【演芸諸行無常】万馬券的中も日常茶飯事「持っている」落語家・笑福亭べ瓶は目下NHK朝ドラ「ブラッサム」に出演中
江戸川柳に「咄し家は世上のアラで飯を食い」という、咄し家=落語家の本質をついた一句がある。
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その昔、捨てられることが多かった魚のアラ。誰にも見向きもされないアラのようなちょっとした世の中の出来事をネタにし笑わせるのが落語家と見抜いた川柳だ。
落語家はマクラで、周囲でぼっ発したエピソードや見聞をネタにする。あたかもその通りに起こったような風合いで提出されるが、そこは話芸。脚色や演出、ちょっと盛ってみました的な切り口が大抵は加わっている。
これから登場する方の場合は違っていて、脚色がない。脚色が不要なほど、強烈な出来事に遭遇するのである。
落語家の笑福亭べ瓶(しょうふくてい・べべ)師匠(43)。笑福亭鶴瓶(しょうふくてい・つるべ)師匠(74)の弟子だ。
目下、朝ドラ俳優でもある。9月末から放送が始まったNHK朝の連続テレビ小説「ブラッサム」(石橋静河主演)に、道具屋の店主として出演している。
べ瓶さん(普段から私はこう呼んでいます)は、かなりの高確率で世上のアラに遭遇したり、自身が当事者になったりする。
それらを「べ瓶日記」としてしゃべり倒し、客を抱腹絶倒させる。落語の長いマクラを芸にまで昇華させたのは人間国宝の柳家小三治(やなぎや・こさんじ)師匠(2021年10月7日死去)だったが、「べ瓶日記」の出来は、小三治師匠のマクラに匹敵する独自性にあふれているのだ。
脚色することもなく、周辺の出来事をそのまま出して笑いを取るべ瓶さんのネタ作りを、「笑点」の司会者・春風亭昇太(しゅんぷうてい・しょうた)師匠(66)の愛弟子の春風亭昇也(しょうや)師匠(44)は、「漁師飯だから」と端的に称える。素材をそのまま、味付けや調理法にこだわることなく出すさまを「漁師飯」。実にうまい例えだ。
東京・歌舞伎町で大便を漏らしそうになっていた女性をおんぶしてホテルのトイレに連れて行き急場をしのいだところ、突然女性に「泊まっていきませんか?」と迫られ慌てふためいて逃げ帰った実話などが、べ瓶さんのしゃべりによって可視化される。
そのべ瓶さんがつい先ごろ、とてつもない幸運を呼び込んだ。もし本人が、SNS等でつぶやいていれば、すぐさまスポーツ紙が「笑福亭べ瓶 JRAで大当たり 3連単一点買い197万円払い戻し」と記事にしたであろうネタ(つぶやいていないので記事になっていませんが)。
阪神競馬場でのイベント仕事のついでに馬券を買ってみたら……
9月27日日曜日。阪神競馬場の貴賓席に、スーツ姿のべ瓶さんはいた。とあるイベントの仕事をすることになり、関係者との顔合わせが主目的だった。顔合わせはあっという間に済む。あとは競馬三昧。
麻雀を楽しむ程度で、勝負事はやらないというべ瓶さんには端っから当てる気もなく、3レースから数百円ずつ6レースまで、お遊び感覚でつぎ込んでいたという。結果はかすりもせず。当然当然。
「寄席(天満天神繁昌亭)の出番があったんで、7レースが終わったら出なきゃならなかった」ため、最後のレースだからと大奮発したという。
どれくらい奮発したかというと、6000円。
「河原田(菜々)騎手が女性だったので、まず8番の馬を選んで、それから隣の馬のどちらかを選ぼうと見たところ、こっちの方が強そうだな、と9番の馬に決めて、3頭目は、そこから離れたところでいいや、と2番の馬にした」と、まったくのあてずっぽう。
ちなみに8番はエルフェニックス3番人気、9番はオウケンブラッド2番人気、2番はグランデスフィーダ8番人気。終わってみればの話だが、2番人気を軸にして3連単マルチで、6頭ながしをすれば、取れないことはないと思わせる着順。
ところがべ瓶さんが買った馬券は、2番8番9番の3頭ボックス3連単(計6点)。つまり、この3頭がすべて来なければ当たらない、余計な馬のいない、事実上の一点買いなのである。
払い戻しは197150円。これを1000円持っていたため、197万1500円。6000円で約200万円という大金を手に入れたのである。
「このまま帰れますか?私は帰れない」というべ瓶さんは、貴賓席にいた約40人に対して、ひとり1万円を配ったという。まさに大盤振る舞い!
いつもは祝儀をもらう側の芸人が、あべこべに祝儀を切るという慶事のおすそ分け。
出来事はすぐさま落語会で「べ瓶日記」としてお客様にもおすそ分けされた。
持っている芸人、という言い方はよく言われるが、べ瓶さんに関しては「持ちすぎている芸人」と言っても言い過ぎじゃないほど、何かしらを引き付ける強力な磁石を体内に内蔵している芸人なのである。世上のアラが向こうから寄って来る特異体質。
「ちゃんと税務申告はしますよ」。抜かりはない。
文/渡邉寧久 内外タイムス






