#8 德地秀士「NATOと日米同盟」

NATOと日米同盟 德地秀士
 ロシアのウクライナ侵攻以降、欧州における集団防衛のための機構であるNATO(北大西洋条約機構)の動向に国際社会の注目が集まっている。また、日本の新しい首相が先月末に「アジア版NATOの創設」と題する論考を発表したこともあり、日本でもNATOについての関心が高まっている。

 その後、首相自身は国会質疑の中で自らの構想について「一朝一夕で実現するとは考えていない。喫緊の安全保障上の課題に取り組む」旨答えているし、また、上記論考の締めの言葉は「日米同盟を基軸としてインド太平洋諸国の平和と安定に積極的に貢献する」であるから、「アジア版NATO」の創設に向けて日本がすぐに動き始める訳でないことはほぼ明らかである。

 しかし、欧州の安全保障とアジアの安全保障が深く結びつき、「今日のウクライナは明日の東アジア」という言葉が人口に膾炙している今、NATOと日米同盟はどう異なるのかという点について理解を深めることは意義あることである。

 両者の違いについて、ここでは次の3点を指摘しておきたい。第1に、日米同盟は日米2国間の同盟であり、北大西洋同盟は北米及び欧州の計32か国の多国間同盟である。第2に、日米同盟は日米両国が相互に守り合う関係にない非対称な同盟であるが、北大西洋同盟は加盟国が相互に守り合う対称的な同盟である。そして第3に、日米同盟では自衛隊と米軍の指揮権は独立しているが、北大西洋同盟では加盟国の軍隊の指揮権が一元化されている。

 なぜこのような違いが生まれたのか。第1の点については、アジアでは各国の脅威認識の相違による。特に戦後間もない頃は日本に対する警戒感が強く、日本と同盟を結ぶなどということは豪州やアジア諸国にとっては考えられないことであった。第2と第3の点については、主として日本の憲法上の制約に起因する。特に第2の点については、日本には集団的自衛権の行使について憲法上の制約があるからである。

 しかし今日、日米安保条約が結ばれた頃とは状況が大きく変化している。日本に対する国際社会の信頼や期待は格段に向上した。逆に中・露・北朝鮮に対する警戒感は増大する一方である。日豪、日米豪、日米韓、日米比などのパートナーシップも強化されている。

 友人は多い方が良いに決まっているし、友情は厚い方が良いに決まっている。日米同盟もNATOに学びながら、憲法上の制約を乗り越えて成長していくべきである。

とくち・ひでし 1955年生まれ。東京大学法学部卒業、タフツ大学法律外交大学院(フレッチャースクール)卒業(修士)。防衛庁入庁。防衛省運用企画局長、同人事教育局長、同経理装備局長、同防衛政策局長、初代防衛審議官を経て2015年防衛省退職。2021年現職。中曽根平和研究所研究顧問。著書に『専制国家の脅威と日本』(共著2023年、勁草書房)『防衛外交とは何か』(共著2021年 勁草書房)、『気象安全保障:地球温暖化と自由で開かれたインド太平洋』(共著、2021年(東海教育研究所)等がある。

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