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無免許運転で事故を起こした72歳、淡々と質問に答え続けた男が突然しおらしくなった瞬間とは【裁判傍聴記】

飲食店を経営しているという72歳の被告人は法廷で淡々と質問に答えていた。

傍聴席にいる私は彼の経歴、人生を知らないが、その口調から自身の力で人生を生き抜いてきた自負を持っている人物だと感じた。

令和7年11月15日正午ごろ、男は昼食のおかずを持っていってあげようと自宅から歩いて5分程の娘のアパートへ車で向かっていた。

すると交差点に差し掛かったところで脇道から進行してきた車と衝突する。相手が怪我をしていないのを確認し、自ら警察に電話をする。

「無免許で事故を起こしました」

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無免許認識も「めんどくさかった」

男は昭和60年に免許を取得、平成29年にその免許を失効し、令和6年6月に無免許運転(道路交通法違反)で罰金刑を受けていた。免許を失効してから常に自身が無免許であるという認識を持っていたと述べる。

失効後、妻や娘から日常生活の助けの申し出があったが、それに対し無視をしてきたという。弁護人から「なぜ?」と問われると、「めんどくさかったので」とあっさり答える。

被告人「20年、30年、事故を起こした事がなかった。正直、事故を起こさなければいいと思っていた」

弁護人「車を運転しなければ事故は起こりませんよね?」

被告人「はい。そう思います。すみません」

この調子で被告人質問の時間は淡々と流れていく。

傍聴席から見ていて、無免許で運転することが悪いことだと百も承知しているが、田舎でちょっとの距離を運転するくらいいいじゃないか、今回、事故が起きてしまったのは運が悪かったが、相手方も怪我をしていないわけだし、反省しているから勘弁してくれ、という考えを持っている印象を受ける。

決して悪い人間には見えないが、「自分の生き方でこれまで生きてきたし、これからも生きていく、誰の指図も受けない」という雰囲気が傍聴席に伝わってくる。

要は、人は悪くないが規範意識が鈍麻しているのだろう。そんな心証を受けられてはマズイと思ったのか弁護人は質問を続ける。

弁護人「事故を起こして逃げようとは思わなかった?」

被告人「逃げられませんからね」

「不自由です。ははは」

相手方からは車を修理してくれれば良いと言われ見積額46万円を提示され、30万円を一括で支払い、残りは分割払いにしてもらったが、最終的に「30万円で良いですよ」と相手方から申し出があり、賠償問題は解決したという。「助かりました」と男は答える。

弁護人「そもそもどうして免許を失効したのですか?」

被告人「2回捕まって、取り消しになりました。(欠格期間365日)」

弁護人「その後、免許を取ろうとは思わなかった?」

被告人「年も年だし、恥ずかしいなと思って。もうこのままいければいいやと甘い考えだった。反省しています」

弁護人「令和6年に無免許で罰金30万円の刑を受けていますが、あなたにとって高くない金額なんですか?」

被告人「自分の店の状況を考えると大金です」

弁護人「30万円払ってやめようと思わなかった?」

被告人「いや、お金の問題じゃなく、私の心の問題です。元々、車の運転が好きなんです。一人の空間がリラックスできるので」

弁護人「まだ奥さん名義の車が家にあるんですよね?これから5年くらいは欠格期間があるけど、持つ意味はあるんですか?」

被告人「娘婿の両親が頻繁に韓国から遊びに来るんですよ。レンタカーでもいいんだけど、娘も『車があった方がいいんじゃない?』と言っているので」

弁護人「近くに車あったら不安じゃないですか?」

被告人「さすがにもう乗らないと思います」

弁護人「鍵はどう管理しているんですか?」

被告人「鍵は奥さんが隠しました。ははは」

弁護人「鍵の場所は聞いてないんですね?」

被告人「まだ聞いてないです。…まだ、というより聞いてないです」

弁護人「今、どうですか?」

被告人「不自由です。ははは」

弁護人「なぜ無免許がダメだと思います?」

被告人「私一人で生きているわけじゃないので、いろんな人がいて社会が成り立っているので法を破っちゃいけないんだと思います」

弁護人「今回の無免許でどういった悲しみが生まれると思います?今回の事故で保険は使えましたか?」

被告人「いいえ」

弁護人「今回、物損だけで済んだからよかったけど人が怪我をしていたらどうなっていましたか?」

被告人「大変なことになっていた」

弁護人がぶつけた最後の質問に…

弁護人が神妙な面持ちで質問し続けるも、どうも男の返答は軽い。そして、被告人質問の最後に裁判官が男に問う。

裁判官「警察の取り調べで、ご自身の生い立ちについて正直に話していますか?」

被告人「はい」

裁判官「12月16日付の調書によると、あなたが二十歳の時にお母さんが交通事故で亡くなっていますよね?」

被告人「…はい」

裁判官「お母さんを交通事故で亡くしていて、なんで無免許運転ができるんですか?」

被告人「…言い返す言葉もございません…50年くらい前ですが、弟がバイクの後ろに母を乗せていて、車が来て、よけて溝に落ちて…弟は無事だったけど、母は亡くなりました」

裁判官「罰金30万円の話より、今のエピソードの方が、あなたが向き合う一番のポイントなんじゃないですかね?交通事故に関してあなたは嫌なイメージがあるんじゃないですか?今回はたまたま相手が怪我をしなかったけど」

被告人「…おふくろのことは私の心の中にずっとありますので、私がこのような運転をしたことに何も言い返す言葉もございません…本当にすみません…」

裁判官が問いかけるまで、その事実を我々傍聴人が知る由もなかった。

あれほど淡々と質問に答え続けた男は、母の事故死を引き合いに出された瞬間、証言台でしおらしくなり、言葉遣いも変わった。男、いや、この老人にとって、母親の死はどれほどの時を経ても一生消えることのない痣(あざ)として心の中に残っているのだろう。

亡くなった母の年齢を優に超えた男は、裁判官の問いに何を思ったのか。男には拘禁刑1年執行猶予3年の刑が言い渡された。

文/田辺朋之 内外タイムス

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