日韓陸軍種トップが17年ぶり会談 過去には韓国大使館が記者の取材要請に社印求めるほどの壁
陸上自衛隊のトップ・荒井正芳陸上幕僚長が9月29日から30日まで韓国を公式訪問し、韓国陸軍トップのキム・ギュハ(金圭河)参謀総長と会談した。2人は5月に米のハワイで行われたシンポジウムで対面して以来、会うのは2回目だ。
この件について、陸自が公式に発表したのは翌30日。その後、陸自の公式X(旧Twitter)の最上位に、この件が固定ポストとして貼られている(10月7日現在)。つまり、陸自としても今回の日韓陸軍種によるトップ会談は大きな意味合いがあると認識していることがうかがえる。
陸上幕僚監部広報室によると、2日間の日程中、荒井陸幕長は金参謀総長との会談や公式夕食会、韓国陸軍部隊への訪問、駐韓国日本大使への表敬を行ったという。陸自と韓国陸軍との交流でいえば、これまで幹部自衛官を育成するための学校(陸自幹部候補生学校)と韓国士官学校間のほか、下士官レベルでも定期的に関係を深めてきたと説明する。
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自衛隊専門紙「朝雲」にいた時の話
私事で恐縮だが、私が前職の防衛省・自衛隊の専門紙「朝雲」にいた時、韓国をめぐる話題については何かとメディアからの注目度が高い印象だった。記者が注目するということは、そのネタがニュースになる。つまりその話題自体がセンシティブな問題をはらんでいるということだ。だからこそ双方の防衛当局も広報が慎重になる。報道後の反響によっては、これまで積み上げてきた関係にひびが入る可能性にもなりかねないからだ。
「近くて遠い国」という言葉に収れんされるように、日本と韓国は今ですら文化交流などが盛んだが、依然として両国間には「歴史」やそこから派生する「政治」の問題が横たわっている。今回のように事が「軍種」間の話になる場合、防衛当局間の担当者はとても神経を使うのだ。それを示す一例を挙げたい。
2025年5月~6月にかけ、フィリピンで米比海兵隊との共同訓練「カマンダグ25」が行われた。この時、陸自側からメディアへの事前説明では「陸自部隊と韓国軍部隊が同じ訓練を共同で実施する」旨が示された。たちまち記者陣の反応が色めき立ち、各メディアは一斉にこの内容を伝えた。
すると、今度は韓国メディアがすぐさま反応。韓国海兵隊司令部の話として「陸自と合同演習する計画はない」とし、「このような報道は事実と異なる」と発信したのだ。この時、私は陸自にどちらが正確な情報なのか確認をしたが担当者は困惑しきりだった。
通常、訓練は事前に双方で綿密な調整が行われる。メディアに発表する段階に至ってはなおさらだ。だからこそ、この期に及んで相手国メディアから発表内容を否定されることは通常あり得ない。しかし、そういう情報が相手国の軍司令部からの話として出てしまった以上、陸自としても何らかのメッセージなのだろうかなど勘繰ってしまうし、完全にはしごを外された形となってしまった。
通常の取材でのやり取りとは…
通常、私も記者として、例えば自衛隊と他国軍による訓練などについて何か聞きたいことがあれば、自衛隊側の担当者からこう言われる。
「相手国との関係上、回答は控える」
ただ、私はいつもその回答についてこう反論する。
「相手国がいない訓練や協議など、そもそもあり得るのか」と。
担当者はあらかじめ相手国と調整し、記者に回答できる想定問答を逸脱した内容については基本的に答えられないのだ。ただ、自衛隊側が相手国の担当者に照会をとって、「この内容については回答してもいい」という了承が取れれば、その回答は可能となる。ただ、それを行う時間と労力は膨大にかかる。記者の方も「速報性」という縛りがある以上、ニュースの内容にはよるものの、普通はそこまで深追いはしない。
二転三転する韓国大使館の回答

ただ、当時「朝雲」の記者だった私にとっては防衛専門紙記者である以上、この件については納得ができなかった。なので直接、駐日韓国大使館に問い合わせることにした。港区南麻布にある駐日韓国大使館に電話をし、教えられた担当課のメールアドレスに質問を送り、回答期限を2日設けた。
すると、回答期限日に大使館から、こう返事が来た。
「韓国海兵隊は今回の多国籍訓練の際、陸上自衛隊との合同訓練は計画しておりません。従って質問に対しては答えられる内容が御座いません。ご了承ください」
これは韓国メディアが報じた内容と一致するものだ。では、陸自側の発表はうそなのだろうか。改めて大使館側に陸自から説明されたことをメールで伝え、質問することにした。すると翌日、こんな返信が来た。
「その件に関しては確認できません。韓国側がお答えすることは昨日の答えしかありません。すみません」
大使館からの謝罪は国家からの謝罪とも受け取れる。しかしいち記者ごときにそんな対応はしないはずだ。これはむしろ本国からの回答というよりは現場レベルの担当による「ここで打ち止めにしてくれ」という心の声なのだろうと推察できた。
しかしそれから約4時間後、こんなメールが新たに届く。
「今般の『カマンダグ』演習につきまして、韓、日、比の共同で実施する予定です。ただ、同じボートに韓、日の隊員が乗ることについては計画されておりません」
これ以上、さらに聞いても何も答えないことは明白だった。韓国側が譲歩し、陸自側の発表とも相反しない形での公式なコメントが得られたのだ。すぐに次の朝雲新聞の1面にこの回答を載せ、報じることはできた。
ちなみにこの後、さらに追加で質問をしたが、大使館側は態度を硬化させた。質問を1枚の文書にし、右下に会社の正式なはんこ(実印)が押印されたものを要請してきたため、そのように処理した文書データを再度メールに添付して送信したが、その後の回答はなかった。
結局、訓練で日韓の隊員が共同で訓練をしたのか、韓国側がなぜ陸自の発表の火消しに走ったのかなど、真相は分からなかった。
当時、ある自衛隊関係者はこんなことを言っていた。
「海(海上自衛隊)や空(航空自衛隊)はすでに韓国と訓練をやっているが、陸となると韓国側にとってはまだハードルが高いのかもしれない」
言うまでもなく、日本は過去に朝鮮半島を植民地にした。日本の統治の方法をめぐってさまざまな議論はあるが、日本が侵略した事実は消えない。自分の祖先が辛酸をなめた歴史を共通認識として持つ韓国の人たちにとって、日本の陸軍に相当する陸自の隊員と共同で訓練を行うことに、一種のためらいの気持ちがあることは十分理解できるものだ。
日韓を歩み寄らせた安保環境と韓国側の事情
ただ安全保障環境をめぐる情勢は2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻で一変した。日韓が重要な同盟国に位置づける米国はトランプ政権の迷走で心もとない。「有事に米軍が守ってくれる」という安心が不確実性を帯びれば、おのずと2カ国の距離は縮まる。一方でもう一つ別の要素も考えられる。
日韓の陸軍種トップが会談を行った9月29、30日から約1週間前の21日、韓国と北朝鮮の軍事境界線で地雷が爆発し、韓国軍の幹部3人が重軽傷を負った。朝鮮日報は、陸軍第25師団所属の幹部と将兵の3人が爆発で大けがをしたと報じた。
事態が緊迫化した中での、今回の陸自トップによる17年ぶりの韓国訪問。韓国陸軍トップとのツーショットは、少なからず地域情勢に大きなメッセージを与えるものだった。
陸上幕僚監部広報室は今回の会談を契機に、「定期的なハイレベルでの対話を継続していきたい」とし、共同訓練についても「双方の状況を踏まえつつ、オブザーバー参加などを検討し、関係を一層強固にしていく考えだ」と答え、最後に一言付け加えた。
「具体的な内容については、相手国との関係もあるため回答を差し控えます」

文/寉見陽平 内外タイムス






