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中学受験で大学名を先に決めたがる親たち——未来の子どもに残せるのはAIに依存せず「答え合わせ」できる力

2026年9月6日、日本経済新聞が「さよなら偏差値」と銘打った記事を出した。2050年に大学へ入るのは42万人で、いまより3割少ない。東大や早慶といった難関大の定員がいまの21万人のままなら、2人に1人がそこへ入れる計算になる、とそこには書かれていた。なるほどその通りである。

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大学への入り方は、既に先行して変わっている。文部科学省の集計では、2025年度に大学へ入った人の53.6%が、総合型選抜か学校推薦型選抜だった。書類と面接と小論文で、年内に合否が決まる入試である。2025年春には、私立大学の316校、全体の53.2%が定員を埋められなかった。

大学が18歳を一発勝負でふるいにかける仕組みは、もう半分終わっている。

ところが、受験は減っていない。場所を変えただけなのである。

明治大学は2019年の10年計画で付属の中学・高校を増やすと決め、東京・世田谷の日本学園中学校・高校は今春、明治大学付属世田谷中学校・高校として再出発した。日経によれば、中学入試の偏差値は2020年度の40〜41から、明治の付属になると発表したあとの2024年度には64〜68へ跳ね上がった。授業が変わったからではない。大学の名前が付いたからである。

付属世田谷から明治大学への推薦枠は年200人ほどで、1学年の7割にあたる。7割が推薦で上がるなら、明治に入るための試験は、12歳の中学入試でほぼ終わっている。

大学は偏差値を捨てたのではない。18歳で使えなくなったから、12歳のところで使うことにしたのである。

その名前に、親は6年間お金を払う。東京都が都内184校を調べた2026年度の私立中学の初年度の学費は、平均104万8034円だった。

それでも親は集まっている。今年の首都圏の中学受験者は5万2050人で、小学6年生の18%にあたる。大手塾の早稲田アカデミーは2026年3月期に通う小学生が4.9%増え、売上は7.4%伸びた。栄光ゼミナールの2025年の調査では、志望校選びで「大学への進学実績」を挙げた保護者は47.1%で、受験生の24.7%のほぼ2倍だった。進学実績を見ているのは、子どもより親のほうである。

私も、12歳で受験をした側の人間だ。だから親の気持ちは分かる。名前は、一度付いたら動かない。18歳の一発勝負より、12歳で確定させて保険として使うもよし、その後の受験にチャレンジするもよし、いずれにせよ選択肢が増える話である。

ただ、名前を確定させることと、それがその子のその後の人生の正解につながっているかは、別の話である。

採用する会社は、その名前を意外と見ていない

リクルート就職みらい研究所の「就職白書2026」が、新卒採用をしている1182社に「採用基準で重視する項目」を聞いている。「大学・大学院名」を挙げた会社は21.9%だった。

経団連が2022年1月に発表した会員企業への調査では、大卒に特に期待する知識の1位が「文系・理系の枠を超えた知識・教養」で84.7%。数理やデータサイエンス、AI、ITの専門知識は34.4%で、専門資格は16.4%だった。

親が12歳で確定させるのは大学の名前である。会社がいちばん欲しがるものは、名前では買えない。ここが、その子の人生にとっての正解と親の思いがズレるポイントだ。

大学名で入るはずの「最初の会社」が、先に変わっている

もう一つ、時間の問題がある。いま12歳の子が新卒として会社に入るのは、2037年ごろだ。しかも、大学名を使って入るはずだった「最初の会社」そのものが、いま変わり始めている。その入口を、AIが鈍らせはじめているのである。

米国のAI会社Anthropic(アンソロピック)が2026年3月に出した報告書によれば、AIの影響が大きい仕事では、22〜25歳の若者が職に就ける割合が、2022年に比べて14%下がった。25歳より上では下がっていない。若手だけが下がっている。

日本でも、共同通信が2026年4月に主要111社へ聞いた調査では、2027年度の新卒採用を「減らす」と答えた会社が23%で、「増やす」の16%を5年ぶりに上回った。

ただし、まだ多数派ではない。リクルートワークス研究所の6月の調査では、AIがあっても新卒の採用数は「変わらない」と答えた会社が68.8%だった。「AIが仕事を奪う」と言うには早い。だが、大卒が最初に入る場所から、先に狭くなり始めている。

親が12歳で確保しているのは大学の名前であって、就職内定のチケットではない。

私は、大学名ではなく高校名を見ていた

私は1999年から、携帯電話向けのインターネットの会社を作ってきた側にいる。

できたばかりの業界の小さな会社に、名門大学の学生は今ほどは来なかった。来るのは変わったことをやりたい学生で、大学名で選べるほど応募はない。もちろん難関校からの応募もあったが、私はインターンを採るとき、大学名ではなく出身の中学や高校を見ていた。

理由は単純である。大学で学んだことは、最先端の技術ほど早く古くなる。私たちが売っていた携帯電話向けの検索技術そのものが、数年で入れ替わった。

一方、高校までにやったことは古くなりにくい。数学、国語、英語、歴史。基礎の教養と呼ばれる分野で、どのレベルの仲間の中でもまれてきたか。それが、技術が入れ替わったあとにも残るものだった。

正しかったかは言い切れない。エリートが来なかったから、そうするしかなかった面もある。ただ、経団連の調査で84.7%の会社が挙げた教養は、私が高校名で見ていたものと同じだと思う。

もう一つ、自分がその場にいた話がある。今年5月、私は名古屋のある大学で、国際キャリア論の講義をした。

反応が大きかったのは、AI関連の先端技術の話ではなかった。39歳で二度目の起業をしたこと、46歳でシンガポールに移って会社を作ったこと。感想には「自分は安定に安心していた」「46歳からでも海外に出られることに衝撃を受けた」とあった。

AIに聞けば知識はすぐ手に入る教室で、学生が反応したのは知識ではなく、かつての私が下した決断の中身だった。

採る側で見ていたのは、基礎の教養である。教える側で足りないと感じたのは、それと似ているが別のもので、確かなものがそろう前に動く力だ。ベンチャーの世界で「ファーストペンギン」と呼ぶ、最初に海へ飛び込む側に立てるか。学生たちは、知識なら持ち始めている。持っていなかったのは、飛んでいい理由のほうだった。

AIにできること、子どもにしかできないこと

採る側と教える側の両方に立って、いま子どもに何を残せるかを考えるとき、先にAIにできることとできないことを分けておきたい。

AIが得意なのは、情報を集めること、整理すること、要約すること、そして答えを書くことだ。宿題の答えも、大学で習う知識の大半も、聞けば出る。

一方で、AIが自分ではできないことがある。現場に行くこと。人に会うこと。偶然に出会うこと。失敗すること。そして、自分の人生を生きることだ。

この二つの間に、一つの作業がある。AIが出した答えを、人間が自分の足と経験で確かめる作業だ。計算ドリルの答え合わせと同じで、別のやり方でもう一度解いて、合っているか確かめる。

いま子どもに残せるものを一つに絞るなら、私はこの「答え合わせ」を挙げる。AIが答えを出すほど、人には、その答えが合っているかを確かめる仕事が増えていくからだ。

確かめるには元手が要る。数学や国語の基礎がなければ、AIの答えのどこが変かに気づけない。私が高校名で見ていた教養は、その元手だった。

名門校でしか教えられないものではない。AIに聞いた答えを、食卓で子どもに「本当か」と確かめさせるだけでよい。「教養が84.7%」と言われたら、誰が何社に聞いた数字かを見に行かせる。

確かめたら、飛ぶ

ただし、確かめるだけでは動かない。

AIは答えを出すが、飛ばない。飛んで失敗するのも、その責任を取るのも、人間の側に残る。

私が39歳で二度目の起業をしたときも、46歳でシンガポールに移ったときも、細かい計算は合っていなかった。合っていたのは、世界はこちらの方向に動く、という大きな読みだけである。大きな読みの答え合わせが済んだら、細かいところがそろう前に飛んだ。

これを私は「勘違いする力」と呼んでいる。周りに言い訳をつぶしてもらい、同じように飛んだ人たちの中に入って、自分もいけると思い込む。思い込みだが、大きな読みの答え合わせが済んでいる思い込みは、根拠のある思い込みである。

名古屋の学生に「ホットスポットへ行け」、いま変化が起きている場所へ自分で行け、と話したのも同じことだ。自分の足で確かめに行くのは、AIには取れないものを取りに行くことであり、飛ぶ練習でもある。

記者に残った仕事が「書く」ではなく「取材に行く」だったのと同じで、子どもの仕事も「答えを出す」から「確かめに行く」へ移る。答えはAIが出す。確かめて、飛ぶのは人間の側に残る。

答え合わせができない子は、飛べない。答え合わせしかしない子も、飛べない。

名前は12歳で止まり、答え合わせは35歳まで積める

2027年に12歳で私立中学へ入る子は、2050年に35歳になる。

日経が「2人に1人が難関大へ」と書いた年である。その子は12歳で手に入れた大学名を持って、AIによって仕事の入口そのものが変わった社会を生きている。

名前は、決まった瞬間から動かない。答え合わせをする力と飛ぶ力は、決まったあとからいくらでも積める。

12歳で名前を決めるのは、6年先までの戦略だ。子どもに要るのは、35歳まで持つ戦略である。私が46歳で飛べたのは、12歳で何かを決めたからではない。

だから、払う前に見るものを一つ変えたほうがいい。推薦枠が何人あるかではなく、その学校が答えをどう確かめさせているかである。明治は推薦に、3年間の成績と英検2級という条件を付けた。一番高い保険を売っている側が、名前だけでは足りないと知っている。

答え合わせができる子は、名前がなくても採られる。名前があっても答え合わせができない子から先に、AIに席を取られる。

文/佐藤崇 内外タイムス

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