39匹の犬猫放置で死骸や汚物が散乱…保護団体代表女性がキャパオーバーで“多頭飼育崩壊”【裁判傍聴記】
「行き場を失った犬猫たちを救う活動をしています。動物愛護センターで命の期限をつけられて怯えている犬たちの保護も」
「保護犬猫の家 ななちゃんのおうち」HPには活動状況がそう紹介されていた。
2026年5月20日、動物愛護法違反(虐待)と狂犬病予防法違反でM被告(当時47歳)が逮捕された。一般社団法人「保護犬猫の家 ななちゃんのおうち」代表理事を務めていた。
住民からの通報があり、東京都品川区にあるM被告の自宅で保護されたのは犬29匹と猫10匹。約半数に病気があったが、適切な治療は受けていなかった。
また30匹以上の犬猫の骨や死骸が放置され、汚物で室内のアンモニア濃度は人の健康にも害を及ぼすレベル。十分な餌を与えられなかったのか、生き残っていた犬猫が死骸を食べたとみられる痕跡まで残っていた、という。
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東京地裁に出廷したM被告は小柄でスリムな体型の女性だった。茶髪のショートカットで、ゆったりとした黒のパンツスーツにクリーム色のブラウス姿。
獣医師が法廷で証言した。獣医師歴20年以上のベテランで、M被告が飼育していた保護犬猫の治療をしていた。
「犬猫を助けようとしていた人が、結果的に罪を犯してしまいました。糞尿(ふんにょう)が堆積し、気に留めずに放置してしまった。獣医師としての責任は大きいと反省しています。Mさんからは治療費はもらっていません。
保護された犬猫のうち、Mさんが10匹の里親を見つけて、私が関わって預け先が決まったのが10匹。元野犬で人間に慣れていない犬も保護されています。攻撃性がある犬は里親探しが難しいので、地道にやっていくしかない。僕も協力して、預け先が決まるまで支援していくつもりです」
裁判官から「今後困ったことがあれば、相談に乗ってもらえますか?」と問われた獣医師は「もちろんです」と明確に証言した。
多い時は70匹近い犬猫を飼育「名前は全部言えます」
被告人質問でM被告が証言した。
「動物の保護活動を始めたのは9年前くらいから。飼っていた愛犬が死んで、里親を必要としている犬猫がこんなにいるんだと。野犬や野良猫をいったん預かって、里親を探す活動をしていました。
最初、夫と子ども2人の4人で保護活動を始めました。その後、夫と離婚して、昨年12月に子どもが出ていって、一人でお世話をしていた。私は自動車免許を持っていないので、犬を病院に連れていくことができなくなりました」
――一人で世話できると思ってましたか?
「思ってません。預かってくれる人を探していました」
――家の中は?
「荒れてきました。糞尿がたまり、亡くなった子たちもそのままに。私が守らなきゃいけなかったのに、守れずに……」
――押収される前に近所の人たちからの苦情は?
「ありませんでした」
一番多い時は、70匹近い犬猫を飼育していたという。
「代表をしている法人は解散手続きを進めている最中です。
今後は保護活動をするつもりはありません。私にしか触れさせない2匹だけは飼おうと。これ以上増えることはないと思います」
――狂犬病の予防注射をしなかったのは?
「のびのびになってしまい、行けませんでした」
検察官がM被告に質問する。
――死んでしまった犬猫の名前は全部言えますか?
「はい、全部言えます。動物のことは好きです」
――亡くなった子たちを見て、どう思ったのですか?
「悲しい気持ちです。お金を作ってから、火葬するつもりでした」
――集まった寄付金は何に使ってましたか?
「医療費や食費に……」
――こうなる前にどうすればよかったと?
「一人で世話するのが厳しくなった時に、相談すべきだったと思います。
息子が出て行ったときから、一人で何とかしようと。息子とは連絡が取れない状態で」
――誰かに相談しようとは思わなかったのですか?
「相談するという頭がありませんでした」
――今後、犬を飼う資格があると思いますか?
「ないと思います。守らなきゃいけなかった犬猫たちに辛い思いをさせてしまったことを、一番反省しています」
弁護士は「危害を加えていない、低額の罰金刑を」と主張
殺処分ゼロの機運が高まって、犬猫の殺処分数はこの10年で9割以上減少した。
2014年度は全国の犬猫殺処分数は10万匹以上だったが、2024年度には6830匹(負傷動物を除く)に。
しかし動物愛護センターの収容能力は限られている。保護動物の受け皿は、民間の保護団体やボランティアの善意に頼らざるを得ないのが実情だ。
「引き取ってくれなければ処分するしかないと言われて断れなかった」「人になつかない犬の預け先が見つからない」などの理由で、保護団体の多頭飼育崩壊は、全国各地で起きている。
2019年に成立した改正動物愛護管理法では、愛護動物の殺傷が5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金、虐待や遺棄が1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定められている。
検察官が論告求刑をした。
「劣悪な環境で、39頭を飼育。白骨化している犬猫の死体や足や頭部だけのものも。健康状態は悪く、糞尿はそのまま。愛護動物を飼育するものとして身勝手で、結果は重大」
求刑はM被告に罰金50万円、法人に罰金30万円だった。
弁護士は「動物に積極的な危害を加えていない」と主張した。
「Mさんは飼っていた犬をなくし、行き場のない犬猫を助けたいと、保護活動を始めた。ワナにかかり前足を失った野犬なども保護していた。動物を利用して金銭を得ようとはしていない。
家族が離散して、犬猫を病院に連れて行くことができずに放置した。経済状況の悪化で、固定資産税も滞納。個人でできる範囲を超えていた。動物に積極的に危害は加えていない。
行政にも事情を説明すべきだった。自らの抱え込みに原因があったと事実を認め、深く反省している。現在は預け先の確保に努力している。勾留され、マスコミで報道されるなど、社会的制裁を受けている。前科はない。低額の罰金刑を望みます」
M被告は「今回のことは深く反省しています」と丁寧に頭を下げた。
求刑通りの判決
2026年10月15日、判決の日――。
M被告に下された判決は罰金50万円、法人に罰金30万円。
「劣悪な環境のもとで飼育して、犬猫の死体を放置。被告人のみが飼育を担当し、周囲に相談することもなく、飼育ができなくなった。法人は解散予定。被告人は反省の弁を述べ、繰り返さないことを約束。かかりつけの獣医師も今後のサポートを約束している。残された犬猫については責任をもって受け入れ先を探すことを願っています」
被告人は何度もうなずきながら聞いていた。
動物を助けたいという気持ちから始めた保護活動。さまざまな理由でキャパオーバーになってしまう例は多い。
しかし今回のケースでも、飼育崩壊する前に行政に相談するなど、何らかの方法が取れなかったのだろうか。
善意で始めた保護活動が崩壊したとき、最も被害を受けるのは、声を上げることができない動物たちなのだから――。
文/青山泰 内外タイムス






