倒れた人を助けない中国の「当たり屋」事情(第1回)助けたい場合はスマホで動画撮影しながら救助する理由
中国に詳しい方なら、このような話を耳にしたり、実際にその光景を目にした方がいるかもしれない。街なかの路上に倒れている老人と、それを遠巻きに見守る人々。
誰も老人を助け起こそうとしないのは、彼らが冷酷だからではない。親切心で近づいた結果、当たり屋(碰瓷)行為に巻き込まれ、加害者に仕立て上げられることを恐れているのだ。
こうした事件は2006年に発生した「彭宇事件 」が有名だ。転倒した老人が、自らを助けた男性に損害賠償を求める訴えを起こした本事件は、老人による当り屋行為の象徴的な事例とされている。
そして、このような老人による当たり屋行為は決して過去の歴史ではなく、今もなお繰り返されている。今回は複数回に分け、中国における当たり屋行為と、それが起きる背景に迫る。
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言いがかりをつけて金をだまし取る当たり屋
当たり屋(碰瓷)とはもともと骨董業界の隠語である。「碰」は衝突する・ぶつかるという意味で、「瓷」とは陶磁器を指す。
一部の悪質な商人が、わざと割れやすい磁器を道路の真ん中に並べておき、通りすがりの人が不注意で壊すのを待ち構えて言いがかりをつけ、金をだまし取る行為を指した。
そして現代社会において、「碰瓷」は「当たり屋」という意味となった。よくある例としては、故意に自動車と衝突して賠償金をだまし取ったり、自分が転倒した際に、手助けしてくれた親切な人に対して「突き飛ばされた」と言いがかりをつける行為となっている。
代表的な当たり屋とその対応策
「彭宇事件」以降、こうした当たり屋行為が疑われる事例には必ず対抗策を準備することが常識となっている。すなわち無視を決め込むか、どうしても助けたい場合にはスマホの動画で記録しながら助けるかだ。
これは2022年の事例だ。広東省深セン市で、ある男性が出勤途中に路上で倒れているおじいさんを見かけた。何人もの通行人が通り過ぎる中、男性は親切心から助けに行こうとした。
しかし、言いがかりをつけられるのを防ぐため、男性はまず周囲の人に頼んでその様子を動画で撮影してもらうことにした。撮影の準備を終え、いざ助け起こそうとした瞬間、おじいさんから「スマホを捨てろ!こんな若者が一番忌々しい!」と激しく非難されたという。
最後には、老人は文句をブツブツと並べながら自力で起き上がり、歩き去った。その後、この男性は、この老人が深セン市内の複数のエリアで同様の狂言転倒による当たり屋行為を繰り返していることを知った。この老人は、周囲の同情やあわれみを利用して金をだまし取る常習犯だった。
当たり屋への反撃
最近は、こうした当たり屋行為へ逆襲し、賠償金を獲得する例も現れつつある。
2023年、大学4年生の鄧(デン)さんは夏休み中、路上で倒れ、周囲に救助を求めていた老人を善意で助け起こし、病院まで付き添った。さらには、1000元余りの医療費も立て替えた。
しかし、駆けつけた老人の家族は「鄧さんに突き飛ばされた」と主張。「後ろめたさがないなら、なぜ金を払ったのか」と言いがかりをつけ、数千元の賠償金を要求した。
鄧さんは自身の潔白を証明するため警察に通報。老人の家族らは「法律は弱者の味方だ」と鄧さんを嘲笑し、警察にうその被害を訴えたが、警察が付近の防犯カメラ映像や目撃者の証言を確認した結果、老人が自ら転倒した事実が明らかになった。
真相発覚後も理不尽な要求を続ける老人一家に対し、鄧さんは妥協せず法廷闘争を選択。裁判所は老人の年齢を考慮して刑事罰こそ免除したものの、老人一家に対して慰謝料として鄧さんへ計6万8000元(約160万円)の賠償金支払いを命じる判決を下した。なお、勝ち取った賠償金は、鄧さんによって全額地元の慈善団体へ寄付されたという。
初回は最初から狂言転倒を企て、詐欺を働こうとする高齢者の姿、そしてその犯罪から身を守る方法を紹介した。
次回は当たり屋で脅し取った金を子どもに残してやりたいと願う、あまりにも哀れな親の姿を紹介する。
文/下川英馬 内外タイムス






