準にあった。一方、症状の平均的な重さでは、うつと不安は「軽度」、ストレスは「中等度」だった。深刻な状態にある人だけでなく、比較的軽い心理的不調を抱えながら研究を続ける人が広く存在する可能性を示している。
新型コロナ禍の前後でも変化がみられた。心理的苦痛の割合は2020年以前の24.3%に対し、コロナ禍の2020~22年は34.2%、2023年以降も33.3%だった。コロナ禍以前から高い水準にあり、その後も低下が確認されていないことから、パンデミックだけに原因を見出すことはできない。
性別や研究分野、キャリア段階などによる差は全体として小さく、推定値の違いには、使用した心理尺度や調査方法、研究の質などの影響が大きかった。研究チームは、若手研究者の心理的負担を特定の属性だけの問題ではなく、アカデミアに広く存在する課題として捉え、大学や政策レベルでの支援を求めている。
文科省、科研費で「若手支援強化枠」
日本ではちょうど、若手研究者を支える研究環境の強化が政策課題として前面に出ている。文部科学省が8月に公表した2027年度予算の概算要求では、科研費に4552億円を要求した。前年度予算2479億円から大幅な増額要求で、文科省は背景として、日本の研究力の相対的低下に加え、若手研究者数の伸び悩みや研究時間の減少を挙げている。
概算要求には新たな「若手支援強化枠」の創設が盛り込まれ、「研究活動スタート支援」「若手研究」「特別研究員奨励費」も拡充する方針だ。「若手研究」の採択者や特別研究員が海外で共同研究を行うための新たな応募枠も設けるとしている。研究費の基金化を進め、事務負担を減らして研究時間を確保することも掲げた。
こうした施策は研究費や研究時間の確保を主眼としており、今回のメタ分析が扱ったメンタルヘルス対策そのものではない。研究者の心理的負担には、資金面だけでなく、雇用やキャリアの見通し、指導関係、職場環境など幅広い要因が関わりうる。論文も、契約や研究資金の形態、経済的負担、指導者との関係などを今後さらに検証すべき要因として挙げている。
研究結果を日本にそのまま当てはめることもできない。一次研究の多くは自己記入式尺度を用い、臨床面接による診断はほとんどなかった。ポスドクは分析対象の3%未満で、地域的な偏りもある。
13万人を超えるデータを統合した今回の研究は、研究キャリアの入り口にある人々の心理的負担が、一部の個人や特定分野に限られない可能性を示した。日本でも若手への研究費を増やす動きが本格化する中、研究を始める機会を増やすだけでなく、長く研究を続けられる環境をどう整えるか。
若手研究者支援を考える上で、研究費とともに働き方やキャリア、相談・支援体制まで視野に入れる必要がありそうだ。
文/吉田光男 内外タイムス






