公職選挙法と情プラ法改正 情報は嘘か本当かより文脈の剥ぎ取りへ
13日、選挙に関するSNS上の偽情報対策を強化する改正公職選挙法と改正情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)が、参院本会議で与党と立憲民主、国民民主両党などの賛成多数により可決、成立した。一部を除いて来年3月1日に施行され、同4月に見込まれる統一地方選で適用される予定だ。
この法律が目指すのは、選挙期間中にSNS上を飛び交う偽情報や誹謗(ひぼう)中傷が、選挙の公正に与える悪影響を軽減することだ。
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直接のきっかけとなったのは、2024年11月の兵庫県知事選だ。パワハラ疑惑の渦中にあった斎藤元彦知事をめぐり、いわゆる「二馬力選挙」を展開した立花孝志被告(名誉毀損罪で起訴後勾留中)は、亡くなった竹内英明元県議への名誉毀損容疑で逮捕された。
これに呼応する形で、一般の政治系YouTuberらが対立候補への誹謗中傷やデマの切り抜き動画を大量に投稿。選挙期間中は再生数が跳ね上がる「バブル」状態になるとされ、収益目的の投稿が政治的な思想の有無にかかわらず量産される構図が問題視された。
再生数や閲覧時間に応じて広告収入が生まれる「アテンションエコノミー」に、選挙そのものが飲み込まれた瞬間だった。
やっていますという体裁作り
同様の問題は、その後も繰り返された。2025年7月の参院選、同年10月の宮城県知事選、今年2月の衆院選でも偽・誤情報の拡散が指摘され、与野党9党による「選挙運動に関する協議会」が2024年12月に発足。1年半以上の協議を経て、ようやく今回の法改正にたどり着いた。
改正の柱は二つ。改正公選法は、生成AIで作成・改変した画像や動画のうち、実際の撮影と誤認されかねないものに「AI作成」の明示を義務付けた。改正情プラ法は、SNS事業者に偽情報拡散の悪影響を軽減する措置と、その実施状況の年1回公表を義務付けている。
理由は単純だ。SNS事業者に課された「悪影響軽減措置」の義務。その中身が、法律のどこにも書かれていない。今後、総務省がガイドラインを定めるとしているが、実際に「何を偽情報と判断し、どう対処するか」は、X(旧Twitter)やYouTubeといった民間企業に委ねられる。つまり、判断も対処も完全な丸投げだ。
これでは「偽情報」のスムーズな削除すら怪しい。それどころか、間違って正しい情報が削除された場合、投稿者がどう異議を申し立て、どう是正させればいいのか……その手続きすら、法律には一行も書かれていない。決めていないのは対策の中身だけではない。対策が間違っていたときの直し方すら、決めていないのだ。
結局のところ、この法律がやったことは、対策の中身を決めることではない。「対策をやっています」という体裁を整えることだけだ。
切り抜き動画と文脈の剥ぎ取り
兵庫県知事選以来、SNSが選挙をゆがめているという批判は与野党を問わず噴き出していた。今回の改正は、その批判をかわすための答案としては十分に機能する。「与野党6党が合意し、罰則も設け、事業者に義務も課した」そう見出しに並べれば、いかにも手を打ったように見える。だが中身を開けば、基準も手続きも白紙のままだ。批判に応えたのは見た目だけで、実質は何も決めていない。
法律を作った気になって、実際は何も決めていない。これが、この改正の正体である。
そもそも、いま選挙戦で流通している悪意ある情報の主流は、真っ赤なうそではない。「切り抜き動画」と「文脈の剥ぎ取り」だ。
例えば、2025年7月1日、参院選(同20日投開票)を目前に控えた日本テレビ「news every.」の党首討論で石破茂首相(当時)がアナウンサーに向かって「なめない方がいい」と凄んだという動画がSNSで拡散された。
実際の発言は「団塊ジュニアが高齢化するっていうのを、あんまりなめない方がいいですよ。今、50代の人たちね」。というもの、つまり、団塊ジュニア世代が高齢化すれば社会保障費の負担が膨らむ、その現実を甘く見るなという話であった。
しかし「なめない方がいい」という部分だけが切り取られたことで「首相が女性アナウンサーをどう喝した」して拡散されたのである。
うそか本当かの二択で判断できない
別の事例もみてみよう。今年1月27日、百田尚樹・日本保守党代表は、衆院選公示日の第一声で「高市早苗首相が今後2年間で外国人労働者を123万人入れると言った」とぶち上げ、動画は15万回以上再生された。しかし政府が閣議決定したのは、2028年度末までの「受け入れ上限」123万1900人。
出入国在留管理庁は「現在の在留者数に加えて受け入れる数ではない」とはっきり説明している。すでに日本にいる外国人労働者を含めた合計の枠を、「これから新たに入る人数」と言い換えただけで、「移民をものすごい勢いで推進する政権」というイメージが出来上がった。
これが今、選挙戦のSNSで主流になっている手口だ。「うそか本当か」の二択で判定できるものではない。ところが今回の法律が想定している「偽情報」は、いまだに作り話やねつ造画像を取り締まる発想のままだ。カテゴリーそのものが、もう現実に追いついていない。
法律ができても、判定するのはガイドラインを盾にした民間企業だ。しかもそのガイドラインが想定しているのは、いまだに「作り話」の時代の偽情報である。切り抜かれた本物の言葉、前提を抜かれた本物の数字……そこにうそは存在しない。存在しないものを取り締まる基準など、誰にも書きようがない。
来春の統一地方選、あなたのタイムラインに流れてくる「衝撃の発言」は、本当にその文脈のままか。それを最後に確かめるのは、法律でも総務省でもない。再生ボタンを押した、あなた自身だ。
文/昼間たかし 内外タイムス






