#16 織田邦男「核抑止戦略を真剣に検討すべき時である」

「核抑止戦略を真剣に検討すべき時である」 麗澤大学特別教授 元空将 織田邦男

 1月20日、トランプ大統領は就任式後の記者会見で、金正恩北朝鮮労働党総書記について「彼とは関係がよかった。核保有国だが、うまくやれた」と述べた。北朝鮮を「核保有国」と米国は認めてこなかったので驚きが広がった。

 第一期トランプ政権では、北朝鮮の核について、「完全で検証可能かつ不可逆的廃棄」(CVID: Complete, Verifiable, Irreversible Denuclearization)の方針で交渉が進められた。だが、今回は「廃棄」の声は聞こえてこない。

 バイデン政権では、「拡大抑止を強化しつつ、朝鮮半島の完全な非核化に向けて具体的な進展に向けた外交を模索する」(米国家安全保障戦略2022年10月)としていたが、何一つ進展はなかった。

 その間、北朝鮮は最高人民会議(2023年9月)で憲法に「核戦力強化」を明示し、着々と核ミサイル技術を向上させた。昨年10月には、米本土の届く大陸間弾道弾「火星19号」の発射を成功させ、ICBMの「最終版」と発表した。ワシントンが攻撃可能になったことを意味する。

 今年1月6日には、新型極超音速の中距離弾道ミサイルを発射した。このミサイルは米国本土には届かないが、日本全土を攻撃圏内とし、日本のミサイル防衛システムでは迎撃できない。核弾頭の量産も図っており、2027年までに最大242発の核弾頭を保有するという。(米ランド研究所)

 脅威は意図と能力の掛け算である。北朝鮮は「日本列島は核爆弾により海に沈められなければならない」(2017年9月14日 朝鮮中央通信)と意図を明確にしている。日本にとって「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」(防衛白書)である。

 こういった中、昨年12月、核から日本を守る米国の「核の傘」に関する初の核抑止指針が日米両国政府で策定された。だが、ワシントンを攻撃できる核ミサイルが完成した今、本当に「核の傘」は「破れ傘」ではないのか。「ワシントンを犠牲にして、東京を守ることはあり得ない」とキッシンジャーは喝破した。

 昨年、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞した。核廃絶は人類の究極の目標であり、被団協に敬意を表したい。だが、核廃絶までの間、どうやって国民を核から守るかということも忘れてはならない。我が国を二度と被爆国にさせない核抑止戦略が真剣に求められる時である。

 最初の被爆国だから核保有国も日本に遠慮してくれるといった滑稽な幻想を抱いてはならない。「被爆国」は決して特権ではないのだ。

おりた・くにお 昭和27年愛媛県生まれ。昭和49年防衛大学校卒業(18期)、航空自衛隊に入隊、F4戦闘機操縦者として第6航空団(小松)に勤務。第301飛行隊長(新田原)、第6航空団司令、航空幕僚監部防衛部長を経て航空支援集団司令官を最後に退官。米国空軍大学留学、スタンフォード大学客員研究員。退官後東洋学園大学客員教授を経て、令和4年から現職、元空将。令和4年、瑞宝中綬章を受章。令和4年より産経新聞「正論」執筆メンバー。第38回正論大賞を受賞。

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