遺族の父が「トイレで泣いた」弁護士が語った親子の食事【裁判傍聴記・後編】
渥美遼馬被告(33歳)は交際していたAさん(18歳)をナイフで刺して殺害。高校の同級生B(33歳)を呼び出して遺体をブルーシートで包み、山梨県の山中に遺棄したとして起訴された。
渥美被告はBがAさんを刺したと供述し、無罪を主張。Bは「事件を起こす前に相談してほしかった」と渥美被告の犯行であることを明言した。
18歳女性を装って家族らに連絡 殺人で無罪主張の被告に残された謎【裁判傍聴記・前編】から続く
論告求刑で、検察官が意見を述べた。
「被告人とAさんは2023年3月から交際を始めた。5月には関係が悪化し、Aさんは愛想をつかして別れ話も。被告人は長文のLINEを送り、返信がないことにいら立っていた。被害者は元カレとの交際を再開していて、被告人には動機があった。
渥美被告はペティナイフで胸と太もも2か所を刺して殺害。犯行態様が悪質で、強固な殺意。ナイフを購入して計画性も認められるが、突発的な犯行とも。18歳の若い女性の前途が断たれた。遺族が死刑を望むのも当然。結果は重大。
被害者は故意に刺された。刺したのは被告人。故意がなければ、119番通報するなど、救命措置を講じるのが合理的。被告人は、車内で被害者を1時間放置していたこと、救急車を呼ばなかった明確な理由を述べていない。
Bの証言は自然で無理なく、合理的。記憶にあることとないことを明確に区別して証言しており、十分に信用できる。Bは被害者と面識がなく、動機がない。当日、Bは白いズボンをはいていたが、ドン・キホーテ店内にも堂々と入っている。返り血を浴びていないということ。
遺棄する際は、Bの車で、Bに運転させた。防犯カメラに残る可能性を考えた。他人に罪をなすりつけて、不合理な証言を。
被告人は真相を話さず、動機は不明。異常な執着心が原因。被告人がAさんの遺体を動画撮影したのはBと駐車場で会う前。被害者の生存を偽装し、Aさんが不義理をしていると周囲に思い込ませて、罪悪感を植え付けさせた。反省も、遺族に対する誠意も感じられない。
前科はないが、素行は不良。死者の尊厳を害する行為は特筆すべき。被害者に落ち度はない。求刑は懲役25年」
被害者参加弁護人は訴えた。
「逃げ場のない車内。被告人は身長が170センチを超え、被害者は151センチ。命を奪った直後、姦淫(かんいん)して動画撮影。友人に手伝わせて遺棄し、LINEで偽装工作。被害者は社会人になったばかりの18歳。二度と社会に戻ることがないよう無期懲役を」
渥美被告の弁護士は、「客観証拠からいえることが最も信用できる」と主張した。
最後の弁明「申し訳ない」繰り返す
「被害者がパパ活や覚醒剤の話をされて、追い詰められてナイフを持ち出したというのは不思議ではない。被害者はリストカットするなど情緒不安定で、血痕から覚醒剤成分が検出されている。
証拠に従って判断して、『間違いない』と言えなければならない。不確かなことで人を処罰することは許されない。
横領罪、電子計算機詐欺罪、死体遺棄罪については、特に悪質というわけではない。執行猶予付き判決が相当」と。
渥美被告が最後の弁明をした。証言台に座って、マイクの位置を直して、天井を見つめて、しばらく無言だった。
「Aさんに対しては本当に申し訳ないと思っています。申し訳ないとしか言うことがないのではなく、申し訳ないしか表現が出てきません。どう考えても、自分のせいだなと。言葉では表せられない。本当に申し訳なかったと」少し小首をかしげて、何度かうなずいた。
2026年3月16日、渥美被告に下された判決は懲役22年。裁判長が判決理由を説明した。
「被告人の行為により被害者が死亡したと認められる。ペティナイフを突き刺して殺害。山梨県の山中に運んで、遺体を斜面に落とした。弁護人は殺人については無罪だと主張。白骨化して発見され、凶器も見つかっていない。
しかし遺棄現場で見つかったブラジャーには刃物による傷があり、傷は表から裏に貫かれていた。犯行当日夕方から夜にかけて被告人は被害者と会っている。時刻設定を変更して、遺体を動画撮影した。Bをかばうためと主張したが、撮影したのはBが被害者とまだ会っていない時間。殺人に関して、Bの関与は証拠上明らかではない。
救命の可能性を排除して遺体を撮影した。結果を容認していなければ取らない行為。Bをかばう目的だったというが、死に瀕(ひん)していた交際相手の呼吸や傷を確認せずにBをかばったと主張するのは不合理。
Bがブルーシートなどを購入し、遺体もBの車で運んだ。金銭を借りるために協力したともいえる。被告人は死亡に至る核心部分で具体的、合理的な説明ができていない」と。
遺族の手紙を弁護士が代読
忘れられないシーンがある。
検察官の求刑の前に、被害者の父親の意見陳述が紹介された。父親が読み切ることが難しいと、弁護士が代読した。
「毎日が幸せで理想的な家族だと思っていました。妻にがんが見つかって、娘が家事を代わってすることも。5年間闘病生活をして、娘が高2の時に亡くなった。ショックがあったのか、娘は学校に行かなくなり、リストカットも。止めるように言うと、『ごめん』と申し訳そうに言いました。
高校を卒業した娘は介護職へ。本人に直接聞いたことはないが、(闘病生活をしていた)母のことがあったのかもしれません。
『初任給をもらったのでおごるよ』と言われて、食事へ。3万5千円の支払いで、『半分出すよ』と言ったが、『私がおごるから』と。『こんなに大きくなった』とトイレで泣いた。
その10日後、娘は殺されました。
娘の骨はいろいろなところで発見されました。虫や動物に食べられたり、雨で流されたり。両脚と腕が見つかりませんでした。
発見現場に行ったが、こんなところに捨てられて、半年間も見つからなくてと思うと、夜眠れなくなりました。遺骨が自宅に戻った。裁判が終わった後に、妻と同じ墓に入れようと思います。
娘が作った肉じゃがが好きだったが、もう食べることができません。娘はなぜ殺されなければならなかったのでしょう。被告人を許すことができません」
渥美被告はずっと下を向いたまま、涙を流しながら聞いていた。目をつぶったり、鼻をすすったりしながら。
遺族の悲痛な思いは、渥美被告に少しでも届いたのだろうか……。
文/青山泰 内外タイムス


