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男女の抱擁シーンは「脱北」防ぐ方策か…北朝鮮の映画革命に垣間見える国家のジレンマ

かつての北朝鮮映画といえば、金日成主席、金正日総書記への忠誠を描く体制宣伝映画ばかりだった。主人公は完全無欠の英雄で、敵は絶対悪として描かれ、恋愛やユーモアはほとんど登場しない。説教色の強い作品が中心だった。

ところが金正恩時代に入り、その常識が崩れ始めた。これまでになかった大胆な演出を取り入れた作品が相次いで公開され、「映画革命」とも呼べる変化が起きている。

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追いつかない取り締まり

背景にあるのは「韓流」、とりわけ現代の生活や恋愛を描いた韓国ドラマの浸透である。脱北者への調査では、多くの人が北朝鮮在住中に韓国映画やドラマを視聴した経験があると証言している。

USBメモリーやSDカードでひそかに持ち込まれた映像は市場を通じて広まり、若者たちは韓国の豊かな暮らしや自由な雰囲気、恋愛模様に強く引きつけられた。韓国ドラマに触れたことがきっかけで脱北を決意した、という若者も少なくない。

北朝鮮当局は2020年、「反動思想文化排撃法」を制定し、韓国コンテンツの視聴や流布に厳罰を科した。「オッパ」(お兄さんなどの意味)等、韓国風の言葉まで取り締まり対象としたが、韓流の浸透を止めることはできていない。

こうした状況を受け、当局は発想を転換し、映画そのものの娯楽性を高める方向へとかじを切ったとみられる。

アクションも恋愛も登場

代表作が映画「72時間」(2024年)である。朝鮮戦争開戦直後、北朝鮮軍がソウルを占領するまでの72時間を描いた約4時間の大作で、CGやスローモーション撮影などを取り入れた迫力ある戦闘シーンが話題となった。

さらに話題を集めたのはその恋愛描写だ。若い男女が寝室でキスするシーンや、一瞬だが若い女性がシャワーを浴びる姿も登場する。こうした表現は、従来の北朝鮮映画ではほとんど見られなかった。ほかにも、韓国ドラマを彷彿(ほうふつ)とさせる演出が随所に盛り込まれている。

もう一つの話題作「対立の昼と夜」は犯罪サスペンスで、今年初めに北朝鮮のテレビで放送された。なんと金正日総書記暗殺計画を題材に、列車屋上での格闘、列車爆破、カーチェイス、銃撃戦などがテンポよく展開し、ハリウッド映画を思わせる内容だ。

見た目は韓流、中身は旧態依然

もっとも、作品の本質は従来と変わらない。「72時間」は朝鮮戦争での勝利を強調し、「対立の昼と夜」は最高指導者を命がけで守護する重要性を訴える旧態依然の内容となっている。

韓流や海外映画の手法を取り入れているものの、結末は指導者への忠誠を称える体制宣伝なのは変わっていない。

これは金正恩政権の危機感の表れでもある。韓国ドラマに親しんだ若者は、従来の型にはまった革命映画では満足しなくなっている。そのため当局も、アクションや恋愛、CGなどを取り入れた娯楽性の高い作品づくりを進めざるを得なくなったのだ。

韓国映画やドラマは自由な環境で、多様な作品が生み出され、世界で視聴されている。国家統制下で制作される北朝鮮映画が太刀打ちするのは容易ではない。脱北者からも「意外性はあるが、一度見れば十分」との声が聞かれる。

外部文化を遮断しようとする国家が、若者の心をつなぎ留めるため、その表現技法をふんだんに取り入れて作品を作るのは皮肉である。

北朝鮮映画のここ数年の変化は、情報統制国家が抱えるジレンマも映し出している。

文/五味洋治 内外タイムス

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