ひき逃げ罪の男性被告が初公判も“逃亡”で期日に法廷に現れず 無責任対応の理由を聞かず“事務的”だった審理と判決【裁判傍聴記】
7月中旬の横浜地裁。裁判官、検察官、弁護人、書記官がそろった法廷に、開廷時間を過ぎても男性被告は現れなかった。
過失運転致傷罪と道交法違反罪に問われている被告。保釈されていたようだが、「電話しても、何の返答もないんですよ」と弁護人は言う。裁判官が「まだ一度も会っていないんですか」と尋ねると、弁護人は「はい」と答えた。
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裁判官は「6月に送った起訴状は同居人の方、お母さまが受け取っているようなのですが…」と明かすと、検察官が「被告の仕事の関係先に連絡してみては」などと提案。裁判官が「もう一度郵便(召喚状)は送ってみますが、弁護人の方からコンタクトを試みてもらっていいですか」と弁護人に要請し、8月下旬に初公判期日を延期してこの日は閉廷した。
8月下旬。改めて指定された初公判に、被告(31)は手錠をはめられ、係官2人に連れられて法廷に入ってきた。前回の公判の後、身柄を拘束されたようだ。急病など「正当な理由」なく公判に現れなかったことで、「逃亡の恐れがある」と判断されたのだろう。
被告は昨年1月の未明、横浜市の信号機のある交差点で赤信号を見落として交差点に進入し、男性(42)運転の原付バイクに衝突。右脚骨折など加療約3カ月の重傷を負わせた。さらに現場で被害者の救護をせず、警察への通報もせずに現場から逃走したとされる。
「間違いないです」と起訴内容を認めた被告。証言台から弁護人の隣の席へ戻る際、傍聴席の最前列にいた自身の息子とおぼしき男児の近くを通ると、軽く微笑みかけた。
事件当日、被告は自宅で妻と口論になり、「気晴らしに」一人でドライブに出た。途中で臨月の妻から「気分が悪いので病院に連れて行ってほしい」と電話が入り、自宅に戻っていた。「いろいろなことを考えてしまって…」。考え事をしていて赤信号を見落とした、というのが言い分だ。
弁護人「なぜ事故現場から離れたのか」
被告「妻の体調のこととか、自分の勝手なこと、自分のことを守るのを優先して逃げてしまいました」
そのまま自宅に戻り、事故を起こしたことを妻に報告。そして、その直後に取った対応は…「車が盗難に遭った被害届を警察に提出」することだった。
ひき逃げしたのは自分ではなく、車を盗んだ人間だと偽装したかったのだろう。その後、仕事仲間から警察に出頭した方がいいと促され、妻らに付き添われて出頭した。事故から6日が経過していた。
虚偽の被害届提出について弁護人から問われた被告は、「反省しています」とだけ語った。この判断には妻も関与していたようで、情状証人として出廷した妻は「私も妊娠していたこともあり、間違えた判断をしてしまいました」。夫が出頭してほどなく、3人目の子どもを無事出産したという。
新設された不出頭罪の存在意義
交通事故を起こして現場から逃げ、虚偽の被害届を警察に提出し、知人の勧めでようやく6日後に出頭し、弁護人からの電話にも応答せず初公判に出廷しなかった。不誠実のオンパレードのような対応だ。それでも審理は“事務的”に進み、検察官や裁判官が初公判不出頭の理由や事情を問いただす場面はなかった。虚偽届提出についても、特段の追及をしなかった。
約1週間後の判決公判で、横浜地裁は懲役1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。事故現場から離れたことは「厳しく非難されるべき」ことだとしつつ、前科がないことや反省の弁を述べたこと、保険会社を通じて賠償見込みであることに触れて執行猶予を付けたと説明した。公判不出頭や虚偽届提出については一切触れず、まさに“判で押したような”判決言い渡しだった。
公判期日の不出頭罪は2024年2月施行の改正刑事訴訟法により新設されたばかりで、適用件数の統計などは見当たらない。ただ、継続的に刑事裁判を取材していると、指定された公判期日に被告が出廷しなかった例は決して多くはないが、ないわけではない。筆者が6月から8月にかけて法廷取材した範囲内だけでも、横浜地裁でこの件を含めて3件あった。
他の2件は窃盗罪の女性被告と過失運転致傷罪の男性被告で、ともに検察官から不出頭だった理由を延期後の初公判で追及された。女性被告は「息子に会えなくなると思ってしまった」と答え、男性被告は「(日程を)確認しなかった」。ともに不出頭の「正当な理由」には全く当てはまらないことは、言うまでもない。この2被告は不出頭の後も保釈されたまま、延期後の初公判に現れた。
公判の不出頭をめぐり最近では、静岡県内で覚醒剤取締法違反罪などに問われた男性被告が今年3月の公判期日に出頭せず行方不明となり、7月に発見されて不出頭容疑で逮捕されたという例がある。ここまで長期間の逃亡は異例だろうが、無責任な理由で公判を“すっぽかす”被告がそれなりに存在することは事実だ。
せっかく新設した不出頭罪が、どこまで厳密に適用されているのかも一般には見えにくいところがある。きちんと出頭してくる被告と判決結果が大して変わらないのであれば、裁判所が“軽く見られる”ことにつながるのではないか。
文/篠田哉 内外タイムス






