食料品の消費税減税への批判は本当に正しいのか 4つのポイントを検証
社会保障国民会議の迷走を受け、高市早苗首相は政府与党として食料品の消費税減税を来年4月から2年限定で行うと決断した。
その途端、それまでの野党に加え自民党内からも様々な批判が噴出し出した。与野党を通じた批判は以下の4点に集約できる。
高市政権に“9月退陣説”浮上…「食品消費税1%」表明で党内政局と市場圧力
・中低所得者の生活支援策としては消費税減税より給付金の方が望ましい
・減税の財源を明確にすべき
・消費税減税で財政バランスが更に悪化する
・2年後に本当に増税できるのか
どの批判も一見もっともらしいものの、私は、これらの批判には首を傾げる部分が多いと思っている。そこで、客観的な視点からこれらの批判の問題点を考えてみたい。ちょっと長くなってしまうが、ご容赦いただければと思う。
「消費税減税より給付金の方が望ましい」
この主張の根拠としては、
①給付金なら減税のように来年4月まで待つ必要ないので、今の物価高に苦しむ中低所得者の支援を迅速に行える
②消費税を下げても食料品価格が下がる保証はない
③2年後に税率を元に戻す(=増税)と物価が上がる
といった点が挙げられている。
確かにどれももっともな意見ではあるが、まず疑問なのは、①〜③のすべてが昨日今日になって初めて分かった話でなく、衆院選の段階でも分かっていたことである。
衆院選の時にはほぼ全ての野党が消費税減税を公約に入れていたのに、なぜ今になって主張を翻すのか。また、衆院選での自民党の主張にも入っていたのに、なぜ今になって自民党内で反対する人が出てくるのか。
これでは、選挙の時は耳障りの良い主張をして、実際にやる段階で問題点を言い出したり政局を優先していると思われても仕方ない。個人的には、選挙での公約、国民との約束を忠実に実行しようとしている高市首相の方が、ころころ主張を変える政治家より国民に信頼されると思うのだが…。
ちなみに、この主張の最大の問題点は①である。確かに給付金の方が早く実行できるのは事実だが、現実の問題点を踏まえていない。
今の行政の仕組みで給付金を配る場合、住民税非課税世帯(=貧困世帯)のみが対象か、全国民を対象とするか、どちらかしかできない。前者の場合は肝心の中低所得層は対象に入らない。後者の場合は典型的なバラマキとなる。
現状では中低所得層を対象に所得に応じて給付金を配る仕組みがないからこそ、社会保障国民会議でも、その仕組みが必要な給付つき税額控除の実現には2年かかるとされている。
社会保障国民会議には与野党とも参加しているので、与野党の政治家がこの事実を知らないはずがない。それなのに、その現実に何も言及せず消費税減税より給付金の方が早くできると主張するというのは、あまりに無責任ではないだろうか。
「減税の財源を明確にすべき」
これも非常にもっともな意見である。食料品の消費税の減税で年間5兆円の税収減となる。どうやって年間5兆円の財源を捻出するかは重要な論点である。
ただ、与野党の政治家とも財務省のやり口はよく知っているはずである。インフレが続く中では毎年の税収は大きく増えて当初の税収見込みより上振れしているので、財務省はまず税収の上振れ分を財源に充て、足りない分は無駄な予算の削減や租税特別措置の廃止で対応するつもりのはずだ。
その兆候は既にある。7月末に発表された政府の“中長期経済財政見通し”(“中長期の経済財政に関する試算”)を詳細に読み込むと、税収の弾性値1(名目GDPの成長率と税収の増加率が同じ)を前提に今後の財政バランスを試算している。
しかし、過去数年のインフレ期において税収は弾性値1を超えて大幅に増加していたことを考えると、財務省はその上振れ分をまず消費税減税の財源に使うと宣言しているようなものである。
従って、財源についての批判は良いが、「明確にしろ」と抽象的に叫び続けるのは意味がない。与野党の議員とも、中長期財政見通しをちゃんと読んだ上で、もっと具体的な主張(税収上振れ分として幾らを想定しているか、足りない分の財源をどうするのか等)をすべきである。政治家の仕事は政策をよくすることのはずだ。もっとまともな政策論を展開すべきではないだろうか。
「消費税減税で財政バランスが更に悪化する」
これも大事な意見ではあるが、この主張をしている議員は“中長期経済財政見通し”を読んでいないとしか思えない。ここに今後の財政バランスの予測が3つのシナリオで示されている。
具体的には、財政健全化の新たな指標である国・地方の債務残高対GDP比は、成長戦略が効果を発揮する(日本経済の生産性と潜在成長率が向上)ケースでは安定的に低下している。効果を発揮しない最悪の場合でも、現状200%を超えている比率が2030年代前半までは180%台に改善を続けると予測されている。
つまり政府は、債務残高対GDP比がそれなりに改善を続けると予測しているのである。こうした具体的な数字が示されているのだから、少なくとも政府見解としては財政状況が悪化するとは想定していないのである。
従って、批判するならば、180%台とまだ高い水準がいつまでにどれ位に改善すべきなのか、また”中長期財政見通し“のどこが問題でそもそも信頼できないのかなど、政策論として具体的な主張をしないと、言いっ放しの批判だけで政策論となっていないので、説得力が全くないのではないだろうか。
「2年後に増税できるのか」
与野党の多くの人がこの点を繰り返し主張しているが、個人的にはこれを何度もしつこく言い続ける意義が分からない。
そもそも高市首相は会見で、2年後に食料品の消費税率を元に戻すと明言している。かつ、そのタイミングで中低所得層が対象の政策支援策である給付つき税額控除が導入されるのだから、高額所得者には増税となるかもしれないが、中低所得層には増税とならないはずだ。
もちろん、税率を元に戻す(=増税する)2029年4月の前年7月に参院選があることを考えると、政治的にどうなるか分からないのは事実だが、だから無理だろと今から決めつけるのは意味がない。
それよりも、2年後の批判をするならば、その段階で導入が予定されている給付つき税額控除が給付のみになったことの方を批判すべきではないか。今の所得控除は高額所得者ほど控除額が大きくなって所得減税のメリットが大きくなる。
なので、単に中低所得層に給付するだけでなく、所得控除の仕組みも税額控除に変えて中低所得者に政府の支援をフォーカスすべきといった主張をしてこそ、政策の議論になるのではないだろうか。
財務省はもっと頑張れ!
以上のように、食料品の消費税減税をめぐる批判は、どれも大事な点とは思うものの、感情的・抽象的な批判に終始しているのが残念である。政治家の仕事は政策を良くして世の中を良くすることと考えると、もっと具体的な政策論としての批判をすべきではないだろうか。
ちなみに最後に一言だけ。“中長期経済財政見通し”を読むと、表現が悪いが財務省がけなげさに心を打たれた。
高市政権が財政の健全性を見る指標について、これまでのプライマリーバランス(PB:毎年の政策経費をその年の税収で賄えているか)を放棄して債務残高対GDP比に変える中で、金融市場の信認を確保して国債金利が跳ね上がらないよう、PBを債務残高対GDP比を構成する要素として残し、両方の指標が悪化しない財政運営を行う方針を明確にしているのである。
もしかしたら、積極財政を掲げる高市首相と、首相に忌み嫌われているのにヤケにならないで、積極財政を受け入れつつ穏当な財政運営を目指す財務省は、結果として日本経済の再生のために良い組み合わせではないだろうか、と真面目に思ってしまった。
文/岸博幸 内外タイムス






