「君以外死ぬかもね」 ストーカー事件の背後にあった元同僚との「曖昧な関係」【裁判傍聴記】
「最悪なこと起こすかも。君以外死ぬかもね」
被告人の男(22)が元同僚の女性Nさん(当時21)に対し、そうメッセージを送った。
ストーカー行為と器物損壊事件で逮捕された被告人の犯行は、Nさんの交際相手である男性Kさん(当時21)へと向けられた。
被告人は、令和8年4月13日0時ごろ、愛知県名古屋市昭和橋通のKさん宅に停められていた自転車の前後のタイヤを包丁で突き刺してパンクさせた。
同月19日にはKさんの勤務先に停められていた自転車の前輪を同様の手口でパンクさせ、21日には後輪をパンクさせた後、ライターオイルとマッチを用いてサドルを焼損させた。
その後、Kさんの両親が住む部屋の玄関ドアにライターオイルとマッチで火をつけた。Kさん宅と間違えてのことだった。幸い、ドアは金属製で火災には至らなかった。
次第にエスカレートしていく犯行の合間に被告人は、Nさんに対して犯行をほのめかすメッセージを送り続けた。それを受け、被害者らは「殺されるかもしれない」と思い警察へと通報した。
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エスカレートした犯行、その背景にあった男女関係
白いアンダーシャツに、黒のスラックスという服装で法廷に現れた被告人は、色白の丸顔からのぞく切れ長の目で傍聴席を一瞥(いちべつ)した後、被告人席に座った。
平成16年に三重県で出生した被告人は無職で、婚姻歴はあるが妻とは別居しており、事件当時は名古屋市中川区で一人暮らしをしていた。
令和6年4月より同市中川区のパチンコ店で勤務していた被告人は、翌年4月から勤務し始めたNさんに対し、恋愛感情を抱くようになった。
彼の誘いで2人で食事にも行き、次第に肉体関係を持つようになったが、その関係が被告人の妻と職場の知るところとなり、彼は退職した。その後、Nさんは同僚のKさんと恋人関係になった。
当時の被告人との関係についてNさんは、「曖昧な関係」と表現したうえで、職場の先輩である被告人の誘いを断れず関係を持ったのだと、聴取の場で語ったという。
開廷後、18分ほど過ぎたところで一人の男性が入廷してきた。裁判長から立ち見はできないと注意を受けたその男性は、情状証人としてやってきた被告人の父親だった。
白髪混じりの短髪で黒の作業着にファン付きベストを着た父親は、現在三重県で単身暮らしている。妻とは離婚しており、親権が妻にあったことから被告人とは年に1〜2回しか会う機会がなかったという。
彼は証言台で、息子の起こした事件に対し、「えらいことをしたな」と感情を漏らした。
現在は被告人宅を三重県の父親宅へと移しており、今後は彼が仕事や生活の面倒を見て監督していくという。さらに、被害弁償として2万4640円を供託し、被告人の借金も代わりに支払っていた。
質問の途中、彼はおもむろにファン付きベストのスイッチを入れ、機械音を静かな法廷に響かせた。質問を終えるとそのまま法廷をあとにした。
「本人より周りの人にやった方が」被告人が語った犯行理由
続いて証言台に立った被告人は、直接関係のあったNさんでなく、Kさんに対して犯行を重ねた理由について、こう供述した。
「本人より周りの人にやった方が(Nさんに)ダメージがあると思った」
そうした言葉が出た一方で、「Nさんが変わってしまったのはKさんと交際し始めたことが原因だと思った」と語る被告人に、検察官が問いかける。
「(Nさんと)ヨリを戻したかった?」
その質問に、「そうですね」と被告人が答えると、「戻せると思ったんですか?」と質問が重ねられた。
「当時は思ったんじゃないですかね」
そう思った理由を問われた被告人は黙り込んだ。「わからない?」と促され、ようやく彼は答えた。
「わからないです」
Nさんに対して現在も未練があるかと問われ、「ないです」と答えた被告人は、その心情の変化についてこう語った。
「固執してもしょうもないと思いました。ちょっと、同じ人に固執すんのもなって感じですね」
そうした気持ちの変化のきっかけを問われた被告人が答える。
「時間じゃないですかね」
公判中、彼は「被害者には謝罪の気持ちしかない」と供述していた一方で、「じゃないですかね」という、まるで他人事のような語尾が耳についた。
検察側は拘禁刑10カ月を求刑し、弁護側は被害弁償として供託を行っていることなどから、罰金刑30万円もしくは拘禁刑6カ月が妥当であると主張した。
後日行われた判決公判で、被害者らに対し強い不安と恐怖を与えた犯行は悪質とし、拘禁刑10カ月執行猶予3年という判決が言い渡された。
執行猶予についての説明を受けた被告人は、「はーい」と乾いた声を法廷に響かせた。
文/桑原怜史 内外タイムス






