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北朝鮮がロシアに過去最大の労働者5~6万人派遣か、日本は「壊れたATM」 韓国・国民大学ランコフ教授インタビュー

ロシア出身で、北朝鮮への留学経験を持ち、長年朝ロ関係を深く分析してきた韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授が日本を訪問した。この機会に、中国の対北朝鮮政策の変化、急速に深まるロシアと北朝鮮の関係、今後の北朝鮮と米国、日本との関係について聞いた。(内外タイムス・五味洋治)

トランプ・金正恩会談は11月に中国で開催か…核放棄なき「核凍結」に現実味

――北朝鮮を取り巻く国際環境は、ここ数年でどう変わりましたか。

ランコフ教授(以下、ランコフ) 最も大きな変化は、中国の対北朝鮮政策です。中国はもともと北朝鮮の核開発や軍事挑発を歓迎しているわけではありません。しかし、米中対立が激しくなるにつれて、北朝鮮への不満よりも、北朝鮮という国家を存続させることを優先するようになりました。

中国にとって北朝鮮は、米国の同盟国である韓国との間に位置する重要な「緩衝地帯」です。したがって中国は、北朝鮮を豊かにするほどの支援はしなくても、体制が崩壊しない程度の支援は続けるでしょう。

北朝鮮側からみれば、これは非常に大きな変化です。1990年代以降、北朝鮮は経済的に生き残るため、日本、韓国、米国などさまざまな国との交渉を必要としていました。しかし今は中国という安定した後ろ盾があります。そこにウクライナ戦争が始まり、今度はロシアとの関係が急速に深まりました。

留学ビザがロシアへの隠れみのに

――ロシアと北朝鮮の関係で、いま最も注目すべき点は何でしょうか。

ランコフ ロシアが北朝鮮に求めているのは、軍事物資だけではありません。いま非常に重要になっているのが「人」です。

ウクライナ戦争によってロシアは大量の砲弾や兵器を必要とするようになりました。北朝鮮は数十年間、戦争に備えて軍需物資を大量に生産、備蓄してきました。このため両国の利害が一致し、北朝鮮からロシアへの軍需物資供給が拡大しました。

さらに戦争の長期化によって、ロシア国内では建設業や製造業を中心に深刻な労働力不足が起きています。そこで北朝鮮人労働者の価値が急速に高まりました。

現在、ロシアで働く北朝鮮人は5万~6万人規模に達しているとの推計もあります。正確な数字を確認することは難しいですが、事実であれば歴史的にも最大級の規模です。

かつて北朝鮮人労働者といえば、ロシア極東の建設現場で働く男性が中心でした。しかし現在はロシア各地に広がり、繊維、靴、食品加工、各種製造業などでも働いています。女性労働者も増えています。多くが学生ビザを使って入国しているようです。

北朝鮮労働者は北朝鮮側の管理者によって集団管理されています。宗教的な摩擦も起こさず、労働環境にも不満を漏らすことはありません。ロシアの雇用主からみれば、労働力不足を解消できるうえ、管理しやすい。だから需要があるのです。

ただし、この関係には限界があります。ロシアが北朝鮮から通常の商品として大量に買いたいものは、それほど多くありません。石炭や水産物はロシアにもあります。つまり、現在の蜜月関係はウクライナ戦争という特殊な環境に大きく依存しています。戦争が終われば、軍需物資や労働力への需要がどこまで残るのかは分かりません。

中国とロシアの役割も違います。中国からの支援が毎月受け取る「年金」だとすれば、ロシアからの収入は「戦争特需」です。ロシアから一度に得られる利益は大きい。しかし長く続く保証はありません。

北朝鮮の立場は強くなっている

――トランプ米大統領が、金正恩総書記に会談を呼びかけています。

ランコフ 北朝鮮は以前ほど米国との交渉を急いでいません。2018~19年の米朝首脳会談当時、北朝鮮は国際制裁による経済的な圧力を強く受け、米国との交渉によって制裁を緩和する必要がありました。

しかし現在は中国から安定した支援を得て、さらにロシアとの軍事・経済協力によって大きな収入を得ています。だから米国に「何とかしてほしい」と頼む必要が以前ほどありません。北朝鮮には、米国からより有利な条件が示されるまで待つ余裕ができました。

それでも北朝鮮が米国に関心を失ったわけではありません。国際制裁を本格的に緩和し、国際社会との経済関係を正常化するうえで、米国との関係は依然として重要です。トランプ大統領が首脳会談を強く求めれば、北朝鮮が応じる可能性はあります。ただし北朝鮮は、以前よりもはるかに強い立場から交渉できます。

今後注目すべきなのは、米国が従来の「完全な非核化」ではなく、核開発の「凍結」などを現実的な目標として受け入れるかどうかです。結果として北朝鮮の核保有を事実上容認する方向へ進めば、東アジアの安全保障環境は大きく変わります。

日朝交渉は米国次第

――では、日本は北朝鮮にとってどんな存在でしょうか。

ランコフ 極端な言い方をすれば、日本は北朝鮮にとって「壊れたATM」です。

北朝鮮は日本との国交正常化が実現すれば、経済協力などによって大きな資金を得られると期待しています。しかし現在は国際制裁や日本独自の制裁があり、日本に資金があっても、北朝鮮が期待する形で引き出すことができません。だから「壊れたATM」なのです。

もちろん、日本にとって拉致問題は極めて重要な問題です。しかし北朝鮮からみれば、拉致問題も国交正常化や将来の経済協力と結び付いた外交交渉の一部です。さらに北朝鮮は経済的に追い詰められて、日本との交渉を急がなければならない状況ではありません。

ただし、日本の価値がなくなったわけではありません。米朝関係が動き、国際制裁の環境が変われば、日本との国交正常化と経済協力は再び北朝鮮にとって大きな意味を持つでしょう。

北朝鮮からみれば、日本というATMは「故障していて使えない」。だから修理される条件が整うまで、急がず待っているということです。

《プロフィール》
アンドレイ・ランコフ 1963年、レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ。レニングラード国立大学を卒業後、同大学の博士課程を修了。北朝鮮の金日成総合大学に留学した経験もあり、北朝鮮の外交についての分析に定評がある。著書に「北朝鮮の核心——そのロジックと国際社会の課題」(みすず書房 2015年)など。

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