井上美香のあんちいーやー⑫土地改良と基幹産業と島の未来(1)
一度も足を踏み入れたことのなかったころの南の島のイメージといえば、さとうきび畑の隅っこの大きな木の下で休憩をしている島の人、夕暮れ時になると家の前で三線を弾いてゆんたくしているおじいおばあたちだった。
島の人々は働きもので日の出とともに動き出し、きび狩りに出かけ、10時と12時、15時の休憩だ。暑い中作業をした後の休憩場所。今は土地改良されただだっ広い土地には涼む場所もない。
最近住んでいる中で気になるのが赤土が海に流れていること。大雨が降ろう物なら、畑のそばの道路は冠水、明らかに土が流れ出ている。
そもそも土地改良とは何なのか?建設コンサルタントの専門家に話を聞いてみた。
宮古で行われる土地改良は農地の自然条件の障害を取り除き生産性を高める「農業水利」と農業記述や農業機械の進歩に合わせて農地を整備する「農地整備」だ。
スプリンクラーなどを設置して、農地への水やり作業の効率化を図る「農業水利」と、効率の良い農業ができるよう農地の形を整えたり水はけを良くしたり機械が乗り入れる道路を設置する「農地整備」がある。どちらも生産性の高い農業を実現することが狙いである。
生産性の高い農業をすることで、農家は生計を立て、地域は活性化し、国としての食料自給率向上や経済循環につながるのである。
そこで赤土の流出と土地改良の因果関係はというと?
要因として浸透池に雑草が生い茂り土が積もったりする浸透池の機能不全、雑草(リュウノヒゲなど)を線状に植え、赤土の流出を防ぐグリーンベルトの機能不全、農地には雨水を吸収してくれる大切な機能があったが農地転用が頻繁に行われた結果、雨水を受け止めてくれる面積が減り地上に溢れ出る。雨水が排水路から溢れ、海に流れ出たりすることが挙げられるそうだ。
浸透池もリュウノヒゲも、どちらも安定してその機能を発揮できるよう、農家だけではなく地域全体で支え維持していくことが今後求められている。
土地改良の専門家は、そもそも農地として登録のある場所の木を伐採しているという。その上で、地域が残したいというシンボリックがその農地内にある場合は、大切に残すようにしているそうだ。農地に限っては農家の方が隣の農家との境目に植えいている木がほとんどなので森のように生い茂った木を伐採して畑になると「なぜあの森を無くしたんだ」という心情的な気持ちになっているのも確か。農地を持っている住民からすると生産性を上げて収入を得ることで生計をたてているので致し方ないのだろう。
私としては農家の方が代々受け継いできた土が丸ごと入れ替わっているように見えるのだが、それは水はけのために畑の傾斜を高くしないといけないので、その土地内で土をならしているそうだ。
土地改良はもちろん、島のより良い未来のために行われていることだと思う。だが砂糖は海外に比べて圧倒的にコスト競争力が弱い。『コストから販売額を引いた金額」を基準に国内農家が赤字にならないよう国が毎年の補填単価を決めている。2021年産サトウキビの生産交付金は1㌧当たり1万6860円。
今年6月には沖縄県内8島にある黒糖(含蜜糖)製糖工場や県内の流通業者が抱える黒糖の在庫が過去最多の1万6千トンに達するとの報道。新型コロナウイルスの影響もあるが、土産品や県内全体の消費落ち込みも在庫量がさらに膨れ上がっているという。
TPP※1では農産物に関して82・9%の関税が撤廃される。食料自給率が極端に低い日本。果たして日本の小規模農家は大丈夫だろうか?
消費者にとっては海外から安い食品が入れば値段の面だけなら安価な方を手に取るだろう。
東京大学大学院総合文化研究科・永田淳嗣准教授が2012年に書いた見解※2では沖縄本土復帰後これから沖縄の糖業・サトウキビ作の長期的な方向性と到達点、今の状況を冷静に理解しておくことが重要で第二次サトウキビブーム以降高齢化・引退が進み、離島部の作付け面積・生産量は減少傾向にあるという。高齢農家や兼業農家を機械収穫で支え、大型機械化経営という方向性だけで将来の展望を見出しうるのかという発想も必要のようだとも予測している。
赤土の流出が気になり調べてみたが、島の発展と島の持つ自然、基幹産業の問題点観光、所得向上、高齢化、後継者問、気候変動、いろんなことが絡み合っている。
次回は農家さんの話を聞こう。
※1TPP環太平洋パートナーシップ協定
太平洋を基準にして自由にモノやサービス、投資など幅広い分野において自由貿易の障害を取り除き、国境を取り除き国境を超えた経済活動をスムーズに行うこと。加盟国 日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、メキシコ、チリ、ペルー
※2農畜産業振興機構〜沖縄サトウキビ作の長期動態より