• 全国
  • 海の男がカキ5000個を窃盗 不漁にあえぐ業界を意に介さない身勝手な犯行の一部始終【裁判傍聴記】
  • HOME
  • 全国
  • 海の男がカキ5000個を窃盗 不漁にあえぐ業界を意に介さない身勝手な犯行の一部始終【裁判傍聴記】

海の男がカキ5000個を窃盗 不漁にあえぐ業界を意に介さない身勝手な犯行の一部始終【裁判傍聴記】

証言台のイスにどしっと座る30代の被告人男性。日焼けした肌に、がっちりした肩幅などの体型から、後に職業を聞いてすぐに納得できた。

被告人は水産会社での勤務や、フリーで漁を行う”海の男”だった(裁判時は無職)。しかし、起こした事件そのものは、その職業を冒とくするような悪質なものだった。

広島地裁は8月21日、広島県内の海上にて昨年12月に、養殖用のカキ5000個が入ったカゴ約200個(被害総額約52万円)を窃取したとして、30代被告人への初公判を開き、検察官は拘禁刑1年6月を求刑して即日結審した。

広島県の養殖カキは昨年、海水温の上昇などにより深刻な不漁に陥り、特に被害が大きいところで9割が死滅する事態にもなったという。そんな中、行われた今回の犯行。被告人の口から語られたのは、そんな業界の苦悩を意に介さないような身勝手な言葉の連続だった。

実娘2人に性虐待続けた非道父親 重い後遺症に苦しむ姉妹は「二度と会いたくない」【裁判傍聴記】

大胆な犯行を助ける意外な共犯者

検察官が取り調べ請求した証拠によると、被告人は水産会社でカキ漁に携わるなどした後、個人事業主として海に関わる仕事を続けていた。ただ、収入は安定しておらず、離婚した家族への養育費や自身の生活費に窮していた。

事件において被告人には共犯者Aがいた。Aは水産会社勤務時の後輩であり、退職後も付き合いが続いていた。Aも金銭に悩んでいたことから犯行の誘いにも応じたという。

そして、驚くことに犯行に及んだ養殖場というのが、事件当時Aが勤務していた会社のもので、そこをA自らが案内したのだという。なお、このAが案内したという点をAは否認しており、別日で裁判が並行して行われている。

船で現場に向かいカキ5000個が入ったカゴを盗むという大胆な犯行を行い、その日のうちに、知人に5000個のカキを約20万円で売却した。なお事件が発覚したのは、犯行の翌朝にAが自ら被害会社に対し「カゴがなくなっている」などと報告したことによる。

前述の通り、広島県の養殖カキは不漁で苦しんでいた。それも被害会社も同様であったといい、厳しい処罰を捜査機関に求めていた。

消費者金融からも借金

傍聴席には、報道記者や一般の傍聴人とは異なる、水産会社の関係者と思われる人物も数名傍聴していた。そんなことを知ってか知らずか、被告人はそれら人物の前で供述を展開していく。

まずは弁護人からの質問に答える形で、被害会社への謝罪を行い、今後正規雇用の予定があることから働きながら弁償を行う意向を示した被告人。しかし、養育費のほかに、消費者金融からの借金もあり、返済計画は明確に立てられていない。

1万個狙うも「船に積めないんで止めました」

Aと犯行にいたった経緯を確認する検察官。

検察官「Aのことはどういう風に誘ったんですか?」

被告人「どっかにきれいなカキない?手伝ってほしいんだけど、と」

検察官「きれいなカキというのはどういう意味?」

被告人「きれいでないと売れないんで」

検察官「それに対し共犯者の反応は」

被告人「普通……特に反対されたとかはない」

その後も、狙ったカキのサイズについては「大きすぎず、小さすぎず」、盗む個数については「最初は1万個って考えてたんですが、船に積めないんで5000個で止めました」など、窃盗に対してちゅうちょを感じさせない、ごく普通のことのように供述していく。

Aとは細かい点で供述が異なっていた。養殖場を案内したのはAであると主張する被告人に対し、後々に自社の養殖場であったことに気付いたと供述するA。カキを売却した約20万円から、1円も受け取ってないと供述するAに対し、3~4万円は渡したと思うと供述する被告人。

主張の正当性はわからないが、お互いが足を引っ張り合うような主張が入り交じり、身勝手な動機で犯行を行った両者の思いがそのまま表れているようであった。

検察官は求刑意見の中で、カキの財産的被害はもちろんのこと、不漁の中で飲食店に卸せなくなった被害会社の信用問題も含めて事案の悪質性を指摘した。反省、謝罪の言葉を口にしていた被告人であったが、一つの事件で影響が二重、三重にも及ぶという点まで考えが及んでいるとは、到底思えなかった。

文/普通 内外タイムス

関連記事一覧