家族と同居しながら自室で大麻を栽培した男 父親が明かした家庭内の“風通し”【裁判傍聴記】
令和8年3月5日、愛知県東海市加木屋町の民家で火災が起きた。たばこの火の不始末によるものだった。
火は無事消し止められたが、駆けつけた警察官が現場で約291グラムの大麻を含む植物片を発見し、その家に住んでいた被告人の男が逮捕された。
現場からは、大麻のほかにハーブグラインダーや大麻の栽培に使用された植木鉢9鉢も見つかった。大麻は室内に置かれていたバケツやビニール袋のほか、野外に置かれていたBBQセットの中に保管されていたという。
火災のあった家では、被告人のほかに父親と弟の2人が暮らしていた。被告人は、家族と同居しながら大麻の栽培を行っていたのだ。
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コロナ禍で大麻が値上がりしたため栽培
この日、被告人は父親と2人で名古屋地方裁判所603号法廷に現れた。
黒のスラックスに短丈の白いシャツという服装で証言台に向かった被告人の耳の後ろには、薄ら青く輪郭のぼやけた、小さなワンポイントのタトゥーがのぞいていた。
平成9年生まれ、28歳の被告人は現在配管工として働いており、17歳ごろに先輩の誘いで初めて大麻を吸ったという。それ以来、常習的に大麻を吸うようになった。
しかし、1グラム当たり5000円程度で購入していた大麻が、コロナ禍の影響で9000円ほどに値上がりしたことで、もっと安く大麻が吸いたいと思った被告人は、密売人から購入した大麻のパッケージ内に種が混ざっていることに気が付き、令和5年の11月からそれを集めて育て始めた。
情状証人としてやってきた父親は、弁護士より「今回の裁判を受けて、どのような気持ちでしょうか?」と問われると、「びっくりしました」とその心中を打ち明けた。
父親は同居していながらも気付けなかった理由をこう語った。
「家の中でも全然会っていなくて、まったく気が付きませんでした」
どこか舌足らずな口調で、緊張も相まってか声色はいささか暗かったが、現在の被告人の生活状況を質問された場面では、「食事も今は一緒で、前とずいぶん変わりました」と、少し明るい口調で答える姿が見られた。
それまでは同居していながら、家で顔を見ることも、会話することもなく、食事も別々にとっていたという。そうした家庭の背景を語る証人の言葉からはどこか寂しさみたいなものが感じられた。
今後、変わらず同居することで被告人を監督するという父親は、「なるべくしゃべるようにして、部屋を観察したいと思います」と対策を述べた。
「今は部屋のドアがないからよく見えます」
そう言って、火災によって焼失したドアについての自虐をにじませつつ、どこか照れくさそうに笑った。
大麻が育たず「ゴミみたいなものっす」
続いて被告人質問が行われた。証言台へ向かうように促されると、被告人は「はい!」と体育会系を思わせる、よく通る声で返事をして立ち上がった。
被告人は現在保釈中で事件前と変わらず配管工の仕事をしている。事件を知った勤め先の社長からは、「反省してまじめに働くように」と言われたという。
現在、周りのサポートを受けて規則正しい生活を送っていると語った。
本件で押収された大麻のうち、バッズ(花穂)を除くほとんどが、彼が栽培したものだった。
バッズは吸う目的で密売人から購入したものだという。
「無料なので、育ててみようと思いました」
弁護士より栽培を始めた理由を聞かれ、そう答えた被告人だったが、その結果はあまりにもわびしいものだった。
彼はSNSで方法を調べ栽培を始めたものの、大麻は思うように育たず、吸っても思うような効き目は得られなかった。人知れず始まった大麻栽培は4カ月後、人知れず終わりを迎えた。
現場で発見された植物片のほとんどはその際に出た茎や枝で、捨てるに捨てられないまま放置していたのだという。被告人はそれらについて、「ゴミみたいなものっす」と表現していた。
その言葉には、思い通りに物事が進まなかったことに対する諦念みたいなものがにじんでいるように感じられた。
被告人は今後、SNSを削除することで大麻とつながりがある人間から距離を取り、交友関係を見直すという。
質問に答えていくたびに被告人の声は次第に小さくなっていった。最終陳述では少しばかりかすれた声でこう語った。
「二度とないようにしたいです」
検察側は日常的に所持・使用をしていたことや、同居していながら父親が気付かなかったということからも再犯の恐れがあるとして、拘禁刑2年6カ月を求刑した。
それに対し、弁護側は捜査に協力的で尿検査などにも素直に応じたことなどを踏まえ、執行猶予付きの判決を求めた。判決は10月15日に同法廷で言い渡される。
立て続けに起きた自宅の火災や息子の逮捕という出来事を経て、法廷に現れた親子の関係はすこしだけ、風通しが良くなったのかもしれない。
文/桑原怜史 内外タイムス






