米空軍が宇宙の「秘密兵器」を公表、爆破しなくても敵の戦闘能力を落とせる兵器の正体とは
アメリカ軍は、すでに宇宙に兵器を置いている。種類は言わない。数も言わない。いつ置いたのかも言わない。
「スター・ウォーズ」の話ではない。9月14日、米空軍のトロイ・マインク長官が、軌道上に「宇宙制御兵器」を持っていると公式に認めたのだ。空軍の公式発表は、宇宙軍が宇宙に兵器を持つと認めたのは初めてだと伝えている。
舞台は米メリーランド州ナショナルハーバーで開かれた軍事会議「Air, Space & Cyber Conference」。基調講演で長官は、敵対勢力の行動から統合軍を守れる兵器を軌道上に持っていると述べた。ところが中身は語らない。米軍事専門メディア「Defense News」によると、記者団には種類も、なぜ今発表したのかも答えず、試験の有無を含め具体的には話さないと述べたという。
持っていることだけ見せて、正体は伏せる。そういう発表である。
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通信を妨害、撮像センサーを無力化
では、実際に宇宙には何が浮かんでいるのか?
米シンクタンク「セキュア・ワールド財団」の宇宙安全保障専門家ビクトリア・サムソン氏は、米国防専門メディア「Defense One」の取材に、衛星を物理的に壊す兵器ではないだろうと推測した。破片(デブリ)を避ける方針を、政府高官が繰り返し語っているためだ。
X(旧Twitter)では、軌道上の電波妨害装置の可能性にも触れている。米戦略国際問題研究所(CSIS)のクレイトン・スウォープ氏は、米FOXニュースの取材に、宇宙制御兵器にはミサイルのように衛星を直接壊すものから、通信を妨害する装置、撮像センサーを一時的に無力化するレーザーまで幅があると語った。
つまり、映画のようにレーザー砲で衛星を撃ち落とす話とは限らない。むしろ、地上からは何も見えないまま相手の「目」と「耳」をふさぐ道具のほうが、現実的なのかもしれない。
「通信が途切れれば、遠く離れた部隊との連携に支障が出ます。測位情報が使えなくなれば、精密誘導兵器にも影響する。敵の衛星を爆破しなくても、戦闘能力は落とせるわけです」(在米研究者)
ウクライナの戦争でも、衛星通信「スターリンク」が軍の通信に広く使われてきた。無人機を飛ばし、敵の位置を調べ、情報を送る。その多くが衛星頼みだ。問題は、衛星に頼っているのが軍隊だけではないことである。
「身近なのはスマホの地図でしょう。GPSは位置を知るだけでなく、航空機や船の航法、通信設備の時刻合わせにも使われています。金融取引でも正確な時刻は重要です。衛星が1基壊れたくらいで銀行が止まることはありませんが、大規模な障害になれば地上の社会にも影響が及ぶ可能性はあります」(前同)
私たちは毎日スマホを使いながら、その便利さを支える衛星の行方をほとんど考えない。同じ軌道上に、衛星を無力化するための兵器が置かれているというのだ。
なぜ公表したのか…軍拡競争の引き金になる可能性も
そもそも、宇宙に兵器を持ち込むのは国際法違反ではないのか。そう思った人もいるだろう。
ところが、話はそう単純ではない。1967年発効の宇宙条約が軌道上への配備を禁じているのは、核兵器などの大量破壊兵器だ。通常兵器を一律に禁じる条文はない。
「正体を公表していない兵器について、ただちに条約違反とは判断できません」(海外メディア記者)
では、なぜ今になって公表したのか。長官は理由を語っていない。ただ、中国やロシアが10年以上前から米国のシステムを脅かす能力を開発してきたと警戒を示し、抑止に必要だとは述べた。相手に能力を見せつける狙いと見るのが自然だろう。
もっとも、スウォープ氏は、あいまいすぎて抑止効果は乏しいと指摘している。しかも中国やロシアから見れば、自国の衛星を攻撃できるかもしれない兵器が、正体不明のまま頭上に置かれたことになる。最悪の能力を想定して対抗策を考えれば、抑止のつもりが軍拡競争の引き金になりかねない。
衛星を壊せば、破片は敵味方なく軌道に残る。だから現実の宇宙戦争は、映画のような爆発にならない。何も見えないまま、通信や測位が静かに妨害される。
次にスマホの地図が現在地を見失ったとき、それがただの不調なのか、誰かの戦争の巻き添えなのか。私たちに見分ける方法はない。
文/昼間たかし 内外タイムス






