完成した絵本を手にやっとスタート地点に立てた気持ち」と笑顔の上原美春さん =10月31日、宮古新報社

姉妹が挑んだ自主出版の道 県内外寄贈へ 宮古から平和の物語を発信

 沖縄戦を題材にした絵本「拝啓愛するあなたへ」を制作していた上原美春さん(17)=泊高宮古協力校3年=と姉がクラウドファンディングで多くの支援を集め、ついに完成した書籍が10月30日に手元に届いた。2人は翌31日、宮古新報社を訪れ、「支援してくださった皆さんのおかげでここまで来られた。やっとスタート地点に立てた気持ち」と喜びの声を寄せた。同プロジェクトは終戦記念日の8月15日に締め切られ、支援者248人から目標額300万円の106%にあたる317万6千円を達成した。
 この作品は、戦時下で動員された女子学徒の体験を題材に、姉が文を、美春さんが絵を担当。戦争の悲劇を直接描くのではなく、花や植物の絵を通して「命」や「希望」「祈り」を表現した。
 物語は、学徒として戦火を生きた少女が、未来を生きる孫世代に手紙を送るという構成で、文中には「平和をつくる心」「命をつなぐ感謝」の言葉が添えられている。
 沖縄全戦没者追悼式の「平和の詩」に選ばれた経験を持つ上原姉妹は、3年の歳月をかけ、沖縄や東京の出版社を回って書籍化の道を探ったが、最終的に「沖縄から生まれた物語は沖縄から届けたい」との思いで、自主出版に踏み切ったという。
 母の留美子さんが企画を支え、印刷や寄贈活動の準備を進めてきた。寄贈は県内の小中高校や図書館を中心に約500冊、全国の希望校にも順次配布される予定とのこと。
 届いた瞬間を振り返った美春さんは「思わず、配達してくれた運送会社のお兄さんの写真も撮ってしまうほどうれしかった。保育園では子どもたちが身を乗り出して聞いてくれたので、今後は学校や特別支援学校などでも朗読会を開ければ」と語り、「ここからがスタート」と決意を新たにした。
 一方、母の留美子さんは「娘2人が努力を重ねてきた姿を見てきたので、完成本を手にした瞬間、涙が止まらなかった。母としてこれからも背中を押していきたい」と話した。
 今後は寄贈活動と並行して県内外で読み聞かせ会を展開したい意向。また、1日から全国の学校、図書館、博物館など「絵本が欲しい」「絵本を寄贈したい」と希望する寄贈先も募集している。QRコード先から申請できる。
 美春さんは「戦争を知らない世代だからこそ伝えられる形がある。多くの子どもたちに平和の願いを届けたい」と語った。

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