前科3犯、100回超の盗撮…カウンセリングと母の声かけが途絶えた理由【裁判傍聴記】
「100回は超えていると思います」
前回有罪判決を受けてから、今回逮捕されるまでの間で盗撮行為を行った回数を問われた被告人はそう答えた。
黒のスーツにえんじ色のネクタイ、白髪交じりの髪は真ん中で分けられている。その風体からはどこか真面目そうな印象を受けた。しかし、彼は同種前科3犯という経歴の持ち主だった。
昭和47年に生まれた被告人は大阪市西成区で母親と同居しており、ホテルの受付のアルバイトをしていたが無断欠勤の末に退職し、現在は無職だった。
令和8年5月14日、彼は食べ歩き目的で名古屋市を訪れ、中区栄3丁目矢場町駅構内エスカレーターにおいて、前方に立っていた16歳の少女のスカート内をスマートフォンの無音カメラアプリを用いて撮影しようとした。
撮影に失敗し、気付かれたと思い逃走を図ろうとするも駅員に取り押さえられ、通報を受けて駆けつけた警察官によって逮捕された。
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「何も言えなかった」母親が抱えていた葛藤
情状証人として法廷に現れた彼の母親は、傍聴席と裁判官に一礼し、証言台に向かった。
被告人は顔をゆがませ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべてその姿を見つめていた。
彼女は、以前被告人が逮捕・起訴された際にも裁判で情状証人として出廷していた。それにも関わらず、本件に至ってしまった理由を弁護士に問われると彼女は答えた。
「はれものみたいに、あまり触れられないままに過ごしてしまっていました。それに、私は足が悪くて、ほとんどやってもらっていたので。だから言えなかったってわけではないんですが⋯」
杖をついて出廷してきた彼女の言葉の合間には、苦しそうな息づかいが混じる。
「前回、被告人が逮捕されたときの裁判で、あなたはどういう誓約をしましたか?」
検察官からの質問に答えられず、彼女は黙り込んだ。
「思い出せませんか?」
「特にそういうのは無かったと思います。質問もされてないと思います」
取り繕うように発せられたその言葉に検察官は、「そうですか」と短く漏らすと質問を終えた。
被告人は以前にも、食べ歩き目的で訪れた北海道で盗撮を行い、罰金70万円の有罪判決を受けていた。当時裁判で彼は、「二度としない」と誓っていたが、本件は起きた。
その際、カウンセリングを受けて再犯を防ぐと約束をしていた被告人だったが、現在は通うことをやめてしまっていた。
「1回1万円ほどかかるので、経済的に厳しかったのと⋯。カウンセラーの先生と話していて(効果に)不安があったので」
前回の逮捕から本件に至るまでに100回以上盗撮をしたという被告人に対し、検察官が厳しく追及する。
「そんなにも盗撮を繰り返して、おかしいと思いませんでしたか?」
被告人は「そう思います」と苦しそうな声色で答える。
「で、なんでカウンセリングを受けなかったの?」
「今回で思い知りました」
どこかちぐはぐにも聞こえる被告人の供述は要領を得ない。
「1回くらいは」繰り返された盗撮、その背景にあった油断
直近前科の後、母親からは「(盗撮行為は)何もしてない?」などと声かけがあったものの、次第にそれもなくなっていったという。
時間が経つにつれて、「1回くらいは」「何もなければまたできる」と思うようになり、彼は盗撮を繰り返していった。
「再犯防止のグループみたいなものには参加しないんですか?」
検察官の質問に対し、「全くありません」と被告人は声を上げた。
その瞬間、検察官の被告人を見る目が変わり、その理由を尋ねる。
「抜けるとなった時、抜けられませんし。個人としてっていうか。大規模な犯罪には関わりたくないので」
その言葉に検察官は声を荒げ、法廷に緊張感が走る。
「個人の盗撮ならば問題無いということですか?」
「そういうわけでは⋯」
被告人は「再犯防止のグループ」と「盗撮グループ」を勘違いしていた。話がかみ合わないまま、検察官が質問を終えると、弁護士が慌てて腰を上げた。
誤解が解け、改めて再犯防止グループへの参加の意思を問われた被告人が答える。
「自分に合うかわからないですが⋯。1回行ってみたいと思います」
そして、最終陳述で彼は再び誓った。
「二度と、人生をかけてこのようなことはしません」
判決公判が行われた7月30日、名古屋地方裁判所603号法廷に被告人は1人で、前回の裁判と同じ黒のスーツとえんじ色のネクタイという服装で現れた。
前回の公判で証人として現れた母の姿はない。
言い渡された判決は拘禁刑1年、執行猶予3年だった。
心療内科を受診する意思があることなどが判決の理由として挙げられ、それを被告人はこうべを垂れてうなずきながら聞いていた。
閉廷すると、彼は傍聴席からの視線から逃れるように背中を丸め、足早に法廷を後にした。
文/桑原怜史 内外タイムス






