• 全国
  • 変質する中国の面子社会(第3回)ブランドより実用性、中国の宝飾市場に異変
  • HOME
  • 全国
  • 変質する中国の面子社会(第3回)ブランドより実用性、中国の宝飾市場に異変

変質する中国の面子社会(第3回)ブランドより実用性、中国の宝飾市場に異変

時代とともに変化する中国の面子(メンツ)。前回の記事では、それが宝飾ブランドに及ぼす影響について解説した。

現在の若者たちはブランドイメージに惑わされることなく、その商品が持つ本質的な価値を冷静に見定めている。それを端的に表しているのがスワロフスキーの苦境だった。

それでは実質的な価値を象徴するダイヤモンドと金はどうなっているのか。今回は、運命を二分する2つの業界を紹介する。

変質する中国の面子社会(第2回)メッキが剥がれつつあるスワロフスキーの苦境

ダイヤモンドが「知能税」と呼ばれるワケ

天然ダイヤモンドの価値が、中国のZ世代を中心に激変している。かつて天然ダイヤモンドは中国でも「ダイヤモンドは永遠の輝き」と、愛の象徴とされていた。しかし、今や若者の間では知能税(無駄に高いお金を払わされるコスト)と揶揄(やゆ)される事態に陥っている。

その背景には、若者の現実主義的な価値観と、テクノロジーの進化が生んだ合成ダイヤモンドの爆発的普及がある。

中国における天然ダイヤモンド消費はZ世代を中心として減少し、天然ダイヤの価格も2022年から約30%下落した。この価格崩壊により、中国における老舗ダイヤモンドブランドも深刻な苦境に立たされており、生き残りをかけたブランドの転身も目立つ。

例えば中国の大手宝飾ブランドである莱绅通灵は、2025年上半期、売り上げの8割を金製品に依存する構造へシフトした。特にダイヤを埋め込んだ金製品の売上は前年比200%増を記録しており、事実上、金ブランドへの転身を余儀なくされている。

合成ダイヤによる価格破壊

天然ダイヤモンド失速の裏で急成長を遂げているのが、人工的に作られる合成ダイヤモンドだ。そして、中国はこの市場をけん引しており、産業構造そのものを塗り替えている。

2025年12月に発表された「合成ダイヤモンド産業発展報告書」によれば、中国における合成ダイヤモンドの生産は世界の63%を占めている。そして2025年の中国市場規模は約140億元だが、2030年には1025億元に達し、2026~2030年の5年間で約5倍成長する見込みである。

合成ダイヤモンドは同品質の天然ダイヤモンドの3分の1から10分の1という圧倒的なコスパを実現していることから、今後も消費は合成ダイヤモンドが主体となる可能性がある。

それを示すのが民生証券によって行われた中国の消費者に対する意識調査だ。ここではダイヤモンド購入時に消費者が最も重視する要素として、天然かどうかは42%で価格、デザイン、ブランドに次ぐ4番目に過ぎない。

また、消費に対する意識の変化もある。合成ダイヤモンドの購買理由に関する調査で、最も多くを占めたのが「自分のため」だった。

中国の若者が合成ダイヤモンドを好む傾向は明確だが、これは「自分のために買うダイヤモンドなら、安く買える合成で十分」という実利的な判断に基づいており、これが冒頭の「知能税」につながる。

「知能税」とは、現実を見ずに従来の概念にだまされるものが、余計な出費をするという意味だ。そして、この言葉自体が「面子」が高価な消費から、賢い消費へ変化した典型的な例と言えるだろう。

最大の勝者となった「金」

こういった価値観の変化で、人気となっているのが金だ。

実際に、中国では金の取引が圧倒的に多い。ジュエリー業界の統計によると、売上高ベースで2024年の中国における宝石・ジュエリー産業では、ゴールド製品が5688億元と、市場全体の約73%を占めた。

そして、新華社によれば18歳から34歳の若年層がゴールド製品の売上高の3分の1以上を占めているのだ。

経済の先行き不透明感や市場の変動が続く中、実物資産としての金の安定性が評価されている。消費者にとって金は、単なるファッションアイテムにとどまらず、価値が目減りしにくい目に見える資産として、精神的な安心感をもたらす選択肢となっている。

ここまでの消費の趨勢(すうせい)「を追うと、中国の若者は宝飾品を選ぶ際、「他人に見せる価値」から「自分にとっての価値」へ判断基準を移行させていることが分かる。

「スワロフスキーのようなブランドストーリーは通用しにくくなった」
「天然ダイヤモンドのような希少性は広告と看破された」
「合成ダイヤモンドは賢い消費として受け入れられている」
「金は資産としての実用性で最も安定したポジションを築いている」

若者の消費は「見える消費」から「納得のいく消費」へ移行しており、それが宝飾品市場においても明暗を分けている。

最終回となる次回は、「納得のいく消費」へ移行する他業界の事例と、この波に乗って業績を伸ばしている日本企業の姿を紹介する。

文/下川英馬 内外タイムス

関連記事一覧