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大飢饉で家族を失った脱北YouTuberが問いかける「幸せの意味」15万人のフォロワーに届けるメッセージ

YouTubeチャンネル「脱北者が語る北朝鮮」は、約15万人の登録者を抱える人気チャンネルである。語り手は北朝鮮出身のキム・ヨセフさん(41)。

キムさんが情報発信を始めたきっかけは、大ヒットした韓国ドラマ「愛の不時着」だった。ドラマに描かれたロマンチックな北朝鮮像を信じる人々に、「現実は全く違う」と伝えたいと思ったからだ。

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「夢見たユートピア」で見た現実

私も朝鮮半島問題を取材する記者として、彼のチャンネルを熱心に視聴してきた。この5年ほどで約130本の動画を公開し、中には90万回近く再生されたものもある。脱北者が日本から発信するYouTubeチャンネルは数えるほどしかなく、地上波テレビに招かれ、自らの経験を語ったこともある。

先日、そのキムさんに話を聞いた。来日して最も驚いたのは、日本の豊かさだったという。

「普通に生活できて、食べることに困らない。僕が夢見た世界、ユートピアでした」

一方で、日本社会には理解し難い現実もあった。会社員として通勤するようになると、電車がたびたび止まることに気付いた。その多くが飛び込み自殺だった。

北朝鮮では「うつ病やストレスなんて聞いたこともなかった」というキムさんは、戸惑った。

「働いて食べられる。それだけで満足ではないのかと思ったんです。こんなに豊かで普通に生活できるのに、なぜ人は自分を不幸だと思うのだろう、と」

生き延びることだけで精いっぱいだった彼にとって、「生きることが苦しい」と悩む日本人の姿は、簡単には理解できなかった。

母と3人の姉を亡くして路上生活

その言葉の背景には、壮絶な人生がある。

1985年、北朝鮮北東部の咸鏡南道で生まれたキムさんは、10歳のとき、「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉(ききん)で母と3人の姉を亡くした。小学校を中退し、コッチェビと呼ばれる路上生活者となって生き延びた。

23歳で脱北に成功して韓国へ渡り、その後、2013年に来日。日本の大学を卒業し、現在は商社で働きながら、流ちょうな日本語で動画を配信している。

発信を続ける中では、日本人拉致問題に関連して批判を受けたり、「お前は祖国を捨てた反逆者だ」と中傷されることもある。それでも、寄せられる声の大半は感謝や励ましだ。

北朝鮮という「鏡」

ある日、一人のフォロワーから長いメールが届いた。

自らの苦しい境遇をつづった上で、「死のうと思っていたけれど、話を聞いて生きる勇気をもらいました」と書かれていたという。キムさんは、その時の思いをこう語る。

「最近まで日本語もできず、日本人でもない私が、見ず知らずの人と価値観を共有できる。自分の存在が誰かに生きる勇気を与えられる。それは自分にとっても奇跡みたいなことですし、本当にやりがいを感じます」

キムさんの願いは、北朝鮮で暮らす人々の現実が、「日本の社会で生きる誰かの鏡」になることだという。「自分が置かれている環境と北朝鮮を比べれば、気付くことがあると思うんです」

3年前、同じく北朝鮮出身の女性と結婚した。夫婦で動画に出演すると、「おめでとう」というメッセージが300件以上寄せられた。

飢えと孤独の中を生き延びた少年は、日本で新たな人生を切り開いている。彼の発信は北朝鮮の実像を伝えるだけではない。「幸せとは何か」を問い直す機会を、多くの人に与えている。

文/五味洋治 内外タイムス

YouTubeチャンネル「脱北者が語る北朝鮮」より

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