坂本湾さんが第62回文藝賞に 箱揺さぶる新時代の労働描写
第62回文藝賞を受賞した宮古島市出身の作家・坂本湾(さかもと・わん)さん=本名・濱元優虎=の受賞作『BOXBOXBOXBOX』が17日、河出書房新社から刊行された。宅配所で働く4人と「箱」にまつわる謎を描いた作品で、選考委員が「新時代の労働を暴く力作」と高く評価した話題作。12日に都内で行われた贈呈式では選考委員から激励の言葉が相次ぎ、宮古島出身の新たな才能の誕生に注目が集まっている。21日には市内ホテルで受賞パーティーが開かれ、地元関係者らで祝福する。

坂本さんは1999年札幌生まれ。平良第一小学校在籍時の2011年には宮古青年会議所(JC)が企画した東日本大震災の被災地に送る「希望の鶴プロジェクト」では児童会長を務め、少年少女将棋大会で優勝した経験もある。中学から福岡へ進学し、日本大学芸術学部演劇学科を経て現在、東京在住で執筆活動を続けている。
作品は、薄霧が立ちこめる宅配所を舞台に、無数の荷物を仕分ける作業員・安(あん)が、単調な作業の中で箱への妄想に取り憑かれていく姿を描く。決して開けてはならない「箱」を覗いたことを機に、現実と虚構が交錯する緊張感あふれる展開へと進む“ベルトコンベア・サスペンス”。4人の選考委員(角田光代氏、小川哲氏、村田沙耶香氏、町田康氏)は「最も心を動かした」「緊迫感が途切れない」「冒頭から謎に引き込まれた」と口々に評した。
12日の贈呈式で坂本さんは「作中の4人の生活は、私自身の未来の姿でもあり得る。彼らを救いたくても、どうすれば救われるのか分からなかった」と胸の内を語り、「これからの執筆活動の中で、彼らを救える方法を探していきたい」と決意を述べた。
坂本さんの偉業をたたえようと21日午後6時半から、ホテルアトールエメラルド宮古島で受賞パーティーを開催する。主催者で父の雅浩さんは「宮古島から新たな文学者が誕生したことを広く知ってほしい」と話し、地元関係者の参加をに広く呼び掛けている。
単行本は装丁を川名潤氏、装画を杉野ギーノス氏が担当し、120ページの上製本、税込定価1650円で発売。「圧倒的な読書体験」「開けてはいけない箱を覗く感覚」と高く評価されており、今後の活躍が期待される。


