護憲集会デモを放映しないNHK、井上会長は何をおそれているのか
毎週末のように、全国どこかで護憲・改憲反対のデモや集会、街頭活動が行われている。にもかかわらず、NHKでその様子が報じられることがほとんどないとSNS等で批判されている。
具体的な事例もある。4月8日夜に行われた大規模な改憲・戦争反対の国会前デモについて、NHKは現場で取材しておきながら、オンエア10分前になって差し替えた問題だ。しかも、ネット配信だけは行われていた。
朝日新聞編集委員・論説委員の田玉恵美記者はNHK側に対し、「国会前デモの放送を直前で差し替えた(放送しなかった)判断に、上層部は関与したのか」と問いただした。
それに対して、NHKの井上樹彦会長は「個別のニュース、これも含めて1つひとつ(自らが)関与しているわけではない」と答え、差し替えについても「伝聞の情報にはコメントできない」とした。具体的な指示の有無や内部調整の経緯については明言を避け、あくまで「自主的な編集判断」の範ちゅうであるという姿勢に終始した。
井上会長は“伝聞の情報”と言っているが、田玉記者はNHK現場の当事者から話を聞いているので、極めて不誠実な言い逃れと言わざるを得ない。そして、5月29日の国会前デモでは東京大学大学院の本田由紀教授が高市早苗首相らを名指しで痛烈に批判するスピーチが大きな話題となったが、NHKは取材すらしなかった。
NHKの会長職は政治家の影響下
NHK出身で武蔵大学名誉教授の永田浩三氏は、最近のNHK内部事情について「由々しきことだが、社会現象を取材するのは社会部記者、国会前デモの原稿を書くのは政治部記者」とYouTubeチャンネルで明かす。さらに、「高市さんに都合の悪いニュースとして、一連のデモも扱われている」と指摘した。
NHK内部では、「現場(社会部)」と「上層部・政治部」の間にあつれきがあるということだ。
2015年、安全保障関連法案(安保法制)にSEALDs(シールズ)が反対運動を展開した際は、永田氏は現場に通い、NHKのカメラも職員たちも現場に足を運んだという。この10年でNHKの体質は大きく変わってしまったのか。
今年1月25日から会長を務める井上樹彦氏は、18年ぶりの内部出身者で、会長職には6人連続で外部からの登用が続いていた。NHK会長は、経営者や有識者が集う経営委員会が選ぶことが放送法で決まっているが、実際には、6代の民間企業出身会長の人事には、安倍晋三元首相や麻生太郎元首相の影響力が反映されてきた。
昨年11月、次期会長人事をめぐって調整はかなり難航した。経営委員12人による採決は賛成9、反対3という規定条件(9人以上の賛成)ぎりぎりの結果となった。文春オンライン(文藝春秋)によれば、井上会長案には高市早苗首相が反対していたが、最後は麻生氏らが「井上でいいじゃないか」と説得したらしい。
井上氏は入局以来主に政治記者をしていて、政治部長も務めた人物であり、就任前から政治との距離感が問われている。実際、島桂次氏や海老沢勝二氏は自民党と関係が深い会長だと言われた。井上氏には局内から「会長として自主自律、不偏不党を掲げられるか、政治に対して厳しい目を持ち続けられるか」といった懸念の声が出ているという。
今回、国会前デモについて放映中止になったのも、政権や政治的圧力に対する「忖度(そんたく)」が働いたのではないかという厳しい目が向けられている。NHKは全国に支局を張りめぐらす組織だが、デモ・集会の1つひとつをストレートニュースで扱う必要はない。
しかし、社会の大きなトレンドである以上、ニュース解説のような番組で扱うのは自然な流れではないだろうか。
文/横山渉 内外タイムス


