つなぎびと「ドンコリism」
「若者がいなくて、文化や歴史を受け継ぐ人が少なくなった」そんな嘆きがよく耳に届く。地域にとっての宝であるはずなのに、このまま消えてしまうのだろうか。そんな問いへの答えの糸口となったのが、島でイタリア料理店「ドンコリism」を営む望月直樹さんとの会話だった。
望月さんが料理に興味を持ったきっかけは、小学生の時だ。宿題で作ったカレーを食べ、喜ぶ母の姿にうれしさを感じたという。「料理で誰かの笑顔が見たい」その気持ちは今も変わらない。
専門学校時代、陽気なイタリア人シェフとの出会いが、イタリア料理の道へ進む契機となった。最高の味を、ワインを飲みながら楽しく生み出す姿は、今でも憧れだと言う。
卒業後、国内での料理店勤務を経てイタリアへ渡った望月さんは、改めてイタリア料理の奥深さに魅了された。レシピにはその土地の食材、生活スタイル、人々の関係性が反映されている。古くから伝わる料理の根底には、必ず歴史や文化が存在していた。
また、そうしたレシピが、脈々と受け継がれていることに感動を覚えたという。修行先では、シェフの子供達が学校帰りに立ち寄るのが日常だった。シェフが大事に守り抜いた味を、今では子どもたちが継承している。
「料理の味も街並みも、変わらずそこにあるんですよ。これって純粋に素晴らしい事だと思いました」イタリアでの日々は、受け継ぐことの偉大さを教えてくれた。
修行を終えて数年後、友人の誘いで宮古島を訪れたことが、大きな転機となった。島に立った時、イタリアのシチリアに似た空気を感じたという。「宮古島の素材を使ったイタリア料理店を開こう」と心に決めた。すぐに移住し、宮古島の食材や人々に触れ開店した。
望月さんの料理には、宮古島の品がふんだんに使われている。「これ、知ってる?」農家の方が手土産で渡す食材を、喜んで受け取る。どんなレシピが根付き、受け継がれてきたのだろう。そこに紐づく歴史とは。料理を通して望月さんは文化と歴史、宮古島の多様性を伝えてくれる。
料理を介したそれらが、私にスッと浸透したように、何気ない日々の中に織り混ざっているからこそ、文化や歴史は自然と受け継がれるのかもしれない。今を生きる子どもたちがそれらに触れる機会を「日常」に創り出すことが、大人に求められているような気がした。「ホッとする、いつも変わらない宮古島の景色」は、文化や歴史を紡いだ先にあるのだろう。
(執筆・ピコパル/隔週日曜日掲載)