日本の新しい階級社会「アンダークラス」とは…誰もが直面しうるリスクに解決策はあるのか
「失われた30年」で収入が増えず、将来への希望が見いだしにくくなった日本社会。早稲田大学教授・社会学者の橋本健二氏は著書「アンダークラス」(筑摩書房)の中で、新しい階級社会が訪れていると指摘する。
「アンダークラス」とは、平均年収が216万円と低所得のため生きることに精一杯で、子どもを産み育てることができない人たちのことを指す。主にパート主婦や定年退職後の嘱託など、正規雇用で働いて財産もある人以外の非正規労働者を指し、全国に約890万人いるとされている。
なぜ「アンダークラス」が生まれるのか。最大の原因は企業による非正規雇用の拡大で、政府による労働市場の規制緩和も背景の一つであると橋本氏は指摘している。他にも、幼少期に虐待や不遇な家庭環境、さらにいじめや不登校といった経験も関係しているという。こうした経験から人を信用できなくなってしまい、就職や就労の継続が難しくなったケースも少なくない。
厚生労働省の統計(2024年)では、正規雇用労働者は増加している一方で、非正規労働者の数は2019年以降横ばいで推移している。賃上げは進んでいるものの、物価上昇に伴い実質賃金は伸び悩む状況が続いている。現在の雇用や物価高を取り巻く状況も、「アンダークラス」が議論される社会的背景の一つといえる。
このような状況が続いてしまうと、さまざまな社会問題が深刻化していく。少子高齢化が進み、社会の存続が危うくなってしまう。さらに、現状を放置していると、元「アンダークラス」の高齢者が自殺する懸念や、食事や生活ができないため万引きなどの犯罪に走ってしまう「社会的な自殺」を招く可能性もある。
一般的な労働者の賃金と比べて低い日本の最低賃金
橋本氏は、子どもを産み育てながら安定した生活を送るには年収500万円程度が必要との考えを示し、最低賃金の引き上げを改善策の一つとして挙げている。他にも、均等待遇(同じ仕事であれば同じ待遇)の実現、累進課税・資産課税の強化による所得格差の是正を挙げている。
OECD(経済協力開発機構)によると、2024年時点で、日本の最低賃金はフルタイム労働者の賃金中央値に対する水準が47%で、OECD平均(57%)を下回り、30カ国中5番目に低い。これは、日本の最低賃金が一般的な労働者の賃金と比べて低いことを示している。
日本の最低賃金は都道府県ごとに異なるが、2024年度の全国平均は時給1,055円であり、仮に月160時間働いた場合、月収は約16万8800円(税金・社会保険料を除く)となる。最低賃金で働く人の所得水準は相対的に低く、生活を維持する上で十分な収入を得にくい層が生まれる温床となり得る。このような状況も橋本氏が最低賃金の引き上げを訴える背景の一つだろう。
「アンダークラス」は、一部の問題ではない。病気や解雇、やむを得ない事情など誰もが生活に困窮する可能性がある。橋本氏が提起する「アンダークラス」という概念は、個人の努力だけでは解決できない社会構造の課題に目を向けるきっかけを私たちに与えている。最低賃金の引き上げや均等待遇の実現、所得格差の是正などを通じて、誰もが安定した生活を送れる社会を目指す必要があるのではないだろうか。
文/佐藤杜美 内外タイムス






