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国際興業創業者一族 小佐野匠インタビュー(第3回)経営危機の国際興業をサーベラスが買収 相続した15億円がゼロに、株式もすべて紙くずに

2004年、膨大な債務を抱えて経営危機となった国際興業を、米投資ファンドのサーベラス・キャピタル・マネジメント(以下、サーベラス)が銀行から債権を買い取る形で買収した。同年10月28日、匠氏の母は、突然、隆正氏に呼び出され、米投資ファンドのサーベラスによる支援受け入れの方針と、小佐野一族が保有する株式の無償減資を告げられる。サーベラスは帝国ホテル株や八重洲富士屋ホテル、浜松町の遊休地などの優良資産を次々と売却し、収益を上げて投資回収を行った。

国際興業創業者一族 小佐野匠インタビュー(第2回)祖父政邦の死去と現会長正隆との対立 竹中平蔵の施策で国際興業から小佐野家追放の危機に から続く。

尊敬し、慕っていた伯父と祖父が築き上げた財産がたたき売られていく。その時の心境はどのようなものだったのか。

「残念だけど、隆正氏のような私利私欲しかない社長じゃしょうがないですよね。やっぱり、必要な資産というものはそれを活用できる人が持っていないとダメなんでしょうね。残念ではあったけど。2013年にサーベラス側から入った国際興業では、経営企画担当部長だったので、浜松町2丁目の売却プロジェクトに私も結構関与したんです。ちゃんと売れないとサーベラスがEXIT(保有株式を売却し、投資資金を回収する出口戦略)できないという状況でした。

さすがに隆正氏もそうなると彼のメンツも丸つぶれになってしまうので、サーベラスからの言い値の1400億円、配当と合わせて1675億円で自己株買いですよ。基本的に国際興業のお金でサーベラスに1675億円払うことで、サーベラスに出てってもらって100%自分のものにしたっていうのが実態ですよ」

自分は国際興業の社長になる人間――。だが、入社することもできず、人生設計は大きな変更を余儀なくされた。慶應義塾大学卒後、早稲田大学大学院に進みMBAコースを修了する。

「もうね、当時、本当に困っていたんですよ。どうしよう、留学しようかなとか。もともと(国際興業の)メーンバンクだったUFJ銀行に行くことになっていたんですよ。頭取から『お待ちしています』って言われていましたから。でも当時は厄介者でしたよね、私は。竹中さんが大臣になっている時代ですから。

だから就職活動は本当に苦労しましたね。大学院1年生の時、2004年の秋に国際興業から追い出された事件が起きた。その頃からもう国際興業とか、隆正氏とか、その時は完全に敵対的な関係になりましたから」

相続した現金は1円も残らず“15億円”がすべて紙くずに

自身の不安定な進路とともに、国際興業や小佐野家内での騒乱もピークを極めた。当時、隆正氏からの一方的な通告に対し、交渉に必要な材料が何もなく、不本意ながら何も対価のない形で要求を受けざるを得なかった。

国際興業と完全に縁を切れとの通達であり、もはや頼れるものが何もなくなった。結局、祖父政邦氏からの相続時に、母、匠氏、弟の3人が相続した財産のうち、現金の15億円は国際興業株式を相続するための納税資金に全額を充当していたが、そこまでして守ろうとした国際興業株式は3年少々ですべて紙くずになってしまい、経済的にも大きな不安を抱えることとなった。

「相続した現金は1円も残らなかったですね、私の分は。国際興業の株式だけ相続していたらそれも全部紙くずにされてしまって。それだったら15億円持っていたら全然違うスタートを切れていましたよね。本当にそれは恐怖ですよね。だから、そこからの私の原動力って『とにかく貧乏にならないようにしよう』でした。

だけど、家族のそれまでの暮らしぶりを見ていると、どう考えても年間3000~4000万円かかると思って。国際興業がない状態で、どうすれば維持できるのかを必死に考えました。普通の日本のサラリーマンをやっていたら、絶対に無理な生活だったから。ある程度稼げそうな仕事っていったら、もうM&Aとかしかないだろうなと。そういう系の会社ばっかり受けていましたね。とにかく頑張れば、稼げそうだっていうところを狙いました。それで行きました」

民間会社に就職、“北朝鮮”と呼ばれるスパルタ部署に配属

行くべき場所は生まれた時から決まっていた。しかし、まったく想像もしていなかった就職活動をすることになった匠氏。入社試験で志望動機をこのように話していた。「貴社で誰よりも懸命に働いて、絶対的スキルと人脈を獲得した上で、いつか自らの手で愛する国際興業の再建を成し遂げたい」。愛情も恨みもひっくるめて、国際興業に対する思いは途絶えていなかった。

「とにかくサーベラスとか、小佐野隆正とか、そいつらに一泡吹かせてやるっていう思いが、当時すごくありましたよね。そのためにも、サーベラスの人たちとも仲良くなろうとした。だからある意味その10年後、奇跡的に国際興業に入り込んで裁判までもっていけて、ある意味、自分の思い描いていた通りに人生が進みましたよ。そのために本当に必死に頑張りました。

そこまでの自分があるのも国際興業のおかげでしたから。だから自分も『国際興業をなんとかする、国際興業とは一心同体』くらいに思っていましたから。でも、いきなり追い出されたわけで。そこからは臥薪嘗胆というか、当時はすごい感情でしたよ」

早稲田大学大学院でMBAコースを修了し、新卒として株式会社レコフに入社する。開発部門に配属され社会人としてスタートを切る。国際興業創業者一族の御曹司という「親の七光り」の光が全く届かない職場。何の忖度もない職場で匠氏は着々と仕事のスキルを身に付ける。

「M&Aの仕事を作り出すことが任務でした。レコフの北朝鮮って言われている部署に配属されたので、大変でした。上司がとにかく厳しい人で、朝から立ったまま自己批判させられて、会社四季報をブン投げられてね。毎朝6時半ぐらいには会社に行って、毎日ほとんどガチャ切りされる100以上の営業電話をかけてと、もう死ぬ気でやっていましたよ。

おかげで独立してもM&Aの仕事ができているので、今はとても感謝しています。株式価値2~30億円のM&A案件を1個やると、それだけで億の収入にはなりますからね。手に職をつけさせてもらいました」

いずれ社長になるためサーベラスを通じて国際興業に入社

そのレコフでM&Aのスキルを身に付けながら約3年働き、トップクラスの営業成績を維持し続ける。だが、その会社を去り、2013年の8月、国際興業に経営企画部担当部長として入社する。幼少時代から自分は社長になると夢を抱き続けた国際興業。慶應義塾大を卒業後、大学院、自力で選んで入社した民間企業を経て、ようやく敬愛する賢治伯父が創設した会社に入社することになった。

「サーベラスに自分から売り込みに行ったんですよ。サーベラスのマネージングディレクターがもともとレコフにいた人で、だから接点があったんですよ。もちろん、出会ったのは偶然です。でもまあ、偶然というか、必然というか、両方あるでしょうね。レコフも私が国際興業の小佐野だということを当然分かって、採っているわけですから」

“昨日の敵は今日の友”を体現するかのように、国際興業の資産整理を断行した憎きサーベラスを通じて、今度は国際興業に入社してしまう。しかし、実際に国際興業に行くと、筆舌に尽くし難い対応が待っていたという。

「それはもうひどくて、ものすごい敵意に満ちあふれているわけですよ。たぶん、上からそうするように、御触れが出ているんでしょう。入社から3日ぐらいすると、課長と係長ぐらいの人たちが『ちょっと組合の新聞を手に入れたんですけど、こんなのが出ていました』と言って。『サーベラスの手先』って僕のことが書かれているんですよ。

『今、我々が窮境にあるのは、前社長(小佐野政邦氏)がすべて悪いのです。今の小佐野(隆正)社長は素晴らしい方です。だから、そいつ(匠氏)が来たら、全組合を挙げて攻撃してたたき出します』みたいなこと書いてあって。案の上、その2日後ぐらいに組合の三役が『ごあいさつに来ました』とやって来て、僕のことを非難する声明文みたいなものを目の前で、大声で読み上げて帰っていきました。

もちろん、国際興業にはいずれ社長になるつもりで行きましたよ。それはもう小佐野隆正のことを倒そうと思っていたんで。中に入って、証拠とかいろいろつかんで」

国際興業創業者一族 小佐野匠インタビュー(第4回)骨肉の612億円訴訟 サーベラス撤退後、隆正氏らを相手取って損害賠償請求 に続く。19日18時公開。

《プロフィール》
小佐野匠(おさの・しょう)1981年生まれ。東京都出身。国際興業株式会社の創設者、小佐野賢治氏の実弟で、帝国ホテル会長や国際興業社長を務めた政邦氏の孫。賢治氏は戸籍上は伯父にあたる。1994年慶應義塾幼稚舎卒業、1997年慶應義塾普通部卒業、2000年慶應義塾湘南藤沢高等部卒業、2004年慶應義塾大学経済学部経済学科卒業、2006年3月早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻MBAコース修了。2006年株式会社レコフ入社。2013年国際興業株式会社経営企画部担当部長、2014年国際興業エンタープライズ株式会社へ業務部長として出向。2019年かいじキャピタル株式会社、2023年にかいじ人材株式会社を設立、代表取締役を務める。

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