ショベルローダーにひかれ「加療1348日」生涯要介助の重傷 交通安全協会長だった加害者、事故後も運転「生活に困っちゃうんで」【裁判傍聴記】
「加療1348日を要する見込みと診断されている」。横浜地裁で開かれた過失運転致傷事件の公判で、検察側は被害男性の負傷程度について、こう説明した。「1348日」は、3年8カ月強にあたる。
2024年11月13日14時過ぎ、当時60歳の男性は信号機のない交差点の横断歩道を歩いていて、左方から時速約30キロで直進してきた大型特殊車両のショベルローダーにひかれた。
偶然近くを通りかかった人は、走行していた大型車両の下部に何かがあると違和感を覚えた。じきに「何か」が人であることに気づいた。その「何か」は車両の後方から路上に落ちた。車両は止まる様子がなく、追いかけたが走り去っていったため、近くの交番に駆け込んで事故を通報した。
交差点近くに住む男性の妻は、今まで聞いたことがないようなけたたましいサイレンの音に驚いた。外に出てみると交差点付近に人だかりができており、路上に大量の血だまりがあった。ちょうど救急隊が倒れていた人を搬送していた。「郵便局に喪中のはがきを買いに行く」と言って外出した夫は、戻ってきていない。嫌な予感がして、携帯電話で夫の位置情報を確認した。その位置情報はやがて、病院のところで止まった。
建設・掘削工事を行う会社を個人事業として営む当時75歳の男性は、13時半ごろに現場での作業を終えていつものようにショベルローダーで自宅へ戻った。同日22時ごろ、捜査員が突然自宅にやってきた。駐車場に置いていた車両を一緒に確認すると、アーム部分に何かがこすれたような痕があった。捜査を経て、過失運転致傷罪で起訴された。
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「本人と分からないほど変わり果てていた」妻が見た事故直後の夫
男性被告は初公判で、事故には「全く気付かなかった」と主張した。
被害男性は重量約13トンもの車両にひかれた後、車底部に巻き込まれる形となった。被害男性の妻は文書での意見陳述の中で、事故から約4時間後に病院で対面し、「本人と分からないほど変わり果てていた」と明かした。
頭がい骨骨折、外傷性脳挫傷などで頭部の手術だけでも4回行った。頭部以外にも全身のいたるところを骨折し、気管を切開し、胃ろうの措置を取り、輸血を何度も行った。
事故から約1年9カ月が経過した今年8月の初公判段階でも、右手だけは動くが、左手と足はまひしている。言葉を発することはできない。だが、突然泣き出すことがある。現在入院している脳神経外科医院では遷延(せんえん)性意識障害、つまり植物状態にあると診断されている。
被害男性が診断された「加療1348日」の「加療」は、「全治」とは意味が異なる。1348日後にけがが回復見込みであるわけではない。現在の病院で少なくとも2028年7月までは治療が必要との見立てがなされているだけで、リハビリを行っているものの後遺障害の「回復見込みはない」とみられている。
「仕事が来れば、ですよ」被告は今後も運転を続ける考え
男性被告はショベルローダーについて、運転席からみて右前方に大きなアームがあるため、右側は見えにくく死角の部分もあると証言した。
弁護人から「今も事故車両に乗っているんですか」と問われると、「それはそうです」とちゅうちょすることなく答えた。
弁護人「今回、事故を起こして、そろそろ控えようとは思いませんか」
被告「仕事がありますので。車は無理と言われると生活に困っちゃうんで」
被告は、神奈川県内のある地域の交通安全協会の会長を務め、地域交通安全の啓発活動や指導に尽力していた。検察官に問われると、「この事故があって、全て辞めさせていただきました」。ただ、神奈川県警が委嘱している各地域の「交通安全活動推進委員」の今年9月現在公表されている名簿には、まだ名前が入っている。
検察官「あなたは『被害者が治ったら謝りたい』と言うけれど、被害者は生涯介護が必要な重症です。それを知っても、運転を続けているわけですね」
被告「まあ、そうなります」
検察官「運転を止めようとは思いませんでしたか」
被告「思いませんでした」
検察官「今後また同じような事故を起こすのでは、というような怖さはありませんか」
被告「怖いと思ったら、運転できない。そういう仕事なんで」
さらに、裁判官も「重大な事故にもかかわらず、今後も運転したいという話を被害者の方が聞いたら、どう思うと思いますか」と問いかけた。
被告「大変申し訳ないと思います」
裁判官「いや、あなたではなく、被害者がどう思うかとたずねています」
被告「…たぶん、おかしいと思っているんじゃないか」
裁判官が最後に、今後も運転を続けるのかどうかを改めて念を押すようにたずねると、被告は次のように応じた。
「仕事が来れば、ですよ。今は暑いですから。月に6日か7日動くくらいですよ。今月(8月)も2日くらいしか動いていません」
「今は暑い」から仕事の依頼が少なく、運転機会も少ないという意味だろうか。被告は「月に6日か7日動くくらい」のところで、強調するように少し語気を強めた。
横浜地裁は被告に禁錮2年6月、執行猶予5年の判決を言い渡した。被害結果が重大である一方、「被告なりにできるだけ運転機会を減らそうとしていること」や前科がないことなどを考慮したという。
被害男性の妻は、意見陳述を次の言葉で締めていた。
「夫ともっといろんな話をしたかった」
文/篠田哉 内外タイムス






