正義感かノルマか…神奈川県警元巡査部長が見せた交通違反検挙へのこだわり、不適正取り締まり「許されると認識」【裁判傍聴記】
「違反があれば、違反の捜査をしてもいいんですか。あなたの正義感は、そういうものですか」
被告人質問の終盤。裁判長はふだんより少し上ずったトーンで、N被告に問いかけた――。
神奈川県警の交通違反不適正取り締まり事件で、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた県警第2交通機動隊の元巡査部長、N被告(42)の公判が横浜地裁で開かれ、被告人質問が行われた。
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N被告は交通違反の取り締まりに不適正があったことを謝罪しつつも、きっぱりとした口調で次のようにアピールした。
「この20年間、警察官として交通事故、事件を減らすための努力をしてきたことは、理解していただきたい」
起訴内容自体は、不適正な方法で速度超過の交通取り締まりを行い、事実と異なる記載をした反則切符や実況見分の書類を作成したという罪。だが、実際にこの公判で裁かれているのは、「交通取り締まりの実態」そのものと言える。N被告は不適正な取り締まりを“主導”していたとされる人物だ。
車間距離40メートルに保ち、100メートル以上追尾して測定
検察側によると、県警の内規では速度超過の車両を追尾して取り締まる際、制限速度が時速70キロ以下の道路では対象車両の後方から車間距離を40メートルに保ちながら100メートル以上の距離を追尾することで速度超過を測定、確認すると決められていた。
ただ、N被告らは車間距離が40メートル未満だったり、追尾距離が100メートルに満たなかったりした場合でも、違反として処理していた。
N被告は大学卒業後、2006年に県警に採用され、09年から14年にかけて第2交通機動隊の第4小隊に配属。その後、22年から再び同第4小隊に配属されていた。交通違反取り締まりの経験が豊富なことで、組織内部でも知られた存在だったという。
弁護人「当時、他の隊員も正規の方法で取り締まりをしていたのでしょうか」
N被告「そうは思いません。その(追尾)方法は、高度な技術を要するものなので」
弁護人「自分がしていた取り締まり方法については、どのように考えていましたか」
N被告「許されるものと認識しておりました」
不適正な取り締まりは「ほぼ全ての隊員がやっていた」と明言。それが組織内部で問題視されなかったのかを問われると「ゼロから違反を作り上げたわけではないので」とした上で、次のように語った。
「当時は、厳正な測定を軽視するような風潮はありました」
「違反行為があることは間違いないので、1件でも交通事故を減らしたいと思っていました」
速度超過の車両を見つけて追尾しようとしても、相手はパトカーに気づけばすぐに法定速度内に減速する。厳正な測定では取り締まり対象とならず、速度超過していた違反車両を“見逃す”ことになる。
少しくらい車間距離が短くても、追尾距離が短くても一時的には速度超過していたのだから取り締まるべきだ、違反をでっち上げたわけではないのだから構わないだろう――というのがN被告の考えの根底にある。
2022年から追尾方法変更
弁護人から「何か裁判所に言っておきたいことがあれば」と促されると、N被告は再び謝罪の言葉を簡潔に述べつつ、「20年間、私が正義感をもって努めてきたことの正しい部分を、警察官の方には継続して事故防止に努めてほしいと思っています」と力を込めた。
検察側は犯行動機について、県警が22年から追尾方法を変更したことにより以前のような検挙数を上げることが難しくなり、検挙数維持のために不適正な取り締まりを行うようになったと指摘。つまりノルマ達成、成績を上げることが目的だったとの主張だ。
検察官「小隊長から、あなたの取り締まり方法について注意されたことがあったのでは」
N被告「(間をおいて)あったと思います」
検察官「どのように注意されたのか」
N被告「無理はしないでね、という指導はあったと思います。でも無理はしていないので…」
検察官「『無理はしないで』とは、どういう意味だと」
N被告「違反は作らないで、と」
検察官「(速度超過の)測定方法に問題があるという指摘なのではないですか」
N被告「当時はそうは思いませんでした」
単なるノルマ達成が動機だったのならば、本心はともかく平身低頭でひたすら謝って法廷の場を穏便にやり過ごすこともできたはず。だがN被告は、自身の「正義感」を前面に押し出した。交通違反や事故を少しでも減らせるなら、少しくらい規定から外れた方法でも取り締まってしかるべきだ――。
法廷でこの考えを強調すれば、被告として「反省が足りない」との印象を抱かせるリスクがある。それでも、気持ちを抑えられなかったのか…。違反取り締まりに“取りつかれた”かのような、執ようとも言えるこだわりがかいま見えた。
関係者24人処分のうち唯一の懲戒免職
その「正義感」を疑問視した裁判長。「人を罪に問うには、警察官も厳しい対応が必要なのではないですか。あなたの正義感自体が、間違っているのではないですか」と責めた。N被告は「今思えば、間違えていました」と応じた。
最後に発言を許されたN被告は、次のように語った。
「警察人生20年間、間違えた正義感もありました。大変申し訳ない思いでいっぱいです」
「正義感『も』」の響きに、いまだ割り切れていない思いがにじんだ。
一連の問題で県警は今年2月、2716件の交通違反を取り消し、関係者24人を処分したと発表。N被告はただ一人、懲戒免職処分を受けた。検察側は懲役1年を求刑し、弁護側は「これまで県警に大いに貢献してきた実績もあり、既に社会的制裁を受けた」などとして執行猶予付きの判決を求めた。判決は12月11日に言い渡される予定。
文/篠田哉 内外タイムス






