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「英雄視」された脱北兵(後編)北朝鮮と韓国での飲酒運転発覚し暗転…今は米国で生活か

2017年11月、板門店の共同警備区域(JSA)を車で疾走し、北朝鮮軍兵士の銃撃を受けながら軍事境界線を越えて亡命した呉青成(オ・チョンソン)。重傷を負った呉を韓国軍が救出する場面は、世界的に報じられた。ところが、その後の言動によって、韓国社会での評価は次第に変化していった。

最初の転機となったのが、2018年11月に行った日本の産経新聞とのインタビューだった。脱北後初の大きなメディアインタビューとして注目され、同紙は一面で大きく報じた。

当時25歳だった呉は、北朝鮮について「世襲の体制を無理に神格化している」「若者に忠誠心はない」などと率直な意見を述べた。

「英雄視」された脱北兵(前編)銃撃受けるも命からがら韓国へ 体内から27センチの寄生虫

一方、韓国軍については、産経新聞には「軍隊らしくない軍隊だ」とする発言が掲載され、韓国内で大きな波紋を呼んだ。命がけで自分を救った韓国軍を侮辱したと受け止める声が広がったためだ。「恩を仇で返した」などと批判する声も出た。

もっとも、呉本人はこの報道内容を否定した。北朝鮮軍の服務期間が約10年なのに対し、韓国軍は当時約2年だったことを挙げ、訓練量について話しただけだと釈明した。さらに、産経新聞側から謝罪のメッセージを受け取ったとも主張した。しかし、批判は収まらなかった。

初の大きなメディアインタビューが日本の新聞だったことも、韓国内で複雑な反応を招いた。インターネット上には「北朝鮮へ送り返せ」といった極端な書き込みも見られた。

この発言報道をきっかけに、呉の韓国での生活ぶりにも関心が集まった。当時の韓国メディアは、呉が職に就かないまま車を2台購入するなど金銭管理に問題があり、生活苦に陥って基礎生活保障の受給者になっていた(東亜日報)と報じた。ただし、車2台の購入については、本人が否定している。

飲酒運転による事故で処罰を恐れて亡命

決定的な打撃となったのが、韓国での飲酒運転だった。

2019年12月15日、呉はソウル市で酒を飲んで車を運転し、警察に摘発された。血中アルコール濃度は免許取消水準に達し、2020年1月、警察から検察に送致された。

呉の2017年の亡命にも、実は「酒」が関係していた。

韓国の国家情報院は2018年1月、呉の亡命の経緯について国会に報告している。

それによれば、呉は亡命当時、軍の仲間と酒を飲んで事故を起こし、その処罰を恐れて軍事境界線を越えたという。国家情報院は、計画的な亡命というより、飲酒事故をきっかけとした偶発的な亡命だったと説明していた。これについては呉本人も認めている。

呉の亡命には、北朝鮮での飲酒事故が関係しており、韓国でも飲酒運転で摘発されたことで、世論はいっそう厳しくなった。

俳優のヒョン・ビンに似た風貌の呉は、脱北者が出演する番組「牡丹峰クラブ」(テレビ朝鮮)にレギュラー出演し、人気を集めていた。しかし飲酒運転の発覚後、番組側は呉の出演部分を編集・削除し、事実上の降板となった。

北朝鮮に残した母からの手紙に髪の毛の束

一方で、呉の韓国での生活が乱れた背景には、銃撃されたことによるトラウマや家族との別れもあったようだ。

2019年に出演したテレビ番組では、銃撃事件後の不眠や悪夢などが取り上げられた。呉は北朝鮮兵に追われる夢を見ることもあり、銃撃事件の後遺症として外傷後ストレスに苦しんでいたことが紹介された。

北朝鮮に残された家族との突然の別れも、呉にとって大きな負担になった。父親は北朝鮮軍の幹部で、呉の脱北の責任を取らされて「粛清」されたとの情報もある。

さらに呉の韓国での住所を知った母親が、手紙を送ってきたことがあるという。

その中には髪の束が入っていた。生きているうちに二度と息子に会うことはかなわないため、「自分の身体の一部を持っていてほしい」という、母親としての切実な思いからだったようだ。

「髪の毛の束を見て、呉は相当ショックを受けていた」と、呉と長い時間を過ごした友人は語る。

呉の携帯に無言電話がかかってくることがあった。「受話器の向こうに母がいるのではないか」と耳を携帯に押しつけて聞く姿を記憶している人もいる。

呉は、酒を断ち、自分の将来に役立てるため不動産に関係する勉強をしていると周囲に語っていたというが、2020年以降、公の場での活動は目立たなくなった。

脱北者が韓国で生きる難しさ

2025年12月、韓国の南北ハナ財団が、韓国に定着した脱北者を対象とした実態調査を発表した。

それによると、韓国での生活に「満足している」と答えた人は81.2%に上り、調査開始以来、最も高い水準となった。満足している理由としては、「自由な生活を送ることができる」との回答が最も多かった。

その一方で、過去1年間に「差別や無視を受けた経験がある」と答えた人も14.0%いた。

同じ民族でありながら、異なる教育や社会環境の中で育った脱北者にとって、韓国での生活は決して容易ではない。

自由を得た後も、文化や生活習慣の違い、経済的な問題、社会への適応など、さまざまな壁が待ち受けている。

筆者が本人に直接話を聞こうと連絡先を探したが、分からなかった。知人の一人は「女性とともに米国で生活しているようだ。韓国には居づらいのではないか」と話した。

文/五味洋治 内外タイムス

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