「研究によると」の一言で偽情報も拡散しやすくなる傾向 仏パリ政治学院がXの投稿870万件を分析
「研究によると」「専門家が指摘」「大学の調査では」といった科学的な権威を示す言葉は、SNS上で情報を広げる力を持つようだ。ただし、それは正しい情報だけに働くとは限らない。
仏パリ政治学院の研究グループは、ファクトチェック対象となった情報にリンクするX(旧ツイッター)の投稿870万件を分析し、科学者や大学、学術誌、研究などへの言及が情報の共有にどう影響するかを調べた。研究成果は2026年5月15日付で米科学アカデミー紀要「PNAS」に掲載された。
(https://doi.org/10.1073/pnas.2535823123)。科学への信頼は、偽情報の「もっともらしさ」にも使われてしまうのか。
研究チームが分析したのは、2010年から2023年にXで共有された投稿のうち、専門機関によるファクトチェックの対象となった記事や主張へのリンクだ。対象は5万6508件のURLに結びつく870万件の投稿で、これらは計3090万回リポストされていた。
研究では、記事の見出しに「科学的権威の手がかり」が含まれるかを調べた。ここでいう手がかりとは、科学者、医師、大学、研究機関、学術誌、「研究」「専門家」といった、科学的な専門性や根拠を連想させる表現を指す。例えば「研究者によると」「ハーバード大学によれば」「医学誌に掲載された研究では」といった表現だ。
科学らしい見出しほど共有されやすい
分析の結果、科学的権威を示す言葉を含む投稿は、含まない投稿よりもリポストされやすかった。具体的な科学者名や大学名、学術誌名など、名前のある権威を示す場合の方が、「研究者」「専門家」「ある研究」といった一般的な表現よりも効果は強かった。
ただし、重要なのは、この効果が誤りと判定された情報や、信頼性の低いサイトにリンクする投稿で目立ったことだ。ファクトチェックで誤りと判定されたリンクでは、科学的権威を示す言葉がある投稿の方が多く共有されていた。
一方、正しいと判定されたリンクでは、同じような言葉が共有を増やす傾向は確認されず、むしろ共有が少ない場合もあった。
信頼性の低いサイトにリンクする投稿でも、科学的な言葉があると共有が増えていた。研究チームは、科学的な権威が、内容を裏づける証拠としてではなく、読み手を納得させるための「もっともらしさ」として使われる場合があるとみている。
政治的な傾向による違いもみられた。米国の政治家アカウントのフォロー状況から利用者の政治傾向を推定した分析では、科学的権威を示す言葉による拡散効果は、右派寄りの利用者でより強かった。
特に誤りと判定された情報では、その傾向が目立った。ただし研究チームは、これは右派だけが科学的権威に影響されやすいという単純な話ではなく、どの科学者やどの機関を信頼するかが政治的立場によって異なる可能性があるとしている。
「ハーバード大学によると」はより共有したい意欲を促す
研究チームはさらに、米国の成人1187人を対象にオンライン実験を行った。参加者には、実際にファクトチェックされた見出しを示し、一部には「ハーバード大学によると」「研究によれば」といった科学的な出所を付け加えた。その上で、その見出しをどの程度共有したいか、どの程度正確そうに見えるかを尋ねた。
その結果、科学的な出所が付いた見出しは、参加者に「より正確そうだ」と受け止められ、共有したいという意欲も高まった。特に、誤った主張では、科学的な出所を付けることで共有意識が上がった。つまり、科学の名前が付くことで内容が信頼できるように見え、その結果として共有されやすくなると考えられる。
この研究は、科学そのものの価値を否定するものではない。むしろ、科学が社会的に信頼されているからこそ、その名前が偽情報の装飾として利用される危険を示している。「研究によると」と書かれていても、それだけで正しいとは限らない。誰の研究なのか、どのような証拠なのか、主張と根拠が本当に結びついているのかを確かめる必要がある。
研究チームは、単に「科学を信じよう」「出典を確認しよう」と呼びかけるだけでは不十分な場合があるとみている。科学的な権威を示す言葉は、正しい情報を伝える助けにもなる一方、偽情報を信じやすくする近道にもなりうる。SNS上の情報を見極めるには、科学らしい言葉そのものではなく、その中身を読む姿勢が問われそうだ。
文/吉田光男 内外タイムス






