参加者はVRゴーグルを装着し疑似体験した =15日、市役所2階・大ホール

認知症の「恐怖」をVRで再現 日常の変化を疑似体験 寄り添う声掛けを

 市高齢者支援課(新里忍課長)主催による認知症VR体験会が15日、市役所で行われた。シルバーウッド社(下河原忠道代表)の大野彩子さん(VR事業部マネージャー)を講師に迎え、約70人の幅広い年齢の市民が参加し、VR機器を用いて認知症のさまざまな症状を体験。認知症の人が見ている世界を擬似体験し、認知症患者が感じる可能性のある恐怖や混乱を直接体験し、認知症への理解を深めた。
 同体験会は認知症に関する正しい知識の普及・啓発を通じて、地域で支え合うことの必要性を市民に理解してもらうことを目的とし、働き世代が認知症になった場合の相談先の周知も図ることも狙いとして開催された。
 同社は鉄鋼業界から介護業界へ参入し、従来にない発想の高齢者向け住宅を提供しており、認知症患者が生活の中で日々感じることを、社会的ものさしで理解するためのツールが必要だと考えたことからVR体験に取り組んだという。
 今回体験した映像は①私をどうするんですか?②レビー小体病幻視編③ここはどこですか?―の3つ。それぞれインタビューした認知症患者の実体験を元に再現したもので、実際に起こり得る症状が忠実に再現されていた。
 映像では、「タクシーを降りる」という簡単な行為ですら、認知症患者にとっては恐怖体験として感じることも再現されていた。まるで建物の屋上から落ちてしまうのではないかとの錯覚によって恐怖する可能性を伝えるものもあり、参加者からは「とても怖かった」と感想が聞かれるなど体験ごとに「本人の視点に立ち、何を感じ何を思ったか」を考えることで、認知症について正しい理解を深める機会となった。
 大野さんは「健常者にとっては簡単なことも、認知症の方々にとっては一大事だったりするので、相手の立場になって寄り添った声掛けをすることがとても重要」とした上で、「横や背後からではなく、前に立って目線を合わせながら声かけをすることで、混乱している認知症の方を落ち着かせるきっかけになることもある」とアドバイスをした。
 体験後、参加者の一人は「自分から怖いと言えないかもしれないから『怖くないよ』などと声をかけるのではなく『大丈夫だよ』と寄り添った声掛けをしてほしい」など当事者目線で感想を述べた。
 新里課長は「認知症になっても住み慣れた地域で希望を持って暮らし続けるためには、地域の皆さまの理解と協力が必要」と述べ、今回の体験が認知症の方々を支えるきっかけになることに期待を寄せた。
 同課によると市の推定認知症患者数の把握は難しいとした上で、介護認定状況から7割弱が何らかの認知症症状を有しているとのこと。全国と同様に、市においても高齢者数と認知症高齢者数が増加傾向にあるという。

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