“AIは科学をどう変えるのか”米国で国際会議開催 日本を含む非英語圏の研究者ほど生産性が向上
論文を書く、過去の研究を調べる、実験の方針を決める、研究成果を評価する。人工知能(AI)は、研究者の仕事をどこまで変えるのか――。科学研究の現場にAIが急速に入り込むなか、「科学そのもの」を研究対象にする国際会議が米国コロラド州ボルダーで開かれた。
会議は「ICSSI 2026」。正式名称は「International Conference on the Science of Science and Innovation」で、6月29日から7月1日(現地時間)まで、米コロラド大学ボルダー校を会場に開催された。論文、引用、研究資金、特許、研究者のキャリアといったデータをもとに、科学がどのように発展し、どのような制度に支えられているのかを分析する研究者が集まった。
ICSSI 2026では、招待講演、パネル討論、ライトニングトーク、口頭発表、ポスター発表が行われた。テーマは、AIと大規模言語モデル(LLM)の研究利用、研究者のキャリア、査読と研究公正、ジェンダーと多様性、研究インフラ、引用分析、科学政策など多岐にわたった。
今回の中心的なテーマの一つは、AIと科学の関係だった。近年、生成AIやLLMは、文章作成や情報検索だけでなく、研究計画の立案、査読、データ解析、知識の整理にも使われ始めている。会議では、AIが研究を効率化する可能性と同時に、研究評価や知識の偏りを広げる危うさも論点となった。
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AIは「科学の進む方向に影響を与える存在」
初日の招待講演の一つでは、タンパク質の立体構造を予測するAI「AlphaFold」が取り上げられた。報告では、AIが従来の実験を単純に置き換えるのではなく、研究者が新しい対象に取り組むための手がかりになっていることが示された。AIは「人間の研究者の代替物」ではなく、科学の進む方向そのものに影響を与える存在として捉えられていた。
AIに関する議論は、論文執筆にも及んだ。英語を母語としない研究者にとって、AIによる文章支援は国際的な発信を助ける可能性がある。一方で、AIが似たような表現や研究テーマを広げれば、科学全体が均質化する恐れもある。
便利な道具としてのAIと、研究文化を変える制度的な存在としてのAI。その両面が、会議全体を通じた大きな論点となった。参加した東京大学の浅谷公威特任准教授(計算社会科学)は、今回の会議について次のように話す。
「生成AIの科学への影響はICSSIでも主要テーマでした。研究者の生産性分析では、日本を含む非英語圏の研究者ほど向上が大きいといった発表もありました。生成AIが研究エコシステム全体に与える影響も議論の中心で、こうした問いは『科学を科学する』視点で解明する必要があります。日本でも、研究力やイノベーションを考えるうえでこの視点はますます重要になると思います」
研究を支える制度と日本からの成果

AIの影響は、研究の効率化や論文執筆だけにとどまらない。会議では、科学を支える仕組みそのものも大きな論点となった。査読は本当に研究の質を保証しているのか。若手研究者は安定して研究を続けられるのか。研究費の配分は、挑戦的な研究を促しているのか。こうした問いが、研究者の経験則だけでなく、大規模なデータ分析によって検証された。
この問題意識は、科学政策をめぐる議論にもつながった。最終日には、米国政策における科学的知見の扱い、研究費削減の地域経済への影響、AI研究の拡大と連邦研究資金の関係、NIH(国立衛生研究所)のScience of Science関連活動などを扱う発表が行われた。パネル討論でも、今後の科学政策に必要な研究課題や機会がテーマに掲げられた。
日本の研究者が関わる発表も存在感を示した。SNS上での情報取得と研究インパクトの関係、技術力の評価、プレプリントサーバーの実態など、日本でも関心の高いテーマが国際的な文脈で報告された。
日本の研究者が関わるポスター発表のうち2件は、ベストポスター賞を受賞した。国際会議での受賞は、日本発のScience of Science研究が、学術情報流通や研究評価をめぐる国際的な議論の中で一定の評価を得たことを示している。
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科学は研究室の中だけで進むものではない
ベストポスター賞を受賞した天賀広氏(和歌山大学)らの研究は、学術論文の公開基盤として広く使われているarXivについて、すべてを「出版前のプレプリント」と見なしてよいのかを検証したものだ。
arXivのメタデータとSemantic Scholarのデータを突き合わせた結果、公式出版後にarXivへ投稿された「ポストプリント」は件数として増えている一方、arXiv投稿全体に占める比率は低下傾向にあり、投稿傾向には分野差も見られた。arXivを一律にプレプリントサーバーとして扱うと、引用数や研究動向の時系列分析、機械学習による予測分析にずれが生じる可能性がある。学術情報流通をどうデータとして捉えるかを問い直す研究として評価された。
科学は研究室の中だけで進むものではない。研究資金、査読制度、若手研究者のキャリア、国際的な研究競争、政策との関係が、研究の方向性や成果の評価を左右する。優れた研究者や新しい技術だけでなく、誰のどのような研究を支え、評価するのかという制度の設計が、科学の行方を決める。
AIが研究に深く入り込む今、科学を支える仕組みそのものをデータに基づいて検証する必要性が高まっている。
文/吉田光男 内外タイムス





