#7 村井友秀「一帯一路」と「大東亜共栄圏」

「一帯一路」と「大東亜共栄圏」 村井友秀
 現在、中国は経済圏構想「一帯一路」を太平洋に拡大し、嘗て日米が激戦を繰り広げた南太平洋のソロモン諸島やマーシャル諸島に進出している。また、中国が構想する対米防衛線である小笠原諸島からグアムを結ぶ「第二列島線」は大日本帝国の「絶対国防圏」に重なる。米国から見れば、米国の海である太平洋に、再び日本に代わって中国というアジアの覇者が手を伸ばしてきたように見えるだろう。

 明治政府は、尊王攘夷という国民のポピュリズムに乗り民族主義を掲げて、外国に妥協する反民族主義的な徳川幕府を打倒した。しかし、欧米列強の圧倒的な力に直面し尊王攘夷の不可能を悟った明治政府は、主張を一変して開国という反民族主義的な政策を取らざるを得なかった。その後、日本は富国強兵に邁進し、日清戦争や日露戦争に勝利して1930年代には世界強国の一員になった。遂に日本が尊王攘夷を実行できる時が来たのである。大日本帝国は日本だけではなく広大なアジアで尊王攘夷を実現しようとし、アジアから欧米勢力を駆逐しようとした。これが「大東亜共栄圏」である。しかし、大日本帝国は太平洋の戦いで米国に敗れ、「大東亜共栄圏」は崩壊した。

 今、中国は米国に挑戦しようとしている。30年前、まだ中国の力に自信がなかった鄧小平は、当面は頭を低くして目立たぬように国力を増強し(韜光養晦)、十分な力をつけてから米国に挑戦する戦略であった。しかし、中国の力に自信満々の習近平は拡大する経済力と軍事力を背景に「韜光養晦」を捨て米国の覇権に挑戦した。

 1941年の太平洋では、日本が戦艦、空母、潜水艦の数で米国を上回り、南太平洋の島に前進基地があった。現在、中国が太平洋に展開できる海軍力は米軍の比ではなく、太平洋に軍事基地もない。しかも、中国海軍は日本帝国海軍の轍を踏み空母を中心に大艦巨砲主義に向かっている。艦艇の大型化は、戦力組成を小型化している米軍の攻撃に対する脆弱性を増す。中国の空母は、空からの攻撃に無力であった時代遅れの戦艦「大和」になるだろう。軍隊に必要なものは一点豪華主義ではなく標準化である。

 中国では「一つの山に二匹の虎はいない」という。世界の覇者である米国に挑戦する中国を米国は許さないだろう。中国は大日本帝国と同様に実力を過信し早まった。米国の覇権に挑戦する「一帯一路」という第二の「大東亜共栄圏」も大日本帝国の二の舞になるだろう。

むらい・ともひで 1949年生まれ。1978年東京大学大学院社会学研究科国際関係論博士課程退学。米国ワシントン大学国際問題研究所研究員を経て、防衛大学校国際関係学科教授。2015年退官後現職。日本防衛学会名誉会長。主な著書に『失敗の本質』『中国をめぐる安全保障』『戦略の本質』『戦略論大系7毛沢東』『現代の国際安全保障 安全保障学のフロンティア』『日中危機の本質』等多数がある。平和安全保障研究所奨学プログラム2期生、平和・安全保障研究所監事・研究委員。

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