#25 村井友秀「戦争の悲劇と戦争法」

戦争の悲劇と戦争法 東京国際大学特任教授 村井友秀

 今から80年前に第二次世界大戦は終わった。戦勝国は敗戦国を罰し、東京とニュルンベルクで国際軍事裁判が開かれ、戦争犯罪者として日本とドイツの指導者が処刑された。

 訴追された犯罪は、(A)平和に対する罪、(B)通例の戦争犯罪、(C)人道に対する罪であった。ドイツの指導者は(A)、(B)、(C)の罪で有罪になったが、日本の指導者は(A)と(B)の罪で有罪になった。(A)平和に対する罪とは侵略戦争を行った罪であり、(B)通例の戦争犯罪とは、19世紀末以来欧州で確立した交戦法規、すなわち市民や降伏した敵を攻撃しない等の戦時国際法に違反した罪である。(C)人道に対する罪とは、ナチスがユダヤ人を絶滅しようとして(ジェノサイド)、敵国の兵隊ではない600万人のユダヤ人(多くはドイツ国籍)を殺した罪である。日本軍も戦争で多くの敵国民を殺したが、日本の場合は特定の民族集団に対する絶滅意図はなかったとして、人道に対する罪は適用されなかった。

 通例の戦争犯罪で大事な点は、無辜の市民を攻撃したかどうかである。戦争法で合法的な攻撃対象は戦闘員、すなわち正規軍、民兵、義勇軍である。但し、戦闘員は敵に捕らわれても、人を殺傷した犯罪者ではなく敵と戦った捕虜として人道的待遇を受ける権利(捕虜資格)がある。無辜の市民とは敵対行動(破壊、妨害、情報収集、物資輸送)に参加しない市民である。占領に抵抗する団体の一員として公然と武器を携行し敵対行動に参加する市民は広い意味で戦闘員と見做され攻撃対象になる。しかし戦闘員として捕虜資格もある。他方、合法的に敵を殺傷できる戦闘員ではない民間人が戦闘に参加すれば、降伏しても捕虜ではなく人を殺傷した殺人犯(不法戦闘員)として占領軍に処罰される。処罰した占領軍は戦争法違反ではない。

 また、戦争法は戦争と関係のない民間施設の攻撃を禁じている。しかし、鉄道、橋、飛行場などの交通網、石油貯蔵施設や発電所等は軍事行動を支えるインフラとして攻撃しても違法ではない。また、戦闘員と非戦闘員が混在している場合、戦闘員を攻撃して巻き添えになった非戦闘員に被害が出た場合は、「付随的損害」として攻撃側は戦争法違反にならない。

 実際の戦場で降伏するベテランの兵士は多くない。降伏しても撃たれるからである。戦友を殺され家族を殺された兵士が戦争法を無視する例は多い。戦場で人間が獣にならない処方箋は、兵士を生み出す国民が戦争に関する十分な知識を学ぶことである。

むらい・ともひで 1949年生まれ。1978年東京大学大学院社会学研究科国際関係論博士課程退学。米国ワシントン大学国際問題研究所研究員を経て、防衛大学校国際関係学科教授。2015年退官後現職。日本防衛学会名誉会長。主な著書に『失敗の本質』『中国をめぐる安全保障』『戦略の本質』『戦略論大系7毛沢東』『現代の国際安全保障 安全保障学のフロンティア』『日中危機の本質』等多数がある。平和安全保障研究所奨学プログラム2期生、平和・安全保障研究所監事・研究委員。

関連記事一覧