「高額療養費」自己負担の上限引き上げ 負担能力に応じて増えるのは“合理的”との意見
例えば現役世代の場合、医療費が100万円かかれば、保険適用で30万円だけが自己負担になる。それでも、低所得者にとって30万円の負担は大きい。そんな場合、「高額療養費制度」を利用すれば1カ月ごとの負担額を減らすことができる。
8月1日から高額療養費制度が見直され、自己負担の上限が引き上げられた。高額療養費制度は、1カ月に自己負担した医療費が所定の上限である「自己負担限度額」を超えたときに、超えた金額が払い戻される制度だ。自己負担限度額は年齢や所得(収入)によって金額が異なる。
高額療養費制度の上限引き上げで反発者続出 受診控え対策が今後の課題に
厚生労働省のパブリックコメント(意見公募)には上限引き上げへの反対意見が殺到したが、国民負担増には違いないのでこれは仕方がない。ただ、今回の見直しは「一律の負担増」ではなく、受療状況(短期か長期か)や所得水準に応じたメリハリのある再設計も行われている。
引き上げ幅は所得に応じて設定されており、高所得・中所得者層ほど負担増の割合が大きくなる。一方、住民税非課税世帯など低所得者の月額上限の引き上げ幅は、月1000円程度などの最小限に抑えられており、生活困窮者への影響を抑える配慮はなされている。
短期の入院や単発の高額診療を受けるケースでは、実質的な自己負担額は増加する。一方、慢性疾患やがん治療など長期にわたって治療を受ける患者にはセーフティーネットを強く機能させる見直しになっている。
持続的な社会保障には応能負担以外に道はない
見直しのポイントは他にもいろいろあるが、弁護士の橋下徹氏はやや違った視点で見直しを批判している。
「高額所得者家庭に無制限に教育費やら何やら子育て支援名目でばく大な予算を投じる余裕があるなら、高額療養費の今回の見直しをすべきではない」とし、「高市自民・維新政治はハチャメチャ。徹底した応能負担を求める思想なら見直しもやむなし」としている。
橋下氏の主張は、年齢に関係なく所得(収入)の多い人にはそれだけ多く負担してもらうべきということだ。人口の高齢者比率が大きくなり、新薬の価格上昇などもあり、医療費は年々増大している。
社会保障制度をめぐっては、現役世代の負担が大きく、高齢者優遇との批判が大きかった。しかし、今回の見直しでは、70歳以上で所得が一定以上ある人は負担増になる。専門家からは今回の見直しについて、ポジティブな評価もあって、SNSには次のような書き込みがある。
「高額療養費制度の設計はきめ細かい配慮が必要だが、患者負担も増やすな、保険料負担も増やすな、増税は断固反対、給付カットは受け入れられない、ということでは、医療保険財政は破綻する。これらのどれかを受け入れないと、帳尻が合わない」(土居丈朗/慶應義塾大学経済学部教授・東京財団上席フェロー)
「患者負担・利用者負担が増えないに越したことはありません。また、社会保険制度の原則のひとつは、保険料を応能負担で負担すれば、必要な範囲で給付が無差別平等に保障されることにありますから、高額療養費などの負担増で給付(医療や介護)が保障されない事態が生じかねない見直しは避けるべきです。しかし、社会保険料や税などの社会保障の国民負担を抑える政策と、給付の縮減を避けるという世論を両立させるためには、一定以上の所得のある人の負担は増やす検討をする他ありません。その一端が今回の高額療養費の見直しです」(高野龍昭/東洋大学福祉社会デザイン学部教授)
持続的な社会保障制度を維持するには、一定以上の所得のある人の負担を増やす以外に道はない。負担能力に応じた制度設計という観点では、今回の見直しには一定の合理性がある。橋下氏が指摘するように、徹底した応能負担を求める思想で財政全体を考えるべきではないか。
文/横山渉 内外タイムス






