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「うちは財産が少ないから大丈夫」が一番危ない…税理士が相続の現場で見てきた現実

最近、著名人の訃報が報じられるたびに、「遺産は誰が相続するのか」「遺言書は残されていたのか」といった話題がニュースやSNSをにぎわせる。

さらに今年6月には、パソコンやスマートフォンなどを活用した新たな「デジタル遺言制度」の創設を盛り込んだ民法改正が成立した。制度の施行はこれからだが、遺言をより身近なものにしようという流れは確実に進んでいる。

こうしたニュースを見て、「相続は資産家だけの話」「うちは財産が少ないから関係ない」と感じる方も多いのではないだろうか。

しかし、税理士として数多くの相続に携わってきた私には、少し違った景色が見えている。相続でもめる原因は「財産の多さ」ではない。

財産の分け方が決まっていないため、きょうだいの関係にヒビ

相続の相談で、私が最もよく耳にする言葉がある。

「先生、うちは家族仲もいいですし、財産も多くありません。相続でもめることはありませんよ」

実は、この言葉を聞くたびに少しだけ心配になる。相続でもめる原因は、財産の多さではなく、「分け方」が決まっていないことにあるからだ。

実際に私が担当した案件でも、遺産は自宅と預貯金が中心という、ごく一般的なご家庭があった。

長男は「親と同居してきたので、このまま住み続けたい」と考え、長女は「公平に分けるためには売却した方がよい」と考えていた。

どちらも間違っているわけではない。しかし、自宅は現金のように分けることができない。話し合いは長引き、それまで仲の良かったきょうだいの関係にも少しずつ距離が生まれてしまった。

9割の家庭では課税されない相続税

このようなケースは決して珍しくない。

相続でもめる原因は、「財産が多いこと」ではなく、「親の思いが分からないこと」や、「家族で話し合う機会がなかったこと」にある場合が少なくないのだ。

「相続」と聞くと、多くの方は相続税を思い浮かべるだろう。しかし、実際に相続税の申告が必要となるのは、亡くなられた方全体の約1割。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除がある。

例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人であれば、基礎控除額は4800万円となる。遺産総額がこの金額以下であれば、原則として相続税は課税されない。

つまり、およそ9割の家庭では相続税そのものは課税されないのだ。だからといって、相続対策が必要ないわけではない。

税金がかからなくても、不動産や預貯金の名義変更、遺産分割協議などの手続きは必要。さらに、家族の話し合いがまとまらなければ、手続きそのものが進まなくなることもある。

今日から始められる相続対策

「相続対策」というと、節税を思い浮かべる方が少なくないだろう。もちろん、それも税理士の大切な仕事ではある。

しかし、現場で数多くの相続に携わってきた私が本当に大切だと感じているのは、家族が安心して故人を送り出せる環境を整えておくことだ。

そのために必要なのは、決して難しいことではない。家族で相続について話してみること。どのような財産があるのかを共有しておくこと。通帳や保険証券など、大切な書類の保管場所を伝えておくこと。そして、自分の思いを遺言という形で残しておくことだ。

制度はこれから変わっていく。遺言も、デジタル化によってさらに利用しやすくなるだろう。

しかし、どれほど制度が進歩しても、家族で一度話し合っておくことの大切さは変わらない。

税金には答えがある。一方で、家族の気持ちに唯一の正解はない。

だからこそ、元気な今、一度だけでも家族と相続について話してみてはどうだろう。その何気ない会話が、将来の大きな安心につながるかもしれない。

文/亀田敬亨 内外タイムス

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