変質する中国の面子社会(第4回)苦戦する高級自動車・ブランド時計を横目に復活を遂げた無印良品
時代とともに変化する中国の面子(メンツ)。これまでの記事では、その背景と消費に対する影響を解説してきた。
最終回となる今回は、消費が「見える消費」から「納得のいく消費」へ移行している事例と、その中で業績を伸ばしている日本企業を紹介する。
変質する中国の面子社会(第3回)ブランドより実用性、中国の宝飾市場に異変
激減するポルシェなど高級自動車・高級時計ブランドは苦戦
中国国内における自動車の価格競争は周知のところだが、そのなかでも大きな影響を受けているのが外資系の高級自動車ブランドだ。
BMW・メルセデス・アウディといったドイツ大手メーカーは中国市場における販売台数の減少が顕著になっているが、更に深刻な影響を受けているのが高級ブランドのポルシェだ。
【ポルシェの中国国内における販売台数】
2022年:前年比2.5%減
2023年:前年比15%減
2024年:前年比28.2%減
2025年:前年比26.3%減
このようにピークだった2021年から4年連続の減少となっており、総販売台数は約60%減と、ピーク時の半数以下に落ち込んでいる。
同様に高級時計ブランドも影響を受けている。オメガ、ブランパン、ブレゲといったブランドを有するスウォッチグループの中国での卸売売上高は2024年上半期で30%減と急落。グループ全体の営業利益を大きく圧迫した。
これら高級ブランドの凋落(ちょうらく)は、永遠に値上がりするという投機的需要が景気低迷で冷え込んだことに加え、高級品を誇示することへの抵抗感が根付いてきていることの現れでもある。
面子社会が変遷するなかで、消費者はどこに向かうのか。その一つの可能性を示すのが無印良品の復活劇だ。
無印良品の危機と復活
中国の面子社会の変化は、無印良品の業績に大きな影響を与えた。ただし、それは「一度危機に瀕(ひん)した後、戦略を転換して逆転した」という軌跡を描いている。
まず現状から確認すると、中国の無印良品は現在絶好調である。
2025年度の中国大陸の売上は前年比18.3%増の約65.7億元(1398億円)であり、成長率は19.1%を記録。2026年度第1四半期も中国大陸の売上は前年比118.3%と引き続き急成長している。
しかし、現在の好業績に至るまでには多くの曲折があった。
無印良品は2005年に中国進出した当初は「ミニマリズム」「ノーブランド」「自然素材」という価値観を打ち出していた。これが中国の中産階級にとって「教養とセンスのある人だけがわかる高級ニッチブランド」として受け入れられたのだ。
これは一種の面子消費だった。ロゴを見せるのではなく、ロゴを見せないこと自体がステータスになっていた。
しかし2015年以降、面子の定義が「見える消費」から「納得のいく消費」へ移行する中で、無印良品は深刻な危機に直面する。
複数のブランドが無印良品を模倣した商品を販売、なかには「無印良品の製造元直送」をうたいながら、無印良品の半額以下の価格で類似商品を販売。デザインと品質を模倣しながら圧倒的な低価格を実現した。
この結果、無印良品の業績の伸びは2016年から鈍化し、2018年第2四半期には初のマイナス成長。2022年度の売上は前年の88.4%にまで落ち込んだ。つまり、「高いものを買う=面子」という消費観が崩れ、「同じ品質なら安い方を選ぶ=賢い」という新しい面子が生まれたことで、無印良品のブランドプレミアムは通用しなくなった。
無印良品は2014年〜2020年に10回以上の値下げを実施したものの、これだけでは業績を回復できなかった。転機になったのは、2019年からの全面的な戦略の転換である。
「値ごろな高級品」確立
戦略転換後、無印良品は最安値を目指さなくなった。低価格の競合に対しては数倍の価格差と品質差を維持しつつ、国内の中・高級ブランドに対しては相対的な低価格を維持する差別化戦略を採用した。こうしてブランド価値を維持しながら「値ごろな高級品」という位置づけを確立した。
もう一つは徹底的な現地開発化だ。現在、中国の無印良品の生活用品の70%が現地開発である。中国の気候、生活習慣、文化に合わせた商品を設計・生産している。
こうした差別化・現地化によって実用派の生活ブランドへ再生したことが、現在の無印良品の業績につながったのだ。
中国における面子社会の変容は、無印良品から一度はブランド神話を奪う危機となったが、同時に生活の質そのもので勝負するというブランド再生の好機ともなった。
現在の無印良品は「他者に見せるためのブランド」から「自らの生活を豊かにするためのブランド」へと変化し、「賢く洗練された生活を送る人物像」という、新たな面子を象徴するブランドへと進化している。
今回取り上げた無印良品の復活劇は、中国市場の構造変化に苦戦する日本企業にとって、重要な示唆を与えるものとなるだろう。
文/下川英馬 内外タイムス






