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アフリカの地で自衛隊員と中国軍人が異例のタッグ 冷え切った日中関係の中、国連PKOがつなぐかすかな希望

「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」

2025年11月7日、国会の衆院予算委員会で野党議員から台湾有事の際の日本の対応を問われた高市早苗首相はこう答えた。

この衝撃的な回答は瞬く間に世界各国を駆け巡った。当の中国政府はすぐさま反応した。翌8日、中国の薛剣在大阪総領事は「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく斬ってやるしかない」などと強烈な内容をX(旧Twitter)に投稿。日中双方の大使が互いの公邸に呼びつけ抗議の応酬となったほか、中国政府は自国民に向け日本への渡航自粛を呼びかけたことで、あらゆる人的交流が滞った。

日本へのレアアースを含む戦略物資の輸出規制も実施され、日本の基幹産業である自動車産業や電子部品を扱うメーカーにも影響が出ているほか、民間の文化交流にまで飛び火し、日中関係は1972年の国交回復以降、最悪の関係にあるとまで言われている。

“存立危機事態”発言から半年 今後の日中関係は「冷たい平和」が続くか

そのような中で、両国のミリタリー間での意思疎通を図ることは重要である。いわゆる「不測の事態」が起きないよう、日中両政府は2023年3月から防衛当局間による専用回線「ホットライン」を設けた。偶発的な事象が発生した場合、当局間の幹部同士が直接やり取りできれば「紛争の芽」を摘むことにつながるからだ。しかし朝日新聞の報道によると、ホットラインは2025年8月の時点で開設から約2年半経つが、全く機能していないことを関係者の取材を通して伝えている。

さらに、2025年12月には沖縄本島周辺の公海上空で、中国軍機が航空自衛隊機に対して断続的にレーダー照射を行ったとし、日本側が抗議。この件は今に至るまで双方の主張が対立したままだ。

日中の隊員がアフリカで国益のために汗を流している

両国関係に改善の兆しが見えない中、両国のミリタリー間では意外に知られていないことがある。それを理解するには日本が参加する国連平和維持活動(PKO)を理解する必要がある。PKOは国連が実施する事業の1つで、紛争後の地域で平和を保つための「停戦監視」や「治安維持」「インフラ支援」「選挙監視」などを行っている。日本は憲法9条などの制約があることから、多くのPKOミッションのうちUNMISS(国連南スーダン共和国ミッション)のみに唯一参加しているのが現状だ。

長い内戦を経て生まれた「南スーダン」は、2011年7月に誕生した世界一新しい国家で、建国後も国際的な支援が必要なことから、国連はUNMISSを立ち上げ、現在も各国の要員が治安維持などに努めている。

日本は2012年1月から2017年5月までの約5年間、陸上自衛隊の施設部隊が道路補修や国連施設の整備などを現地で実施。現在は部隊の派遣はないが、首都ジュバにあるUNMISSの司令部に幹部隊員を継続的に派遣し続けている。

その司令部に5月から赴任することが決まったのが堀口大助1等陸佐だ。堀口1佐の出発に際し、4月下旬には防衛省で小泉進次郎防衛相や制服組トップの内倉浩昭統合幕僚長、陸自トップ・荒井正芳陸上幕僚長などの主要幹部がそろって見送った。

「さまざまな文化や考え方を持つ各国隊員や部隊を率いていくことの重責に対する覚悟、日本人としての誇りを持って、これまで自衛隊で培ってきたさまざまな経験を活かし、参謀長の任を果たしていきたい」

小泉氏のXには堀口1佐の並々ならぬ覚悟が見て取れるが、それもそのはずだ。堀口1佐が現地司令部で就く「参謀長」ポストは、これまでの自衛官が担った国連PKOポストの中でも最高位に当たる。しかも「参謀長」の直属の上司に当たる「軍事部門司令官」には3月5日付で中国人民解放軍の呉俊輝少将が就任したのだ。国連の発表によると、呉少将は「中国人民解放軍やPKOにおいて40年にわたる指導力と実務経験を積んでおり、英語も堪能だ」とその手腕を高く評価している。

堀口1佐も、かつてシリア南西部のゴラン高原で行われたシリアとイスラエルの停戦を監視する国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)の支援でPKO活動に参加したほか、レバノンで防衛駐在官を務めるなど国際経験が豊富だ。さらにテロやゲリラ攻撃に対応する専門部隊「中央即応連隊」で隊長だったこともあるなど、今回の「参謀長」就任に当たっては国連の公募に応募し、難関試験を見事にくぐり抜けただけあって逸材といえる。

アフリカを舞台に思わぬ形でタッグを組むことになった2人にとって、どんなに母国同士がいがみ合おうが、与えられた国連ミッションを着実にこなすことに変わりはない。それが両国にとっての国益だからだ。

国連重視する日中と距離置く米国 日本の主体性が問われる事態に

国際情勢に目を転じると、日本の同盟国・米国がますます国連への関与を弱めるなか、中国はそれを逆手に取って国際社会における存在感を強めている。

読売新聞の報道によると、5月1日に米・ニューヨークの国連本部で記者会見した傅聡国連大使は、米国が国連への関与を後退させるなら「中国は進んでその役割を担う」と宣言したことを報じた。

一方で日本は戦後一貫して「国連中心主義」を掲げてきた。国連が提唱する国連憲章の精神を順守し、法の支配に基づく国際秩序を維持してきたからこそ、海外からの日本の評価は依然として高水準を維持している。国連本部の要人も定期的に日本を訪れては、会う先々で日本の国連への貢献に対する感謝の言葉を欠かさない。

そのような中で米国は8月18日、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長らを制裁対象にすることを発表した。トランプ大統領の盟友であるイスラエルのネタニヤフ首相に、ICCが逮捕状を発行したことなどに反発した措置だとされるが、それに対する高市首相の対応が「弱腰だ」との批判が国内で高まった。

総理大臣である高市氏は陸・海・空を含めた全自衛隊の指揮・監督権を持つ最高指揮官でもある。戦後80年、日本が長年にわたって守り続けてきた「法の支配に基づく国際秩序」は同盟国・米国の変質も相まって風前の灯(ともしび)だ。

そのような中でも遠く離れたアフリカの地で、日中の幹部隊員が協力して1つの国の復興のために汗を流す事実は、壊れかけた日中関係や国際秩序をつなぎ止めるかすかな希望なのではないだろうか。

文/寉見陽平 内外タイムス編集部

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